37話 この店はおかしい。
「おにーさん、防具ならそっちにあるプラチナメイルがオススメよ」
フィロが指差す方を見ると上半身だけのマネキンもどきに着せてある白い鎧があった。
鎖状のプラチナを服状に仕立てている物だ。腕の部分はなくTシャツの形をした物で鎧には見えない。
「これか? ……衝撃耐性に斬撃耐性、電撃軽減の付与か?」
真実の瞳のスキルレベルが上がって武具に触れるだけでその性能がある程度わかるようになった。流石に防御力までは分からんけど。
「(ルナこれいくらだ?)」
「(金貨十枚よ。お金も増えたしこれくらい買ってもいいんじゃない?)」
「へぇ、おにーさんよく分かったね。それ軽装になるからそのコートと合わせても良いんじゃないかな」
性能はいいみたいだが、高いな。金が増えたからっていきなり買うのもな。
「ん、これは――」
周りの商品を眺めているとふと一本の短刀が目についた。鞘から抜いて見るとまごう事なき日本刀だった。
刃渡り五十センチほどの脇差のようだが、波紋もソリもある。
「あぁ、それ。おにーさん良くそういうの見つけるわね。それ店主の自信作――だったものよ。最初の頃に嬉々として作ってたけど皆すぐに折れそうだって買わないのよ。おにーさんが気に入ったって言うなら金貨四枚でいいわよ」
「(価格は金貨十枚よ。結構いい武器みたいだけど、神具には負けるわね)」
流石に神具と比べるつもりはないが、本当に日本刀として作られているなら店主は転生者か?
「……よし、買おう。それでフーカが使え。扱えるだろ?」
剣の極み持ってるし、扱えてくれないと困るけど。
「は、はい! 頑張ります、ありがとうございます!」
「フーには新しいダガー用意してたけど、まぁいいか。性能は確かよ。武器をそれにするなら金貨十枚は防具に回していいわね。それならもうちょっと」
フィロが用意していた防具を棚に戻して別の物を更衣スペースに持って行った。
「まだ掛かりそうだな。手頃な値段で何かないかな」
「(これからもダンジョンに入るなら今のうちにしっかりと装備を固めるべきよ。昨日みたいなこともあるんだから)」
昨日のはかなりレアケースですよね。そんな頻繁に有られたら普通に死ぬぞ?
「装備は整えとくべきか。お? 装飾品もあるんだな」
小さくて気にしていなかったが、指輪や腕輪などの装飾品も置いてあった。
いくつか手に取って確認したが、全てに魔力付与が施されていた。
「それは店主が作った物じゃないわよ。知り合いに頼まれて置いてる物だから値引きは無理よ」
俺が毎回値引きをしているような言い方だ。俺は値引きをしてもらっているだけなのに。
適当に指輪を確認していると一つだけ全然装飾が施されていない指輪があった。ただのリングに見える指輪を手に取って俺は鑑定を疑った。
転移の指輪(神)
一度行ったことがある場所への転移が可能というものだった。
「(ルナ、これ神具だ。それも転移系だ)」
「(はぁ? ……言われてみれば力を感じるけど。ここにある武具は大抵が魔力が込められているから分かり難いわね。価格は……金貨一枚。随分安いわね。性能が分かっていないんでしょうね)」
チート級のアイテムが金貨一枚か。
「フィロ、この指輪買うぞ? 金貨一枚でいいんだよな?」
「指輪は管轄外だから良く分からないけど、んーと、ちょっと待ってここからじゃ見えない。もうちょっとで終わるからフーが終わってからにして」
「はいよ。……他のも確認しとくか」
「(それがいいわね。私も周りの武具をもう一度確認して来るわ)」
ルナと別れてアイテムの識別をして分かったことが一つ。
「この店はおかしい」
「(……これがこの世界の現状なのよ)」
店の商品を詳しく調べたところ、指輪を除いて神具が七個見つかった。
ただこの指輪以外は高い。やはり武具屋だけ合って武具には性能にあった金額が付けられている。
「いきなりなに人の店けなしてるのよ。ほら、フーの分終わったわよ」
「お待たせしてしまいすみませんでした。……どうでしょうか?」
着替えたフーカが少し恥ずかしそうにその場でくるりと回り装備を見せてくれた。
新たな装備品は天魔の小太刀、シルバーメイル、銀蛇の籠手。
天魔の小太刀は俺が選んだ脇差だ。鋭利と硬質化の魔法が付与されている。
シルバーメイルは銀色の鎧で先ほどのプラチナメイルと違いタンクトップ状の鎧だった。軽く触って確認すると、重量軽減と加速の魔法付与がついていた。
銀蛇の籠手は腕から手の甲まで覆うタイプの籠手だ。指の動きを阻害せず、動きやすいようになっているみたいだ。斬撃耐性と衝撃吸収が付与されているな。
「随分といい付与が付いてるみたいだな。フーカにピッタリだし、似合ってるぞ」
「ありがとうございます」
フーカの頭を撫でているとフィロがフーカの腕を持ち上げて籠手を見せてきた。
「こっちのも結構奮発したのよ。斬撃耐性と衝撃吸収の魔法付与よ。正直これだけで金貨十枚超えるからね? さっきの買取分があるから、かーなーりー奮発したんだから」
衝撃吸収は軽減とは違い一定以下の力を完全に無効化するもので、その代わり一定以上の力は一切軽減してくれないとのことだ。
「ああ、助かるよ。そうだな、俺もプラチナメイルを買わせてもらうか。あとこの指輪もな」
「まいどあり~。えっと指輪は値札通りにしかならないからね? えっとこっちのが金貨一枚で、こっちのが金貨三枚ね」
「ああ。えっとだから全部で「金貨二十八枚ね」……了解。あ、それとネックレスのチェーンってあるか?」
フィロに金貨を渡して尋ねると「あるわよ。銀の物で大銅貨四枚になるけど?」っとカウンターの下から銀の鎖を出してくれた。
「指輪に通すの? 丁度いい長さに加工してあげるわよ?」
「そうだな、手首に巻くぐらいの長さにしてくれるか?」
「了解。ちょっと待ってて」
カウンターの下にちょっとした加工場があるようで、すぐに長さを調整して金具を付けてくれた。
「はい。これでいいかしら?」
「ああ。ありがとう。これ代金な。ところでこの指輪を売ってくれって頼んでる知り合いとやらはこの辺りに住んでるのか?」
「ん? いえ、確か今は帝都にいると思うわ。銀細工を極めるとか言って半年前ぐらいに帝都に行ったきり帰っていないわ。どうかしたの?」
「この指輪をどこで手に入れてのかと思ってな。それに幾つか魔法の付与がいい物もあったから他にないのかと思ってな」
「ふーん。私は装飾品はよくわからないわ。……でも、道具鑑定ができることは内緒にした方がいいかもよ?」
含み笑いをしたフィロに肩を上げて無言の返事をする。
「ま、私はいいけどね。でも、表通りでは言わない方がいいかもね」
詐欺師の店を言ってるのだろうか。だがその忠告はすでに遅い。持ってない時から言っちゃってましたから!
「覚えとくよ。それじゃまたダンジョンから帰ったら寄らせてもらうよ」
「ええ。おみあげ期待しとくわ。でも無理はダメよ?」
「分かってるよ。それじゃまた」
「フィロさん、ありがとうございました。大事にしますね」
フィロに手を振ってフィロの店を後にした。




