84話 風呂は偉大なり。その一
「(ジンどうするの? 諦める?)」
「……ジン様」
「そう悲しそうな顔をするな」
フーカの頭を撫でながら次の一手を考える。諦める? ハッ、ありえねぇ。あんな言われてタダで引き返せるか。ドワーフの技術? 風呂にうんなもんいるかっっっ!!!!!
そもそも風呂ってなんだ? 人が入れる大きさの桶があればあとはお湯を入れるだけでいいだろ? まぁ桶じゃ耐久性に難がありそうだが。
「フーカ、家の水ってどうなってるんだ?」
良く考えたら水道なんてないよな? でも料理とかで使ってるし、汲んで来てるんだよな?
「家で使っている水は近くの井戸から汲んで来ています。奴隷の朝一番の仕事が水汲みですので私が毎日汲んでます」
フーカの話では最初はリムリも一緒だったけど、フーカ一人で樽に汲んで来たら終わるのでリムリは朝御飯の準備をしているそうだ。
「……すまん。気付かなかった。いつも苦労掛けてゴメンな」
いつもより余計に頭を撫でておく。
「い、いえ。これは普通のことです。ジン様は気にしないで下さい」
気にするだろ。と言うか浴槽を持って来たらフーカの仕事が増えるだろ。
「(ルナ、魔法で水出せるよな? お湯も出せる?)」
「(お湯は……難しいかも。水を出すことはできるわよ。今度からルナが家の水貯めようか?)」
「る、(ルナ様、出来れば私の仕事を残して頂けると)」
仕事が減ることを嫌がるってどうなんだろうな。
「(なら風呂の水を貯めるのはルナに任せよう)それで家の水はフーカに任せるぞ。でもキツい時はルナにお願いしろ。いいな?」
「はいっ!」
うん。いい返事だ。……俺は何もしないのにすげぇ偉そうだ。……今度水汲み手伝ってみようかな。
「絶っ対にダメですからね?」
「――はい」
「(何やってんのよ)」
……さて、これで水の心配はしなくていい。次は沸かす方法だな。鉄製なら下から沸かして五右衛門風呂でいいと思ったけど、家の中で沸かすのは焚き火はマズイと気付きました。そこで、助けてルナえもん!
「(水に火炎を入れたら沸くかしら?)」
「(消えるんじゃないのか? 水を蒸発させるぐらいの威力があれば水を多めに用意すればできるかな)」
火を使うなら木製の浴槽じゃ焦げる可能性があるかな。鉄製の水溜で沸かして木製の浴槽に入れ直したらいいか。鉄製で思い出したんだが、あそこで作ってもらうのはどうだろう。
「よし、お湯もある程度目処は付けれそうだ。次は本命の浴槽だ。大きさは最低でも足が伸ばせるサイズだ! ルナとフーカは要望あるか?」
「(ルナは小さいからジンが入れるならその脇で浸かるからいいわよ)」
「え? 一緒に入るんですか? ……な、なら私はジン様と一緒に入れる大きさにして欲しいです!」
珍しくフーカが大胆に来たな。やはり風呂は人を熱くするんだな。
「話は聞いたぞ、主様。妾は皆で入れる大きさを熱望するぞ」
「私も! 水汲みも沸かすのも手伝うから皆で入れる大っきなやつがいい!」
いつの間にか後ろにリリカとリムリがいた。フーカとルナは気付いていたみたいだな。俺は風呂を熱く考え過ぎてまったく気付いていなかったんだけど。
「ていうか、混浴は決定なのか」
「主様、そんなわけなかろう」
あ、そうなんだ。まぁそうだよな。
「男は主様以外ダメに決まっておろう。主様の女湯じゃな」
「(ジンの女湯ね)」
「頑張ります!」
「楽しそうだね!」
……よし! 浴槽を探すとするか!!
