41話 アオイの陰
「クジョウ様、ありがとうございます。私ではリムリの言葉を聞き出すことはできませんでした」
泣き止んだリムリに身支度をさせる為に下がらせると、ドリオラさんが深く頭を下げた。
「いや、今まで頑張ってきたのはドリオラさんでしょう。貴族相手によくやるなって関心しましたよ。というか、ドリオラさん奴隷商に向かないでしょう?」
「ははは。昔、同じことを言われたことがありますよ。ですが、だからこそ、私が奴隷商を続けなくてはならないのです。奴隷だからと不毛な扱いを受けていい者ばかりではありません。――リムリはかつての友が残した遺児です。どうにか手元に取り戻すことはできましたが、奴隷の印を消すことは出来ません。それならば良い主人の元へと送ってやりたい。クジョウ様と出会えたことは私に取って運命だったのです。――クジョウ・ジン様、あの子をよろしくお願いします」
深く頭を下げるドリオラさんの姿は娘を嫁に出す父のようだった。
「任せて下さい。ドリオラさんの目が間違ってなかったって、証明してやりますよ」
ドリオラさんの肩に手を置き任せろと笑いかけた。
「本当に代金はいいんですか? あまり手持ちはありませんけど、多少なら出せますよ?」
「大丈夫ですよ。言ったでしょう? あの子は売れていて代金はすでに支払われていると」
それは豚を騙す方便じゃなかったのか? ん? もしかしてドリオラさんが取り戻す時に買い付けているからその時に代金を支払ったと言うつもりか? つまりリムリは商品じゃなくドリオラさんの奴隷だったと?
「(ジン、野暮なこと言わないのよ? ここは大人しくご好意に甘えましょう)」
「(そうだな)」
「お待たせしました! いつでも出れます!」
すでにリムリとは契約を済ませ、今は玄関で忘れものを取りに戻ったリムリを待っていたのだ。
ちなみに対外的にはリムリを購入していたのは俺の父だったことにした。それで俺がその後継としてリムリを引き取りに来たのだ。
「分かった。それじゃドリオラさん、また来ます。今度はフーカも連れて来ますよ」
「はい。お待ちしております。それでは今後とも当商会をご贔屓のほどよろしくお願いします」
ドリオラさんと別れて新居に向かう間、リムリは上機嫌に鼻歌を歌っていた。
「ふんふーん、ふふん、あー楽しみだなぁ。フーちゃん驚くだろうなぁ」
「そうだな。だけどリムリも驚くかもな。フーカは一昨日よりかなり強くなってるぞ。まぁ、見た目は変わらないけど」
流石にレベルに応じて急成長されてもビックリだが。でも確実に俺もフーカも強くなっているだろう。
「まさかフーちゃんと同じご主人様にお仕えできるとは思わなかったなぁ。もちろん精一杯働きますよ! フーちゃん以上に頑張ります!」
「いや、フーカ以上はちょっと……」
今でも頑張り過ぎてる気がするのに。いや二人になるし、負担は減るのか。
「(そういえばリムリのステータスはどうなってるの?)」
そういや珍しく鑑定してなかったな。
リムリ・パル
小人族LV8
奴隷LV4
・精霊の祝福・料理LV6 ・道具鑑定LV2
な、なんてことだ。まさか二人目の料理人が。それもフーカより断然上だ。
「り、リムリ。お前もしかして料理得意か?」
「へ? そう、ですね。得意か分かりませんけど、料理は好きです。商会ではドリオラ様のお食事を作っていました。私の料理に慣れるのは奴隷に良くないから奴隷には食べさせるなってキツく言われてましたけど」
そうだよな。普通の奴隷はそんないい物食べさせてもらえてないみたいだし、料理屋レベルの食事に慣れたら後々ツライだろう。
「なら、これから俺達の食事はリムリに任せるぞ! じゃんじゃん旨いもの作ってくれ! もちろんフーカとリムリも一緒に食べるからな」
「は、はい! 精一杯頑張ります!」
拳を握ってやる気になっているリムリの頭を撫でつつ、残りのスキルに目を向ける。
「(ルナ、精霊の祝福ってあるけど、分かるか?)」
「(んー。たぶん精霊に好かれやすいんじゃないかな? 精霊の適性がない人は近づきづらい嫌や気配があるのよね。でもリムリはジンと同じぐらい良い気配よ。精霊使いの素質があるかもね。もっともルナはジン一筋だから興味ないけどね!)」
「(……なるほど。――スキルでレベルがないしユニークスキルだろうな)」
道具鑑定はそのまま道具の鑑定スキルだろう。俺がやっているのと同じようなことが出来るのかな? 後でフィロの店(アオイ工房)に行ってみるか。
「――リムリは小人族だよな? 俺が知ってる小人族と対して変らない様に見えるけど、――まさか俺より年上とか言わないよな?」
「違いますよ! 知り合いってフィロさんでしょう? 私はフーちゃんの二つ上です。ハーフですけど、たぶんあと二十年以上はこのままの姿だと思います。……ご主人様は小さい子はお嫌いですかぁ?」
