107話 エリクサー
「洞窟のダンジョンを見てみたいんですけど、良いですか?」
ミサさんの公開奴隷ショーを終えて村人達にもゆっくり休むように伝えてから、俺達はミサさんに村の事を任せてミオさんと一緒に洞窟に向かうことにした。
「この先です。洞窟のすぐ脇に先ほど言っていた薬草もあります」
村からそう離れてはいないな。徒歩十分ってところか。
ここまで魔物に出会うこともなかったし、そんなに魔物が出てきているってわけではなさそうだな。
そして見えて来たのは岩山に四メートル程度の大穴が開いた洞窟とその傍の日陰に草が茂っていた。
「この洞窟の先にダンジョンの入り口がありました。この洞窟は前からあったんですけど少し進むと行き止まりになっていたのが、先日来た時には崩れて先に進めるようになっていました」
それって前と同じロックの悲劇か?
自然に崩れていた可能性もあるけど、どっちにしてもダンジョンが成長している可能性が高いよな。
寄生種が出てきているぐらいだから結構ヤバいか?
「中には入っていないんですよね?」
「もちろんです。魔物の発生源を特定する為の調査でしたので。私たちではダンジョンを制覇することは不可能ですし」
そりゃそうだ。
だいたい冒険者チームでも最近はダンジョン制覇が遅れているって話だったしな。
村人が制覇していたらビックリだ。
「ちょっとジン、こっち来て」
ルナに呼ばれて草が生えているところに向かうとフーカとリムリがルナに指示されながら草を採取していた。
「おいおい、勝手に採るなよ。これって村の大事な収入源なんだろ」
「え? だから良いんでしょ? つまりこれはジンの物ってことだから」
「はい。問題ありません。そもそも今の私たちにはそれらの薬草を売ることも出来ませんから」
ルナの問いにミオさんが答えて一緒に薬草を採取し始めた。
もうあの村は俺の物になっているのか……。
ここって領主様の管轄だよな? 後でリリカに確認しないとな。
ここの管理を任せて貰えたらいいけど、ポッと出の俺に任せてくれるものなのかね?
「あ、ミオ、それはまだダメよ。もう少し成長させた方がいいわ。これくらいのを集めなさい」
「はい。分かりました。……以前はこれくらいの物も採取していたのですが、早すぎたのですね」
「そうね。これは経験が必要な薬草だからね。ツキヨ草、エリク草、トキクサ草、生育が難しい薬草ばかり良くこれだけ育っているものね」
ルナが薬草を一つ一つ手にしながら説明をしている。流石は精霊と言うべきか草木に関してかなりの知識があるようだ。
フーカ達も真剣に聞いて覚えようとしているみたいだ。
……ん? でもまだ採取には早いって言ってなかったっけ?
「未成熟な物は残しているわよ。この薬草は採取の時期を見誤ったら効果が激減するのよ。せっかくあるんだから無駄にしたくないでしょ」
なるほどな。
……ミオさんも真剣に聞いているけど、今まで採取してきたのは大丈夫だったのだろうか?
ルナの薬草談議に皆が聞き入っている中、リリカだけ唖然とした表情でエリク草を手にして見ていた。
エリク草と言いながら手の平ぐらいの葉っぱなのだが……。
「リリカ、その薬草がどうかしたか?」
「あ、ああ、主様。……妾の見間違いでなければこれは魔法薬エリクサーの材料だった気がするのじゃが。それにツキヨ草、トキクサ草も高価な薬草だった気が。それがこんなにも自生して…………見間違いじゃな。これほどの量があれば、帝国の供給量の大半を占めるからな」
リリカが乾いた笑い声をあげながら視線を逸らしている。
「間違えてないわよ。このエリク草はエリクサーの材料よ。ただこの国に作れる者はいないと思うけどね」
ルナの言葉にリリカが息を飲んでいた。
回復薬の材料である薬草は元々品薄らしいのだが、中でもツキヨ草、エリク草、トキクサ草は特に希少らしい。
ここに自生している分だけでも帝国内の流通量に匹敵するほどに。
……でもミオさん達はこれを売ってお金にしてたんだよな? 帝国の行商人に売って。
……まさか帝国内に流通していたこれらの薬草はここで取れている物が全てだったのか?
それにエリクサーってゲームじゃ最強の回復薬だよな。
リリカの反応からしてもこの世界でも凄い薬みたいな感じだが。
「エリクサーってやっぱ凄い薬なのか?」
「……エリクサーは肉体の損失箇所すら復元すると言われている薬じゃ。健康な者が飲めば寿命が延び、不老不死になるとも言われておる伝説の神薬なのじゃ」
不老不死ってそれは流石にないだろう。
損失箇所の復元って手が無くなってもまた生えてくるのか?
「不老不死はでたらめね。寿命が延びるっているのも信憑性に欠けるわ。でも損失箇所、指や眼球、内臓ぐらいなら再生すると思うわよ。流石に死んでいたら無理だろうけど」
……それはかなり凄い薬なのではないだろうか?
「別にそこまで凄いわけじゃないわよ? ルナなら魔法で同じこと出来るし」
……ルナのリカバリーって欠損箇所の修復までするのか。
そう言えばフィロが動かなくなっていた半身が動くようになったって言ってたな。
でも、普通の人からしたら奇跡としか思えない神薬だろうな。
「ルナ様、先ほどこの国に作れる者はいないと言っておったが、現在も研究は行われておるぞ? 実際にこれらの薬草が国中から集められて王都の薬師たちが研究をしているはずじゃ」
「でも成果は出ていないでしょ? そもそも材料が全て集まらないだろうし。人が昔目にしたエリクサーだって数百年前に精霊が作って人間にあげた物だからね。それにエリクサーは精霊の加護を持っていないと作れないわよ?」
リリカが驚愕の新事実に目を見開いている。
国を挙げて研究されている薬が自分たちでは作れない物だった上に、かつて存在したであろう薬は精霊からの贈り物か。
材料も集まらないってことは必要な材料自体判明していない可能性もあるな。
「ルナ、そのエリクサーの材料ってこの薬草だけじゃないのか?」
「本物を作るなら、このエリク草とクルトリの根、世界樹の葉、百年花の種、神水、あとは精霊の涙があれば作れるわよ」
「な! ルナ様はエリクサーの作り方まで知っておるのか!」
「……これでも精霊神なのよ? 精霊がエリクサーを作れるって言ってるんだからルナが製法を知っててもおかしくないでしょ」
製法を知っているのと実際に作れるのは話が違う気もするけど。
でも材料が全然足りてないな。
……ただ、
「本物じゃなかったらもっと簡単に作れるのか?」




