90話 巨大ベッド
食事を終えて先に帰るアオイにミニャが同行して、フィロは後片付けを手伝うと言ってフーカ達と台所で洗い物をしていた。
「俺達は布団を部屋に運ぶぞ」
浴槽を作っている最中にリムリとリリカが購入した布団が届けられていたので、現在は玄関先に置いたままだった。それをアイテムボックスに収納して各部屋に置きに行くのだが。
「妾のはこっちに」
「ルナのまであるし。ならここで」
「フーカとリムリはここで良かろう。ん? どうした主様」
「いや、……これは一体何なんだ?」
俺の目の前にはデカい枠組みに敷き詰められて部屋を占領している巨大なベットがあった。
ここって俺の部屋だよね? なに、これ?
「主様が妾達の布団を買って来いと言っておったのでな。ついでに主様の寝具も新調して置いたのじゃ。これなら皆で一緒に寝れるであろう?」
確かに寝れるだろうな。通常のベットを五倍にしたようなベットだ。その中央に一つ枕が置かれ、その周りを囲むように色違いの枕が並べられていた。ルナとリリカが設置していた枕だ。
中央が俺のらしいので俺を囲んで皆が寝るみたいだ。……ちょっと寝づらそうだ。
この巨大ベットも布団と一緒に届けられ、俺が浴槽を作っている最中に怪我を治したリリカとリムリで組み立てていたらしい。
「って、お前らには自分の部屋があるだろう」
「妾達の居場所は主様の隣なのじゃ。別に良いであろう? ――家族なのじゃから」
頬を赤らめながらリリカが呟いていた。
はぁ、もうどうにでもなれ、だな。
「ジン、私も帰るわよ、って何これ? 皆一緒に寝ているの?」
洗い物を終えたのかフォロがフーカ達と一緒に部屋に来たのだが、巨大ベットを見て呆れていた。
いや、俺の意思じゃないよ?
「ふっふっふ、良いでしょ。リリカ姉と選んだの。これでみんな一緒に寝られるね!」
「リムリンとリリカさんが何かしてたのは知ってたけど……」
得意気なリムリと少し恥ずかしそうなフーカを横目にフィロがため息を付いていた。
「まぁジンなら問題ないわね。お風呂もそうだけど、さっきの事といい、今日は色々驚かされるわ」
俺もこれには驚いたんだが。まぁいいか。
「アオイにも言ったけど風呂は好きに入りに来ていいぞ。飯は先に言っといてくれたら材料を用意しとくけど」
「そこまで頼めないわよ。フーカ、リムリ今日の御飯美味しかったわ。ありがとうね」
「私はリムリンを手伝っただけです」
「また食べに来てね」
皆でフィロを見送って改めて部屋に戻って来た。もう俺の部屋というか皆の部屋だな。
「さて、それじゃ寝る前に明日の予定だが」
「ダンジョンですね!」
「フーカ落ち着きなさい」
何時になくやる気満々なフーカの頭を撫でる。リリカに触発されたみたいだが、
「明日のダンジョンは中止だ。ミニャが持ってきた情報に丁度良さそうな物がないからな。ダンジョンは明日ギルドに行って他の場所を聞いてから明後日行くことにしよう」
二十階層でも問題はないとは思うが、リリカもいるし先ずは低層でレベルが上がり易くなったか確かめるべきだろう。
「別にこの辺りのダンジョンでも問題ないのではないか?」
リリカがミニャが持って来た羊紙を見ながら言っているが、リリカが見てるの三十階層の分じゃね?