それから街で木製品を作っている所に話を聞きに行ったが水を貯め人が入れるほどのタライは難しいと言われ、鉄製の物に木の板を貼り付けるしかないかと思いながら街中を歩いてると石材屋があった。
中を覗くと大理石の様な石があったのでこれを加工して並べることで浴槽になるのではと思い、話をしてみると隙間から水が漏れるだろうと言われた。しかし、日本の風呂屋にもこんな石を使った風呂はある。
隙間から水が漏れなければいいんだ。そこで高温を加えると溶け、冷えると固まるという砂をもらい、ルナに熱してもらって溶かし石の隙間に塗りたくって冷やし、くっ付くか試した。結果は見事成功。どれくらい持つかわからんが、石は並べれば動くことはないだろうから水漏れさえ防いでくれれば問題ない。
それから店にある大理石を全部買取り風呂に入る大きさのブロックに大理石を加工してもらう。切るのに時間が掛かると言われたのでフルンティングに魔力を込めスパスパ切断していく。職人達から驚きの声が上がるが無視だ。切断した大理石を職人総動員で研磨してもらい、数時間で完成するとのことだが、俺にはまだやるべきことがある。
「皆はここを手伝ってくれ。俺はちょっとフィロの店に行ってくる」
「分かりました」
「ルナは付いて行くわよ」
それからルナとフィロの店へ急行。
「フィロ! アオイはいるか!」
「うわっ、ビックリした。なに? 店主が出てくるわけない――」
「アオイさん! 居るんだろ! 湯船に浸かりたいなら出てきてくれ!」
「ちょ、ジン。そんなんで出てくるなら苦労しな――」
バッタン! という音と共に扉を開け放つアオイの姿があった。
「――なに?」
「――設計図は書いて来た。日本語読めるよな? こんな感じで鉄箱を作って欲しいんだけどできるか?」
推定二トンは入る鉄製の水タンクだ。ルナが水魔法を使って二回で半分ぐらい貯まる予定だ。それを今度は火炎で熱するわけだが、効率良く温めれるように工夫を施し、温まったお湯を落差で浴槽へ流し込めるようにしてある。お湯が冷えづらくなるように二重構造や、内部の鉄自体を熱して温度を保てる工夫も書いている。複雑にはしていないが、正直アオイがどこまで作れるか分からない。
「……これに入るの?」
「いや、今大理石を絶賛研磨中だ。それがあと数時間で終わるから、あとはそれを並べて隙間を埋めれば大理石の風呂が完成する予定だ。この鉄箱は水を沸かす用だ。大理石で作るなら要らないかと思ったけど、これを使えば蛇口が用意できるだろ。設計図に色々書いたけど、どこまで作れそうだ?」
図面には昔テレビで見た蛇口の構造を分かる限り詳しく書き、それが無理な場合用に単純な作りのコック式も書き記してある。水タンクの横に蛇口を付けることで浴槽に入る前の体を洗う用のお湯も蛇口から落差で出るようになるのだ。
「……たぶん、作れる。材料もすぐに用意できると思う。――魔法で水を温めるつもりね。……いえ、水も魔法で用意するのね。……なるほど、面白そうじゃない。私の報酬は定期的にお風呂を使わせてくれるってことで良いのかしら?」
「遠出したりダンジョンで遅くならない限り、毎日風呂を用意するつもりだ。いつでもどうぞ」
俺が差し出した手をアオイはしっかりと握った。こうして正面から落ち着いて見ることがなかったから気付かなかったけど、この人かなりの美人だ。二十代だろうけど肌も綺麗だな。鍛冶師には到底見えん。
「――交渉成立ね。任せなさい、そっちの準備が終わる頃までに完成させるわ。フィロ、今日は店じまいよ。手伝いなさい」
「……何なの? こんなにアオイが燃えてる事なんてここ数年なかったわよ?」
フィロが慌ただしく戻って行くアオイの後ろ姿を見て呟いていた。やっぱり風呂が欲しかったけど諦めた一人だったんだな。




