91話 最高の目覚め
目が覚めると暖かくて良い匂いの抱き枕を抱きしめていた。
柔らかくて抱き心地も抜群だ。誰が用意したのか知らないがこれからは毎日こうして寝ようかな。
「ぁぅぅ」
抱き心地がいいからギュッと抱きしめてみると胸元辺りから小さな声が聞こえて来た。何となくオチも見えたので最後に十分堪能してから目を開けて確認するとそこにフーカがいた。
「……おはよう」
「お、おはよう、ご、ござい、ます」
真っ赤になって困り顔のフーカが縮こまって俺の腕の中にいた。
「……おやすみ」
「えぇぇぇ」
もうちょっと堪能しよう。
「コラ! 起きたなら離れなさい!」
「そうじゃ! 羨ましいぞッ!」
頭を叩かれ見上げるとルナが頬を膨らませて見ていた。後ろにはリリカもいるみたいだ。
「……あと五分ー」
「い・い・か・ら、起きなさい!」
耳元で叫ばれ流石に目が覚めた。ちょっとキーンってしてるぞ。
「もう少し優しく起こして欲しいんだが」
「もう起きてたでしょ! フーカもリムリの手伝いがあるんだからね!」
「えっと、ジン様。良ければ離して貰って良いですか?」
「おっとすまん」
余りにも良い抱き心地に抱きしめたままだった。
「いえ、それでは私はご飯の支度を手伝って来ますね」
フーカがさっさとベットから降り部屋を出て行ってしまった。ちょっと調子に乗り過ぎたかな?
「ぬぬぬ、主様! 妾も抱きしめて欲しいのじゃ!」
リリカが身を乗り出してくるが、コイツとフーカでは意味が違ってくる。それに隣にいる精霊神様がとても怖いのだ。
「知るか。ほらそれより飯だ。さっさと行け」
「ジンのせいでリムリが一人で作ってるわよ。水は今日だけルナが準備したけど」
朝の水汲みはフーカの仕事だったな。外もいつもより明るい気がするけど。
「何で起こさなかったんだ?」
「なんでって。……ジンが気持ち良さそうに寝てたし」
「うむ。フーカも起こさないように抜け出そうとしておったが、フーカが動く度に主様の抱き着き方が執拗になって行くので大人しく起きるのを待っておったのだ」
いや、起こしてくれて良いんだが。でも、いい目覚めだったな。フーカとリムリには悪いが今後もお願い出来ないかな?
「じゃから妾が代わりに!」
お前じゃ別のところが起きるんだよ!!
「しょうがないからルナが代わりになってあげるわ」
……ルナじゃ潰してしまいそうなんだが。……出来ないこともないか?
「え? ちょっと――」
試しにルナをギュッと抱きしめて見る。うん。これはこれで。
「悪くないな。これぐらいだったら問題もないだろう」
「何と比べているのか分からないけど、まぁいいわ。満足したなら離してくれる?」
顔を赤らめたルナを解放して、次は自分だと言わんばかりに両手を広げているリリカを放置して台所に向かうことにした。
「あ、ご主人様おはよう! いい夢見れたでしょ?」
「ちょ! リムリン!!」
「おはよう。ああ、最高の目覚めだったぞ」
机に朝食を並べるリムリを赤くなったフーカがポコポコ叩いていた。……ちょっとリムリが痛そうだ。レベルの差を考えてくれよ?
「フーカ、それぐらいにしとけ。リムリが倒れるぞ」
「ぇ、あッ、ごめんなさい!」
「だ、だいじょうぶ。うん、へいき」
顔を引きつらせるリムリにルナがヒールを使いどうにか事無きを得た。
それから食事を済ませ、昨夜の予定通り市場へと皆で向かうことにする。
「フーカよ、妾が持っても良いのだぞ?」
「平気です。それにリリカさんじゃ荷物が入ったら持てないですよね?」
市場で買い物するのにアイテムボックスを使うわけにはいかないので、フーカにはいつもの巨大バックを背負ってもらっている。
今は何も入っていないから軽いが、見た目は虐待しているようだからな。
俺が持っても良いんだが、絶対にフーカが譲らないからな。それどころか俺が持つぐらいだったらリムリが持つと言う始末だ。リムリじゃ絶対に持てんだろ。
「それじゃ先ずは日持ちする乾物系からだな」
来る途中に皆で話合って金貨を返すより食材や絹などを買って行った方がいいだろうと結論が出た。
人里離れた隠れ里なら金銭を使う機会も少ないだろうし、街まで来て買い物することも出来ないだろうからだ。
「はい。それじゃこちらです。リムリンと一緒に買い物をしている店に色々ありました」
「あそこのおばちゃん、私達が買い物行ってもオマケくれたりするんだよ!」
市場に買い出しに来る奴隷は多いらしいが、フーカ達のようにハーフの奴隷はあまり居ないらしい。
だからと言って冷たく当たる商売人は居ないみたいだけどな。ま、奴隷だろうとハーフだろうと自分の店を贔屓にして欲しいだろうからな。
「おやぁ、リムリちゃん、フーカちゃん、いらっしゃい。ん? 今日は旦那様も一緒かい?」
フーカ達の案内で進むと露天のような八百屋のような店にたどり着き、椅子に腰掛けた初老のお婆さんが出迎えてくれた。
「初めまして。いつもこいつらがお世話になっているみたいで」
「ほっほっほ、お世話になっているのはこちらの方ですよぉ。二人共とっても良い子ですからね」
何でも朝の品出しの時などに手伝いをしたりしていたらしい。その他にも腰が悪いお婆さんの為にヒーリングを使ったり、イチャモン付ける悪党を追い払ったりしていたみたいだ。
俺の知らないところで一体なにやっているんだろうな。つか、オマケくれるって明らかにそれ等に対する報酬だろ!
