20話 犬の少女
「あーも! 何やってるのよ! フーカも! なに、優しくしてくださいオーラ出してるの! 服が乱れてるわよ! 正しなさい!」
「す、すみません! 精霊様が居られることを失念しておりました! あ、えっと、その、三人で?」
「なにバカなこと言ってるの! いいからフーカそこにうつ伏せに寝なさい! 伏せよ! 伏せ!」
「は、はい!」
ルナに怒られ恐縮したフーカが飛び上がるようにベットにうつ伏せに寝た。足を曲げ、肘をたたみ顎を付けた、まさに伏せの状態で。
「おいルナ、いくら犬人族とは言えこれは酷くないか?」
「分かってるわよ! フーカ、普通にうつ伏せで寝なさい。……ちょっと待って、フーカの怪我は前でしょ! 仰向けで寝ないとダメでしょ!」
「は、はい! 申し訳ございません!」
フーカはルナに言われ、ささっと仰向けになりお腹を見せていた。手を胸の前に持って来て足を曲げて。
「服従のポーズか?」
「ジンは黙ってなさい! フーカ普通にしてていいのよ。今から傷口をもう少し治してあげるわ。完治まで出来るかは分からないけどね」
さっき奴隷商でヒールを使った時に魔力を消費したが、それでも最初と比べればかなり増えている。
ルナは魔力の量を調整して通常より強く魔法を発動させることが出来るらしく、最初に盗賊に襲われた時も魔力を最大限使用して通常ちょっとした灯りでしかないライトの魔法を目くらましの魔法にまで強化したということだ。
「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です。この位の怪我でしたらどうにか――」
「フーカ、いいから黙って怪我を治せ。俺たちは今後ダンジョンに潜るって言ったろ? 怪我人は連れて行けないぞ」
「ッ! 分かりました。精霊様、どうか治療をお願いします」
「ルナでいいわ。それじゃ治療するわよ。力を抜いて楽にしてなさい。――癒せ精霊の息吹、リカバリー!」
ルナの魔法が発動して体が怠く、いや精神の疲れのようなものを感じた。前は何も感じてなかったのにレベルが上がって魔力が増えたことで疲れを感じるようになったみたいだ。
魔力をかなり使ったみたいだが、フーカの傷は殆ど塞がり、一番酷かった肩口の傷が少しだけ残ったみたいだ。生活をする分には何の問題もないレベルだ。明日にでももう一度治療すれば傷痕すら残らず完治するだろう。
「す、凄いです。……いえ、ご主人様とせい、ルナ様を疑っていたわけではないのですが。その、凄いです」
フーカは傷口を触りお腹辺りに傷痕一つないことにルナと俺を交互に見ていた。
「何とか上手くいったわね。ちょっと危なかったけど」
「危なかったのかよ。フーカ、調子はどうだ? 正直に言えよ? 痛みとかがあるならちゃんと報告しろ」
「大丈夫です! 肩の傷が少し痛みますけど、これならナイフを振ることもちゃんとできます!」
フーカは立ち上がって肩を回したり、ジャンプしたりして体の調子を確かめていた。
ふむ。動きを見る限りは問題なさそうだ。今の動き方を見ているとやはりさっきまではかなり無理をしていたようだ。
「それだけ動けるなら大丈夫だな。一応ルナも気に掛けてやってくれよ?」
「分かってるわよ。――それじゃ改めて、私はルナ、精霊神ルナよ。今はジンの守護精霊をやっているわ。これからよろしくね」
「…………え? 精霊神様? ですか? え? でも、え?」
ルナの名乗りにフーカは困惑して俺を見て来るので頷いておく。
「ちなみに俺は「東方の勇者よ。そして私が守るに値する人物よ」……は?」
ルナを見るとキッと睨まれたので話を合わせておこうと思う。
「勇者かは分からんけど、ま、東方から来たってことだ。九条仁だ。ジンでいいぞ」
ご主人様も捨て難いが街中でご主人様と呼ばれるのは思ったより恥ずかしかったのだ。
「東方の、勇者。精霊使いの英雄。クジョウ、ジン様」
フーカがポツリポツリと呟き、頭を整理しているようだが、聞き覚えのない言葉が混ざっているぞ?
ルナのことに驚いているみたいだし、やっぱりハーフ種にとって精霊は偉大なのかね。
「――分かりました。ジン様! 私のこの命に代えましてもお役に立たせて頂きます! 何なりとお命じ下さいませ!」
俺の前で膝を付いて平伏したフーカ。見つめ合う俺とルナ。ぐぅーっと音を立てるフーカのお腹。……寝込んでたし何も食べてないのか?
「あー、何か腹減ったな。夕食まで待てそうにないや。そうだ軽く飯、作ってくれないか?」
「うぅ。申し訳ございません」
「気にしないで。ジンがお腹減ったって言ってるんだからフーカは準備したらいいのよ。……私はまだ大丈夫だからね」
あ、逃げやがった。俺だってさっき飯食ったんだぞ。って、食材も調理場もないよな?
「食材は買ってきてもいいけど、調理場がないな。宿のを借りるのは流石にマズイよな? いいや、フーカ次いでに街を見て回るから付いて来い。途中に屋台ぐらいあるだろ」
どうせだし残りの魔石も売ってフーカの装備を見てみるかな。俺もいい加減制服脱ぎたいしな。
「あぅ。ありがとうございます。……荷物持ちは任せて下さい!」
意気込んでるしアイテムボックスのことは内緒にした方がいいかな? あ、偽装用のバック買わないとな。それ持たせるか。
「よし、なら行くぞ。外ではルナに話かけるなよ? ルナの存在は俺たちだけの秘密だぞ?」
「はい、もちろん分かっています。ルナ様がこんなところにいる何て知られたら大騒ぎになります。絶対に話しかけません」
ちょっとルナが落ち込んでる。まぁ、何かある時は今まで通り俺が話そう。それにしても大騒ぎになる、か。精霊ってやっぱり珍しいのかね。