「先ずは十階層辺りでリリカを鍛えるのが先だ。いきなり深い階層に行って魔物が大量発生したら守ってやれないかも知れないからな。自分の身を守れるぐらいは強くなってもらうぞ」
「主様やフーカには負けるかも知れんが、自分の身を守る事ぐらい出来るぞ。そこまで足でまといになるつもりはないぞ」
「私はまだリリカさんと一緒に戦ったことがないので、ある程度慣れてから深い階層に行きたいです」
フーカは流石だ。リリカはバカだ。
「なにやら酷いことを思われておるようじゃが、二人とも明日制覇することを前提に言っておらんか? 例え三十階層でも十階層辺りまで攻略してから帰っても良いのじゃぞ?」
ま、正論だな。もっとも十階層のダンジョンの一階層と、三十階層のダンジョンの一階層では三十階層の魔物の方が明らかに強いとミニャが言っていたが。
「もちろん明日で必ずダンジョンを制覇するって思っているわけじゃない。流石に三十階層になったら二日は掛かるだろうからな。だけど取り掛かる以上制覇を目指す。中途半端な真似はしたくないからな。だから先ずはその準備の為にリリカを鍛えるんだよ。十階層だろうと制覇すれば自信にも繋がるだろ。前回は十五階層だったけど後半は俺がやったからな。次はリリカにボスを倒させるからな?」
フーカも一人で倒したんだし、リリカにもやらせてみよう。
「……主様? それはダンジョン最下層のボスを妾一人で倒せと言っておるのか?」
「私は十階層のボスを一人で倒しましたよ。少し時間が掛かってしまいましたけど」
「…………普通、ボスはチーム一丸となって死力を尽くして討伐するものではないのか? 個人で倒せるなら向かうダンジョンが間違っておろう。というか、二人は貴族に混じって深層迷宮を目指した方が――」
「イヤ」
「いやです」
何が悲しくて貴族と一緒に戦わないといけないんだよ。やるなら俺達だけで攻略するよ。
「……なるほどの。――分かったのじゃ。妾は主様に全てを捧げた身じゃ。主様がやれと言うならボスでも何でも倒せるようになって見せるのじゃ!」
「ま、無理そうなら後方支援を頼むからあまり気負うなよ? 俺の考えが当たっていればリリカもすぐに強くなれるさ」
リリカはある程度レベルが上がっているからフーカに並ぶのは難しいだろうけどな。
「妾は主様を信じておる。必ずや強くなって期待に応えるのじゃ」
「私ももっと強くなります!」
「ご主人様! 私も!」
「リムリも一度連れて行きたいけど、先ずはリリカだな。リリカが役立たずだったらリムリが俺達とダンジョンに潜ってリリカは家事な」
リムリはレベルが上がり易いはずだからリリカが失敗だったら考えてみるか。……リムリって戦えるのか?
「ぬ、主様、酷いぞ。いや、家事も大事な事だとは思うが。妾は家事などやったこともないぞ」
リリカが落ち込んでしまった。貴族のお嬢様に家事ができるとは思っていないけどな。やはり家のことはリムリに任せるべきか。
「それでジン? 明日はダンジョンに行かないとしてもやることがあるんでしょ?」
流石はルナだ。俺の思考は筒抜けのようだ。
「あぁ、どうせだから明日はハーフの村に行ってみようと思う。転移があるからすぐに行けるし、市場で食材とかお土産買って行こう」
金貨を返すのと食材を金貨の分買って行くのとどっちがいいだろ?
「そ、それでは妾は留守番なのか? 頭巾を被っておるから一緒に行ってはダメか?」
シーツを頭に被り自慢の耳を隠すリリカに思わず笑ってしまった。――そうだな。
「条件は二つだ。村人が拒絶したらすぐに帰ること。高圧的な態度を絶対に取らないことだ。貴族だとバレた時点で強制送還だからな?」
「わかったのじゃ! 元より主様が恩を受けた者達にそのような態度を取るつもりはない。嫌がられるなら大人しく身を引こう」
リリカも納得するならいいだろう。村人が怯えたりするようだったら家に送ればいいし。
「よし。なら皆で行こう。朝から市場に行って、買い物が済んだらすぐに向かうぞ」
「「はーい!」」
フーカ達の返事に頷き、改めてベットを見る。……寝たいけど、俺は自分であの真ん中に寝転がるのか?
