33話 決戦
ミニャが剣で弾き飛ばした魔石が俺の手のひらへ届く。それを視線で追いかけるミノタウロスと役目は果たしたと、その場に崩れるミニャ。
「あぁ。やってやるさ。ルナ!」
「ええ。癒せ精霊の息吹、リカバリー!」
魔石を手にしたルナがその魔力を解き放ち、俺の怪我、体力の消耗を回復させる。
流石はボスが落とした魔石だ。これだけの急速回復を可能にするだけの魔力が保有されているとは。
さっきまでの疲れが嘘のように全快していた。これならやれる。
たった一日で一体どこまで強くなれるんだろうな。
「だけど、それだけの戦いは経験したぞ」
先ほどまで重くて仕方なかったフルンティングも軽々と振れる。先ほどまでの戦いも既に俺の糧となっているのだ。
「ブオォォォォ!」
「お前のせいで、俺達はヒドイ目にあったんだぞ!」
突撃して来たミノタウロスが棍棒を叩きつけてくるがフルンティングで切り落とす。
「ブオォォォ」
「ヒュー。流石はフルンティングだな。切れ味抜群。腕も普通に動くし問題なしだな」
武器が切断されたことにミノタウロスが咆えて、その丸太のような拳を振りかぶってくる。
「それぐらい! 兵士蟻の方が強かったぞ!」
山賊王の太刀で受け流し避けきったところで刃を返して振り切った。しかし、ミノタウロスの肌を切り裂くことはできなかった。
「くそ。やっぱり山賊王の太刀じゃ無理か。ならここからはフルンティングだけで行くぞ」
山賊王の太刀をアイテムボックスに押し込み、両手でフルンティングを握り込む。
「ブオォ!」
ほんの少し前までこんな化け物と戦うことになるなんて夢にも思わなかったな。だけど、俺の後ろには守らないといけない者達がいるんだ。絶対に引けない!
「行くぞ! 牛野郎ォ!」
俺の動きに合わせてミノタウロスも向かって来る。半分になった棍棒は既に捨てており、純粋な腕力で勝負を仕掛けてくるみたいだ。
しかし、その一撃は地面を抉り、壁を割る。俺が避ける度にダンジョンが揺れるほどの衝撃が起こっている。
「これ、ダンジョン崩れないだろうな。くそ、こうぶんぶん振り回されたら踏み込めないぞ」
攻撃で腕が伸びきったところをフルンティングで斬るが避けながらでは踏み込みが弱く、切断にまでいけない。とは言っても既に数撃入れているのでミノタウロスの腕は血塗れになっているのだが。
「このまま出血死しないかな」
「無理でしょ。切れてるって言っても骨まで届くほどじゃないわ。……むしろこのままじゃこっちが危ないわね」
ミノタウロスの攻撃は全て避けているが、それでも多少掠りもしているし、当たれば死ぬほどの拳をギリギリのところでかわすのは精神的にもかなりキツイ。
「何とかしないとな。避けに専念するならまだ持つけど、それじゃジリ貧だし、コイツは疲れを知らないのか?」
多少息が荒くはなっているが、ミノタウロスの動きは衰えることを知らない。このままじゃ俺の方が先にギブアップしそうだ。流石にこのレベル差で挑んだのは間違いだったか。
「ジン、残りの魔力全部使って防御魔法を掛けるわ。――あれと正面から打ち合う覚悟はある?」
ルナがヒールを使いながらそう尋ねてきた。
「……愚問だな。俺はルナを信じてる。ルナがそれを持ち掛けてくるってことはどうにかなるってことだろ」
あの拳の威力が町の不良程度にでもなれば絶対に耐えられる。ハンマーぐらいならちょっとキツイけど。
「なら、ルナはジンを信じてるわ。――精霊の加護をここに、集え森羅、纏え万象、世界の理を今ここに――カムイ!」
魔法の発動と同時に急激な魔力の消失を感じ、体が薄らと光り出した。
「光の衣か。すげぇ、魔力の膜ってことか?」
魔法のことはよく分からないけど、これはとてつもないものだと理解できる。ルナが持っていた魔石もバラバラに砕け散ってしまった。
「ジンにゃん……、いや、まさか、――精霊神?」
ミニャは今頃ルナの正体に気付いたようだ。目を見開き唖然としている。この魔法はそれほどに凄いってことか。
「ジン、長くは、持たないわ。急ぎなさい」
ルナの顔色が悪い、息も上がっているし、この魔法はかなり無理をしているみたいだ。
「すぐに終わらせてやるよ」
ルナをフーカの元へ行かせ、俺はミノタウロスと向き合う。
「待たせてすまねぇな。律儀に待ってくれることに驚きだけどな」
なぜかこのミノタウロスはこちらが敵意を見せないと襲って来ないのだ。だからって油断ができるわけじゃないけどな。
「ブオォォォォォォォ!」
ミノタウロスの咆哮が部屋を振るわせる。
コイツもこれが最後だって分かっているのだろうか。ここで倒せなければもう無理だろう。俺の魔力も殆ど残っていない。体力が回復しているのが救いだけど、これで仕留めれなければ皆を背負って逃げるしかないな。
「ま、今日は疲れたからな。最後はゆっくり歩いて帰りたい。――行くぞ、牛野郎、俺の家族を泣かせたこと後悔させてやるよ」
足に力を込め飛ぶ。もう後のことは後で考えよう。今を全力で。そうでなければこいつは倒せない。
「――ジン様、凄い」
「流石ね」
壁を蹴り、床を蹴り、天井を蹴る。縦横無尽に飛び回りミノタウロスを翻弄していく。
身体が自分の思い通りに動いてくれる。力の指輪のお陰でもあるのだろうけど、このカムイは肉体に掛かる負荷すらも防いでくれているみたいだ。
「無傷で終われるとは思ってねぇよ」
俺の動きを追い回すミノタウロスが侮るように笑った気がしたのだ。だけど俺はルナを信じている。ルナがコイツと打ち合えと言えるだけの防御力は得たはずだ。なら覚悟を決めるさ。
「ブオオォォォォォォォ!」
思わず耳を塞ぎたくなるほどの大音量が部屋に響き渡るが、
「それは予測済みだ」
予め耳に布を入れているからどうにか我慢ができる。ミノタウロスの咆哮を無視して壁を蹴り背後から奇襲!