潤んだ目で見上げてくるんだが、どう言えばいいんだ。嫌いじゃないって言ったらロリまっしぐらな気がするんだが。すでにフーカと小ささで言えばルナもいるし。……あれ? 俺ってロリコンなのか? いやいや、フーカとリムリは俺の妹だ。うん、そうだ。
「……嫌いじゃないさ。安心しろ、俺が責任を持ってお前達を一人前のレディにしてやるからな!」
リムリを持ち上げて高い高いしてみる。うん。こいつらは俺の妹だ。
「……ご主人様、なにか失礼なこと考えていませんかぁ?」
「何を言う、俺は真剣にお前たちのことを考えているんだぞ」
赤くなって俯くリムリを下ろすとルナがため息を付いていた。
「(まぁ、いいけどね)」
それから家に帰る前にフィロの店に寄ることにした。
道具鑑定の精度を確かめようと俺が持っている装備を見せてみたが、神具はまるで分からず、プラチナメイルやコートもはっきりしたことは分かっていないようだったのだ。
「いらっしゃいませー、っておにーさんじゃん。さっきぶりね。家は見つか……ってリムリ?」
「お久しぶりです、フィロさん」
「色々あってドリオラさんから譲り受けることになってな。紹介と隣の家に住むことになったからご挨拶だ」
「そう。良かったわねリムリ。いいご主人に出会えたじゃない。おにーさんもリムリにひどいことしたらダメだからね?」
「しねぇよ。それよりフーカは挨拶に来てないのか? フーカのことだから先に挨拶していると思ったんだけど。やっぱり掃除が大変なんだろうな」
先に家に行った方が良かったか。でもせっかく来たし、ちょっと試させてもらおう。
「少し商品を見せてもらうぞ?」
「……いいけど、なに? なんか実験でもしようって顔に見えるんだけど」
俺ってそんなに顔に出るのか。
「(ウキウキし過ぎね。好奇心が前に出過ぎよ)」
「(仕方ないだろう。知りたいんだし)――ちょっとリムリのスキルを試したいだけだ。道具鑑定って知ってるか?」
「へ? 私スキル持ちなんですか?」
「道具鑑定ならここじゃ無理よ。いや幾つかあるけど。ここで使うなら武具鑑定か下位の武器鑑定、防具鑑定よ。道具鑑定は戦闘以外に使う道具の鑑定スキルって思ったらいいわ。確か薬草とかも鑑定できるんじゃなかったかな?」
へぇ、俺は武具の鑑定は出来るけど道具はできてないよな。レベルが上がったら出来そうだけど。
「ご主人様はスキル鑑定をお持ちなんですか?」
「んー、秘密だ」
「リムリ、主人の情報を他人がいる前で聞くのはダメよ。私が居なかったとしても、外、それも、安全ではない場所で聞こうって思ってはダメ」
「はい。申し訳ありませんでした、ご主人様」
「気にするな。俺もフィロに言われるまで気にもしてなかった」
「おにーさんは気にしなさいよ。かなりのレアスキルを持ってるでしょ? 情報は武器よ、気をつけなさい」
「はい。肝に銘じます」
「あはは、ご主人様怒られてるー」
「はぁー、リムリィあんたその態度は改めなさい。私の前だからいいけど、他の人の前だと主人を侮らせることになるわよ」
「はい、ごめんなさい」
「リムリ怒られてるー」
「あんたねぇー」
ヤバイ怒った。ここは戦略的撤退だ。
「それじゃまた来る! 行くぞ、リムリ!」
「はい! またです! フィロさん!」
脱兎の如く俺達はフィロの店から駆け出した。
「全く、騒々しい連中ね」
「……その割に嬉しそうな声ね」
「あら珍しい、店主様が店の方に顔を出すなんて」
「その言い方可愛くない。フィーは見た目とは違って性格がどんどんひねくれていくわ。昔はあんなに可愛かったのに」
「うるさいわよ。私だって大人になってるの。見た目が変らないのは種族的なものだから仕方ないでしょ。それで? 彼を見に来たの?」
「ええ。間違いなく日本人ね。転生者。転移者かな? 正直強いのか弱いのか分からないけど、たぶん彼が使徒でしょう」
「そう。やっと来たのね。それでどうするの?」
「……どうもしないわ。今はね。その時が来れば勝手に動き出すでしょう」
「昔はあんなに待ち望んでたのに。この世界に愛着が湧いたの?」
「そうよ。あなたたちがいるこの世界が私の居場所だもの。誰にも壊させないわ」
「そう。それじゃ私達が見守ってあげないとね」
「あなたこそ彼に愛着が湧いてるんじゃないの? ダメよ? あなたは私のなんだから」
「はいはい。――彼みたいな人物が上に立ってくれたらって奴隷は夢を見るのよ。私や彼女たちは幸せ者よ? でもそうじゃない奴隷はもっとたくさんいるわ」
「全てを助けることなんて、きっと神様にもできないわよ。だってあの神様抜けてそうだもん」
「またその話? 本当に神様に会ったことあるの?」
「あるって言ってるでしょ。だから私がここにいるんだから」
「そうですねぇ。アオイは神様が遣わした女神様ですからねぇ」
「あんた今晩お仕置きよ」
「それじゃ私は用事を思い出したから出掛けて来るわ。店番よろしくね」
「ちょっと待ちなさい! 私は店番なんてしないわよ! 商品持って行かれても知らないからねッ!!」