「どうしたのじゃ? もう寝るのじゃろ?」
「ご主人様ぁ、こっちこっち!」
俺が戸惑っているとリムリがベッドに寝転がり俺の枕をポンポンしていた。
「……寝るか」
「ふふ、そうね。ルナも疲れたわ」
「ジン様、こちらに」
楽しそうなルナと少し恥ずかしそうにしているフーカに手を引かれてベッドに入る。
「……なんじゃか、妾だけのけ者じゃのぅ」
リリカは遅れてベットに入って来た。
中央にゴロンっと寝転がり、右を見るとフーカが、上にリムリが、左にルナが。足元は見えん。
「主様酷くないかの?」
「何も言ってないだろ」
「いや、皆の顔は見渡して妾の顔は見ないのかのぅ?」
めんどくせぇ。上体を少し起こすと満面の笑みを浮かべたリリカが手を振っていた。
「おやすみ」
「「おやすみなさい」」
「やはり妾にだけ厳しいと思うのじゃ。うぅ、おやすみじゃ」
リリカの言葉に皆が笑い、静かに夜が更けていく。
「にゃはー。お風呂はいいものでしたにゃねぇ」
「ええ。私も久しぶりに羽を伸ばせたわ」
最後に仁君が変な真似しなかったら完璧だったけどね。彼は私達が居るって分かっていながら手の内を晒す真似を平気でするわよね。お風呂も好きに来て良いって言ってるし。
「アオイ様はいつも羽を伸ばしている――いえ、何でもありません」
この猫は変なところで仁君に似てきたわね。それにしても、
「これっていつものヤツかしら?」
家に帰るとミニャもそのまま付いて来たからお茶を入れさせたけど……不味いわ。やっぱりフィロの入れてくれるお茶が一番ね。
「入れろって言うから入れたのに……」
「何も言っていないわよ?」
「顔に書いてありますにゃ。私はリムリちゃんみたいに料理が得意ってわけじゃないですにゃ」
お茶って料理に分類されるの? でも、彼女が食後に入れてくれた紅茶も美味しかったわね。食事も最高だったし、至れり尽くせりね。
「仁君はいつもあんなに美味しいご飯食べているのかしらね」
「んー、そう言えば前にジンにゃん達を結合ダンジョンに助けに行った時、階層の途中で火を起こして肉を焼いて食べた跡があったにゃね」
「……は? ダンジョン内で? いえ、ない事はないわね。遠征の時なんかはそれなりに調理もするって話だし」
もっともそれは数十人規模の深層迷宮を攻略する際の話だけどね。数人の冒険者チームじゃ安全を確保出来ないからそんな魔物を集めるような真似をしてまで、料理を作ろうと思わないでしょう。
「にゃっはっは。ジンにゃんは普通の冒険者の枠にはハマらないにゃ。領主様のところでも何かやったみたいで領主様が勲章を授けたみたいにゃ」
へぇ、あのガイアスがねぇ。地方の領主が授ける勲章なんて大した効力はないでしょうけど、それでもこの辺りでなら仁君に表立って逆らえる貴族は居ないでしょうね。
「……ミニャ、ガイアスに掛け合って仁君の家の所有権を貰って来なさい。仁君がダメなら私宛てでもいいから」
「にゃ! あ、アオイ様が表に出るにゃか?」
「違うわよ。家の権利だけよ。仁君の所有に出来るならそれでいいけど、ダメなら私の所有にしときなさい。貴族が攻撃するならその辺りでしょ。所有権を手に入れれば別の家を充てがうこともないでしょう」
あのお風呂が他人の手に渡るなんて想像もしたくないわ。それにあの家はどっかのバカが改造した要塞だからね。仁君にピッタリの最良の家ね。
「ふにゃー、アオイ様はジンにゃんには優しいにゃね」
「あら? 私はあなた達にも優しいと思うわよ? どう? 久しぶりに稽古付けてあげようか?」
「え、遠慮するにゃ。そ、それにしてもフィロ姉遅――」
「ただいまー」
「帰って来たわね。こっちよ、悪いんだけどお茶入れてくれる?」
「アオイ様それで優しいつもりですかにゃ?」
一応全部飲んだんだから良いでしょ。それに次の一杯はフィロを肴に楽しく飲むんだから。ふふ、洗いざらい喋ってもらおうかしらね。




