93話 血飛沫
荷物を置く必要もあるから俺達は一度家に帰ることにした。
ハーフの村に転移するにしても、初めは街の外で転移しようと思っていたけど、その場合は帰りもまた街の外からになるから家から転移することにした。門を出る時に確認されて、帰りを確認されなかったら怪しまれるからな。
「村に直接転移したら驚かれるだろうから近くにあった川に転移するぞ?」
「それが良いわね。結界に弾かれることはないと思うけど、念のためにね」
ルナが言うには普通の者が転移で結界内に転移しようとすると結界の外に弾き出されるか、罠が仕掛けてある場合などは無抵抗で捕まってしまうという事だ。転移も考えものだな。
俺達はルナがいるから例え直接転移しても村に入れるみたいだが、そんな話を聞いて試そうとは思わんな。
「それじゃ行くぞ? ――転移!」
皆が掴まったことを確認して転移の指輪を発動し、一瞬で景色が変わったのだが、
「きゃっ!」
転移した先でいきなり人にぶつかってしまった。
「すみません! 大丈夫ですか?」
「――ッ! ……え? 貴方は」
俺にぶつかった反動で後ろに倒れた女性に手を差し出し、その顔と声を聞いて、
「ミサさん?」
数日前に出会ったハーフエルフの女性だと気付いた。
そして周りには怯えた表情の子供達の姿があった。
まぁ、いきなり目の前に人が四人も現れたらビックリするよな。
「四人じゃなくて五人ね。ルナのことも忘れないで」
小声じゃない所を見るに姿を隠すつもりはないみたいだな。もう存在はバレてるしな。
「っ、精霊神様! ッどうか私達をお助け下さい!」
ルナに気付くなり膝を付いたミサさんが泣きそうな顔で懇願していた。ただ事じゃないみたいだな。
「何がありました? ッ、煙が上がってる!」
ミサさんに話を聞こうと膝を付いて目線を合わせようとした時、ミサさんの背後にある村の方から煙が立ち上るのが見えた。
「ジン様! 怒鳴り声と悲鳴が聞こえます!」
俺には何も聞こえないがフーカは村の方を指差しその表情が尋常じゃないと語っていた。
「俺とフーカが行く。リムリとリリカはここで子供達を守ってくれ」
「分かった!」
「うむ。リムリのことも妾が守ってみせるのじゃ。主様も気を付けよ」
「ルナはジンと一緒に行くわよ」
「あぁ。リリカ、もし襲われたらすぐに合図を送れよ! っと、あと――」
リリカの手を掴み魔力を送る。今のリリカは自分で魔力を回復出来ないから適度に回復させてやらないといけないからな。
「ジン様! 急いで下さい!」
フーカの声に焦りが見える。そんなにヤバい状況なのか。
「お願いします! 姉さんを、村の人たちを助けて下さい!」
頼まれるまでもない。
「フーカ掴まれ! ――転移!」
走る時間が無駄だ。眼前に見える村の入口まで転移してそのまま村に駆け込んだ。
村に入ると、すぐに男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「オラッ! さっさと観念しろ!!」
「っぐぁ、く、まだ」
「ケッ、男は別にいらんだろ。さっさと殺せ。逃げたガキ共探しに行くぜ?」
「そうだな。なら死ね! 奴隷種族!!」
村を駆け抜け広場になった場所に武装した男が四人、その周りに血を流し倒れている人が数名と奥に女性が集められているのが見えた。女性の周りにも盗賊のような風貌の男が五人ほどいた。
「全部で九人か。フーカ、俺が突っ込むから討ち漏らしを片付けてくれ! ルナは援護頼むぞ!」
「分かりました!」
「了解!」
二人の返事を聞き、今まさに止めを刺されそうな男性の前に転移し、
「そこまでだ! 虚空切り!」