「行くぜ、見よう見まね! 風の太刀! 風斬り!」
要は魔力を纏わせた超高速剣撃ってことだろ? フルンティングなら威力も申し分なしだ。
初撃で首を刎ねようとするが、それは丸太のような腕に阻まれる。しかし今回は完全に振り抜いている為、肉を裂き骨に達する。
「ッくそ!」
骨すらも切断できたと思ったがフルンティングは骨に達した時、筋肉によって挟まれていた。そして食い込んだフルンティングを気にもせず腕を振り、剣ごと俺を壁に叩き付けた。
「がっはぁ、つ、い、ってな」
壁にめり込むほどの一撃だったがカムイのお陰で助かったようだ。
「ブオォォ!」
俺が普通に立ったことに腹を立てたのか唸り、再度拳を振りかぶってくる。だが、既に懐に入っており、その動きは隙だらけだった。
「舐め過ぎだろうがぁ!」
拳を避けざまに袈裟懸けに、肩口から切り裂き、勝ちを確信したが、
「ジン!」
「ブオオォォォ!」
肩口から入ったフルンティングを首周りの筋肉で挟み止め、半分近く切れている腕を気にもせず裏拳で殴り飛ばされた。
「ッがは! ッ、くそ、がぁ」
俺の斬撃はことごとくミノタウロスの筋肉に阻まれていた。フルンティングの鋭さを持ってしても俺ではミノタウロスを切断することができないのか。
フルンティングはミノタウロスの肩に刺さったままその輝きを保っている。
「ジン! 大丈夫!」
「問題ない! ルナのお陰だ。まだ戦える!」
アイテムボックスから山賊王の太刀を取り出そうとして視線の先にミニャが見えた。そしてその手にある聖剣が。
「ミニャ! その剣貸してくれ!」
「ッ、――あぁもう!! 大事に扱うにゃよっ!!」
一瞬の間を挟みミニャはヤケクソ気味にデュランダルを放り投げた。宝具とか言われているからな。
「あぁ、任せろ!」
飛んできたデュランダルを掴み、ゾクっとした。
――この剣はヤバイ。山賊王の太刀やフルンティングは普通に扱えていたが、このデュランダルは使用者を選ぶ、この剣に認められた者しかその力を発揮できないのだ。そして――、
「うそでしょ……」
ミニャの絶句。当然だ。デュランダルは俺の手で青白い光りを放ち輝いているのだから。
「ジンを使用者として認めたのね。まぁ当然だけど」
「ジン様凄いです!」
ルナとフーカの賞賛は嬉しいがこれはヤバイぞ。力が抑えきれない。圧倒的過ぎる力が剣から溢れようとしているみたいだ。
「ブ、ブオ」
ミノタウロスもこの剣の力を感じたのか、初めて後ろへ下がった。しかし、
「ブオオオオォォォォォォ!」
そうでなくちゃな。お前は強い。左腕を斬られ、肩にフルンティングを残したままそれでも俺の敵意に向かった来る。
その姿には誇りを感じた。なんだろうな、この感じ。絶対絶命のピンチで俺の攻撃が通じない相手だ。それなのに、俺はコイツと戦っていることが楽しいと思っているのか? 満身創痍でもその闘争心は僅かたりとも衰えていない。――ミノタウロス、俺はお前を超えて行く。
デュランダルの輝きが更に増し、その力はもう抑えること何てできないだろう。
この剣を持つ俺にできることはもう一つしか残っていない。この剣から流れてくる意志を解き放つだけだ。
デュランダルを振り上げる俺の姿にミノタウロスは僅かに笑った気がした。
「ブオォォォォォォォ!!!」
圧倒的な力を放つデュランダルを前にしてもミノタウロスの猛進は止まらない。
「楽しかったぜ。お前も生まれ変わったらまたこの世界に来い。――また戦おう」
――グランドスラッシュ――
頭に流れて来た技名を思いながら振り降ろすデュランダルから放たれるは光の一撃。
それはミノタウロスを飲み込み凄まじい轟音と共にダンジョンを切裂いた。巨大な地割れの様な跡が俺の正面に数十メートルは続いていた。




