43話 金銭感覚
「ジン様、起きて下さい。朝ですよー」
「ん? んー、あと五分」
「ダーメーでーす! 今日はダンジョンに行くんですよー。早く起きて下さい!」
「フーちゃん、そんなんじゃダメだよ。ご主人様には、――これくらいしない、とうっ!!」
「ぐへぇ! て、てきしゅうー、バタッ!」
いきなり腹の上に重たいものが落ちてきた。状況から考えてリムリがダイブしたんだろうけど。とりあえず気絶ということであと十分ほど。
「こらー寝るなー! 今ので起きたって分かってるからね!」
「り、リムリン、とりあえず降りよう! ジン様に失礼だよ!」
「フーちゃんは甘い! ご主人様はこれくらいのスキンシップを望んでいるんだよ! だからフーちゃんも来なさい!」
リムリは昨日の今日で驚くほど積極的だな。俺として普通に接してくれるのは嬉しいけど。でも流石の俺でも腹の上でもぞもぞされながらお話されると別の意味で危ないのだが。
「で、でも。私、ちょっと最近食べ過ぎてるから」
「大丈夫だよ、フーちゃんが一杯食べて太ってもご主人様は健康的で可愛いって言うよ。ねぇ?」
「そうだな。というかフーカはよく動くんだから気にしなくても――あ」
「はい、ご主人様おはよう! さ、起きて起きて!」
「まんまと嵌められたか。おはようフーカ、リムリ。……ん? フーカどうした? 俯いて」
「い、いえ。何でもないです。おはようございます」
「フーちゃんはご主人様に可愛いって言われて恥ずかしがってるだけだよ」
「リムリン! もお、なんでリムリンはそんなこと言うの! ジン様に失礼でしょ!」
「おいおい、ケンカするなよ。リムリもあんまりフーカをからかうなよ。フーカはもう少しリムリを見習ってもいいけどな。別に俺を敬う必要とかないぞ? 家族だと思ってもっと普通に接していいぞ」
「は、はい。頑張ります」
「良かったねぇ。それじゃ、ご飯にしゅっぱーつ! 今日の朝ご飯は私とフーちゃんで作りましたぁ。ご主人様! フーちゃん料理するの上手いんだよ!」
「リムリンの方が上手いでしょう。私もリムリンぐらい上手くなりたいな」
フーカにも料理スキルがあるから上手くなるだろうけどな。しばらくは内緒にしとくか。
「んー。騒がしい、ってルナを置いて行かないでよー」
目を擦りながらフラフラと飛んできたルナをキャッチして肩に乗せてやる。
「ルナ様おはようございます」
「ルナっちおはよー! ルナっちは姿消してたら私達には見えないから、どこいるかわからないんだけど」
「あー、ごめん、昨日ジンの部屋に忍び込むのに気配を消したままだったわ」
昨日はフィロとの食事を終えて家に帰ると半泣きのミニャに出迎えられて、「マジで終わらないのぉ手伝ってぇ」と泣きつかれ、仕方がないのでミニャを許し、俺達がダンジョンに行っている間にリムリが掃除をしておくことになったのだ。
初めは俺達も手伝うと言ったのだが、「ご主人様のお仕事はダンジョン攻略で、私のお仕事はお家の攻略です。掃除洗濯炊事に雑用、私は一通り熟せますから任せて下さい。フーちゃんはご主人様のサポート任せるからね」とこちらにグウの音も出させないやり手の家政婦さんだった。
それでミニャに手頃なダンジョンを見繕ってもらい、通常の十階層ダンジョンが近場にあったので、今日行くことにしたのだ。
ミニャ曰く、俺達なら二人(ルナはいないものとして扱って貰っている)でも、十階層を攻略できると言われた。結合ダンジョンの五階層程度の魔物しかいないと言われたが、蟻しかいなかったから実力が全然分からなかったけど、ミニャとフィロに太鼓判を押されたから大丈夫だろう。
その後、二人が帰ってから部屋を決めることにしたのだが、なぜか全員同じ部屋と主張され、せっかく部屋があるのに勿体無いだろうと、俺が部屋割りをすることになった。部屋割は俺が一番大きな部屋をもらい、フーカとリムリが相部屋、ルナは一応フーカ達に押し付けたのだが、いつの間にか俺の部屋に入っていたみたいだ。
「リムリン、ルナ様に失礼だよ」
「なんで? ルナっちが良いって言ってるんだよ?」
昨日の夜リムリにもルナを紹介したのだが、初めはフーカ同様恐縮しまくっていたが、普通に接していいと言われて、徐々に打ち解け、今では十年来の友達の様に接している。……これが精霊使いの実力か。