振り下ろされた剣を弾き、隣に居た男共々虚空切りで切り飛ばし、
「な! なんだきさ――」
広場に居た残り二人の背後に転移して、フルンティングで切り裂く。なんの抵抗もなく切り抜いたフルンティングに軽く引いたが、驚くのはまだ後だ。
「ッ! なんだ貴様はッ!」
女性の周りに居た男たちも俺の出現に武器を構えるが、
「虚空切り!」
横一文字に放つ俺の虚空切りは座って集められていた女性たちの頭上を通過して盗賊の腰あたりを切断し、更にはその背後にあった家をも倒壊させた。……ここに悪は潰えた。
「やり過ぎでしょ。可哀想に、血飛沫被ってるわよ」
女性たちの位置が悪かった。囲んでいた盗賊たちが上半身とお別れをする際に出た血飛沫が噴水のように彼女達に降り注いでしまった。
もう、何というか――大惨事だ。誰が怪我しているのかもわからんぞ。
「ッ! せ、精霊神様! み、みんな! 精霊神が助けに来てくれたぞ!」
盗賊に斬られそうになっていた男性がルナの存在に気付いて叫んでいた。周りの人たちも歓声を上げて喜んでいる。――のだが、血まみれで膝を付きこちらを見上げられるとゾンビ映画を思い出す光景だった。
「ま、まだです、まだ、二人、いますっ」
女性に体を支えられたミオさんが絞り出すように声を上げた時、家の脇から二人の男が出てきた。
一人はハーフの少年の首を腕で締め上げ短剣を顔に向けて盾にしていた。
「お、お前! 何なんだよ!! ありえねぇ、一体なにやったんだよッ!!」
「クソ、ハルドもやられてんじゃねぇか! おっと! 妙な真似すんじゃねぇぞ! このガキぶっ殺すぞ!!」
盗賊二人は広場の惨状を見て青ざめており、少年を盾に徐々に後ろに下がっていた。
ククト・オイロ
人族LV19
盗賊LV9
イアスの短剣(神)
ダイバ・アワイテ
人族LV25
盗賊LV16
忍びの暗殺剣(神)
やっぱり持ってるよな。……さっきの奴らは確認しなかったけど、もしかして神具ザックザックか?
「(ルナ、姿消してアイツ等の武器を天送してくれるか?)」
「(いいの?)」
正直勿体無い気もするけど、フーカが様子を伺ってるし、危険は排除しておきたい。
「(頼む。――フーカ、聞こえるか? 武器を無力化するから消えたら右のヤツを頼む。俺は人質取ってる方をやるから)」
フーカの犬耳がピクッと動き頷いているのが見えた。……それなりに離れているんだが、よく聞こえるな。流石はフーカだ。
ルナが盗賊達に近づいても盗賊達はまるで気付いていない。ルナは神具キラーだな。知らないならまず回避出来ないし、知っててもルナの気配を感知出来ないなら回避不可だろ。
「(天送!)」
少年に向けられていた二本の剣を同時に神様の元へ送る。武器が光り、盗賊達が驚いた頃にはもう手元に剣はなく、右に立っていたククトは即座に腕を捻られ地面に顔面から激突していた。
「なッ! テメェ――」
「はい、チェックメイト」
フーカに気を取られたダイバの前に転移して、少年を締め上げている右腕となくなった神具を探す左手を同時に掴み、本気で握り潰す。
「ぐあぁぁっあぁぁぁ!!!」
「ヒィィィ!」
うおぉぉぉ、それなりに筋肉質な腕だったがペットボトルを潰すようにひしゃげてしまった。――気持ち悪い、今後は控えよう。
少年は拘束が解けたが、腰を抜かしたようにその場に座り込んでしまった。いや、邪魔なんだが。俺が移動した方がいいのか?
悶え苦しむダイバを引きずり少年から離すと、血まみれの女性の一人が慌てて少年に駆け寄っていた。そして俺に深く頭を下げていた。
フーカの方も当て身を入れたのか、ククトはぐったりして伸びていた。