「ま、いいや。これからもこいつらの事よろしくお願いします」
「ほっほっほ、聞いていた通りの良い旦那様ですの。こちらこそよろしくお願いします」
挨拶はこれくらいでいいだろう。この店は乾物以外にも野菜や魚まで置いてあるぞ。それもかなり新鮮だ。
「よし、ならリムリこれで買えるだけ選んでくれ」
「……この店で金貨を使おうって思う人はご主人様だけだよ?」
リムリにダメだしされたので銀貨十枚を代わりに出した。どうも金貨は使っていい所とダメな所があるみたいだ。基本安売りの市場で金貨を使ったら嫌がられるみたいだ。換金も手間だからな。
「ほっほっほ、随分と気前の良い旦那様ですねぇ。婆は計算が苦手ですからリムリちゃんが計算してくれるかい?」
「うん、分かった! 丁度になるように選ぶね」
「妾も手伝おう。計算は得意じゃ」
それからリムリとリリカがあれこれ計算しながらバックに食材を詰めて行くのだが、
「ちょっと待て! どれだけ入れるつもりだ! 本当に計算してるのか!」
リムリとリリカは商品をひょいひょい手に取ってはバックに入れていた。すでにバックは半分以上埋まっているのだ。お婆さんが計算出来ないことをいいことに入れまくっているようにしか見えない。それはないだろうけど。
「だってご主人様が銀貨十枚分買えって言ったじゃん! ……あ、そうか。ご主人様、これは小銅貨二枚で、こっちは銅貨一枚だよ」
リムリが見せてくれたのはキャベツみたいな野菜と乾物の入ったザルだ。そうか、金貨一枚って十万円か。野菜を十万も買えばそりゃ大量になるよな。
「理解したよ。口出しして悪かったな」
ただこのままじゃバックはすぐに一杯になるよな。……底にゲートを作ってアイテムボックスに流し込んで行こう。
その後もリムリとリリカがバックに商品を突っ込み恐らくバック三個分は入れただろう。相手がお婆さんで良かった。無限に入るバックに違和感すら感じていないみたいだ。
「よし! これで丁度銀貨十枚だね。はい、おばちゃん、代金ね」
「ええ、ありがとうね。こんなに沢山売れたのは初めてだよ。また来ておくれね」
「うん! また来るね」
「お騒がせしました。今後ともフーカ達をよろしくお願いします」
お婆さんの店だけでかなりの量になったが、まだ金貨一枚分なので買い物を続けることにしたのだが、
「――お金って中々減らないんだな。フィロの店で武器買った時は飛ぶように消えて逝ったのに」
絹の生地や日用品、食材などを買い漁ったが、それでも金貨六枚分しか使っていなかった。……まぁ六十万使ったと考えるとすげぇ使った気もするが。何か金銭感覚がおかしくなってるな。風呂の石に金貨五十枚使ったけど、前回の残りと今回の褒賞なんかでまだ金貨にして百八十枚分ぐらいあるし。しばらくダンジョン行かなくても食っていけるな。
「アオイ工房は貴族の中でも有名な武器商店だぞ。妾もあそこの武器を買うのには苦労したのじゃ」
「そうなのか? 俺とフーカは最初からあそこで装備を整えていたからな」
まぁ、フーカがフィロと知り合いだったからだけど。
でも最初に行った詐欺師の店はないと思うぞ。商品自体は見ていないけど。
「ご主人様? 一度に全部使わなくても良いんじゃないの? こんなにあっても困るんじゃないかな?」
確かにすでにバック十個分を超えているだろう。生地とかはいいだろうけど、食材は買い過ぎてもダメにするからな。
「なら一旦これで行って、向こうで欲しい物をそれとなく聞き出してから、また今度持って行こう」
「(それが良いでしょうね。どうせ転移ですぐに移動出来るんだからたまに持って行ったら喜ぶでしょう)」