「フーカも気軽に接していいのよ? 私達は家族なんだから」
俺が家族家族言っているからか、ルナもそう言うようになって接し方も前より柔らかくなった気がする。
それでも悩むのがフーカだ。まぁゆっくりと慣れてくれればいいんだけど。
リビングに移動するとテーブルに湯気が立ち上るスープにほんのり焦げた魚、真っ白なご飯が四人分置いてあった。
「おぉ! ザ・朝食。この世界にも米があって良かったよ。流石に味噌はないかなぁ」
「ご主人様はお米が好きだろうって聞いたから用意してみたんだけど、良かったねフーちゃん、喜んでくれてるよ!」
「う、うん。ほとんどリムリンが作ってたけど……。で、でも私も頑張りました!」
「あぁ、ありがとう。とっても嬉しいよ。それじゃ冷める前に食べよう」
「ご主人様が早く起きないから冷めるんだよ?」
「リムリン! 失礼なこと言わないの!」
は、ははは。リムリは辛辣だな。……これからは早起きしよう。
「そ、それじゃ食べようか。……頂きますっ!」
「「頂きます」」
先ずは魚だな。この世界の魚は日本で見た魚とは形が違って少し抵抗があるけど、食べて見ると普通に魚だ。
「んッ! 美味い! 塩気が丁度いいし、身も柔らかいな。…………あれ? そう言えば食材渡してなかったよな? 買って来てくれたのか?」
昨日はいろいろバタバタしていたので買物した物は全部アイテムボックスに入っているはずだった。
「はい。魚は今朝リムリンと朝市で買って来ました。この街では一般的に食べられている魚みたいです」
「調味料と食材は少し、昨日の夜にルナっちにお願いしてご主人様のボックス? から出して貰ったよ」
俺が寝ている間にルナが腕輪を使って出したのか。
そうそう、フーカとリムリに空間の腕輪を使わせて見たところ、正常に機能しなかった。空間は出せるけど、中に入っている物を選べず、ランダムで取り出す感じだった。ルナは普通に使えていたので、やはりユニークスキル、神の使徒と神の従者が関係しているのだろう。
「そうか、朝からすまんな。金は足りたのか? 魚介類って少し高かっただろ?」
「はい、以前預かっていたお金がありましたので大丈夫でした」
「でももうあまりないだろ? リムリにも預けるから必要な物は適当に買って来てくれ」
二人に金貨を一枚ずつ渡すと二人して目を丸くした。
「あ、え、えっと、ジン様、銀貨と間違えてます、よ?」
「ん? 金貨を渡したんだぞ。足りないか?」
「はは、奴隷に金貨持たせる主人って初めて見た。私はまだ一日目だよ?」
「いいだろ、別に。持たせて困ることでもないし。むしろリムリは今日買物もするならあと数枚渡そうか?」
「いやいやいや! そんなに買わないから! これでもお釣り来るから! というかせめて銀貨十枚にしてくれないかなぁ。落ち着かないし、市場で私が金貨出したら驚かれるよぉ」
金貨を戻すリムリに代わりに麻袋を渡した。中には銀貨十三枚と大銅貨四枚、銅貨五枚が入っている。金貨以外を入れていた俺の小銭袋だ。
中を確認してリムリが複雑そうな顔で俺を見るが気にしないことにした。
「二人共早く慣れなさい。これからはジンに代わって二人が財布の管理することになるんだから」
「「ッ!?!?」」
ルナの言葉は俺がこの世界の文字が読めないから代わり支払う必要があるって意味だったと思うのだが、二人とも顔を引きつらせて青くなっていた。
「ち、ちなみにご主人様は今いくらぐらい持ってるの?」
「ちょ! リムリン! それはいくらなんでも「さっき細かいのはリムリに渡したから金貨八十四枚かな?」…………」
いや、別にそれくらい教えるよ? 少ないって言われたら困るけど。
「そう、ですか。えーと、できれば必要になる分をその時々で渡して欲しいんですけど?」
「ああ、もちろんだ。金貨は重いしな。数枚ずつ渡す様にするから必要な時は言ってくれ」
二人が納得したのだろうと思って笑顔で頷いたのだが、「金貨が数枚? 数枚ずつ渡す?」とブツブツ言っていた。
そんな感じでちょっと混迷した朝食だったが、美味しく頂くことができた。やはり料理スキルは必須だな。




