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短編小説

巻き込まれた苛められっ子のその後の顛末

作者: 黒田明人

勇者召喚物としてはありきたりかも知れませんね。

 

 勇者召喚に巻き込まれた少年は、他の勇者達には付いていけず、かと言って単独での行動もやれなかった為、いつかは勇者一行に合流する為の訓練に明け暮れていた。

 王宮の人達は彼の事を可哀想に思い、可能な限りの様々な技術と共に、魔法の知識に使用の為のコツなどを伝授し、彼もそれを貪欲に学んでいた。


 しかし、数年経って彼がいっぱしの実力を手に入れた頃、遂に魔王が討伐されたとの報が届く。

 彼の連日の必死の努力は遂には報われず、勇者達の力にはなれなかった。

 そうして世界は平和が約束されたのだが、勇者達は戻っては来なかった。

 それと共に、修練に明け暮れていた少年も城から消えていたのである。


 ~☆~★~☆


 勇者達は魔王城で魔王と決死の戦いの果て、遂に彼を倒す事に成功した。

 そして魔王城の外で待機していた連絡員が慌てて王宮に連絡と走り去った後、勇者を取り囲むように黒い霧が噴出する。


『我の最後の恨みを食らうがいい』

「貴様ァ、まだ生きていたのか」

『このままでは我はもう消える。なのでこれは最終手段になる。リスタート、さあ、共に無かった事にしようぜ、はっはっはっはっは』


 リスタート……それは対象と行使者のやり直しを意味し、勇者達は召喚される寸前に戻されてしまう。

 もちろん、苦労して上げたレベルやステータスも元に戻り、あたかも夢オチのような状況になった。

 ただ、行使者は生誕の頃まで戻される事となり、魔王の意識は数千年の遥か昔まで戻されてしまう。

 異世界の時は魔王の噂が出る直前にまで戻ると共に、魔王の時が数千年戻った事になり、魔王顕現まで数千年の猶予が出来た事になる。

 従ってもう勇者召喚の必要も無くなり、彼らが呼ばれる事は無かったのである。


 しかし、魔王は知らなかった。


 対象を勇者関連にしたのは良いが、まさか巻き込まれた者が居たとは思わなかった。

 確かに同じく異世界からの到来者には違いないが、巻き込まれた他人なので関連ではない。

 ただ、勇者召喚に付随した衣服や道具のような位置取りとして元の世界に戻ったものの、その技量やステータスはそのままだったのだ。


 かくして世界で唯一、異世界の魔法が使える存在として彼は元の世界に降り立った。


 皆が皆、中二病患者のようにステータス表示魔法を唱えては絶望している中、彼だけは自身のステータスが見られたのだ。

 そしてその事をひた隠しにしにすると共に、ひたすらの研鑽を決意した。

 ただ、使ってもまともに回復しない魔力に不安を覚え、魔力容量が増える方策……ひたすらの熟練度上昇の訓練に明け暮れた。


 魔法を使えば魔力が増える。


 そう思われていたし、実際に魔力は少しずつ増えてはいた。

 しかしそれはレベルアップの恩恵が殆どであり、魔法の行使の結果、魔物が倒れて得た経験値によるものであった。

 彼は魔力の扱いに慣れようと、体内で思うままに動かせるように努力をした。

 それはあるマンガの影響ではあったが、魔法を行使しなくても魔力は微増していった。

 その事を思い出し、ひたすらひたすら熟練の方向で密かに努力していった。


 その副産物は意外なところで現れる。


 彼は元々身体が弱く、元気になった今でも季節の変わり目にはよく風邪をひいていた。

 しかし、魔力循環をやりだしてからと言うもの、病気に縁の無い身体になっていた。

 それと共にレベルアップによる身体能力の向上もあり、かなりセーブしないと化け物呼ばわりされるぐらいの力を得ていたのである。


 そして彼は今日も苛めの中で思う。

 やっぱり痛くも何とも無いやと。

 殴られても蹴られても、高い身体能力と共に、魔力のガードと回復力の恩恵。

 それら全てが彼を守り、苛めっ子達の無駄足は続いていたのであった。


 彼は何も思わなかったが、周囲からはまるで殺さんばかりの派手な苛めに悉く恐れ、彼ら以外はさすがに手も出せない状況にあった。

 なのに当の本人は何事も無かったかのように立ち上がり、平気な顔で授業を受けている。

 その様から陰ではゾンビやらゴーレムやらと、変な仇名が付いていたのだが、彼は知る由も無かった。

 そしてそんな彼にひたすら苛立ち、日に日に激しさを増していく苛めであったが、それでも彼を害するには至らない。

 彼らはそれでますます捻じ曲がり、遂には裏社会に手を伸ばす。


 そうなってしまえば、元は勇者などと誰が信じるだろう。


 彼らは自らの行いで自らの主張を、本当に夢物語にしていたのである。

 そうして高校を卒業し、ある者は進学に、そしてまたある者は就職にと進む中、彼は進学に興味が持てなかったのと親の勧めもあり、家の仕事の手伝いをするようになっていた。

 そうして苛めの構図から抜け、日々の仕事と趣味になっている魔法の研鑽の日々。

 彼はもう、あんな事件に巻き込まれる事が無い事を祈りつつも、万が一の保険にもなる研鑽に余念が無かったのである。


 そんなある日の事。


 かつて彼を苛めていた元勇者に、町外れの林の中に呼び出された。

 来なかったら放火をするなどと、本当に元勇者とは思えない言い草に、彼はいい加減ケリを付けようと密かに決意していた。

 当時、勇者として呼び出された頃は本当に正義感溢れる少年だったはずが、今ではすっかり裏社会の住人になっていた。


 確かに当時の魔王は言っていた。時を戻すと。


 だからまたすぐに呼ばれる事になると思ったいたのに、あれっきり何の音沙汰も無い。

 その事が捻じ曲がる原因だったのだろうが、元々思うようにならないとイラつく性質であり、苛めても苛めても彼が飄々としていた事が、元勇者を後戻り出来ない道に追いやってしまっていた。


『てめぇ、いい加減にくたばりやがれ』


 卒業と共に終わったはずの苛め。

 その再開はさすがに嫌だった彼は、遂に思い切る事にした。

 もとよりかつての恨みもあり、成人した今となってはかなり自由が利く。

 体内魔力の熟練度の向上で、当時と比べてもあり得ない程に身体能力は向上していた。

 その気になれば、人ひとり担いで山登りも楽々やれるぐらいになっており、真剣に走れば車にも負けないぐらいになっていた。

 今なら何をやっても対処は出来るから、もうかつてのように我慢する必要も無いよね。

 だからつい、煽りの台詞を行使する事になる。


「勇者の君が苛めなんて、だからもう呼ばれないんだね」


 元勇者が聞きたくなかった台詞をまさにピンポイントで言われ、止めようのない怒りに見舞われる。

 時が戻ったのならまた召喚されるはずと、仲間と共に過ごした日々。

 あれから5年が過ぎた今となっても、そんな兆候などは全く訪れず、そんなニュースもまた無かった。

 なので仲間内でも夢だったと思い込むようになっていき、少しずつ忘れる努力をしていた矢先の事、彼の姿を見る事になり、当時の事が思い出されてしまったのだ。

 それで元勇者は気付いた。

 あいつが生きている限り、オレ達はまた思い出してしまうと。

 裏社会で手に入れた武器を手に、遂には彼を物理的に葬ろうと決意していた。


『あれは夢だったんだ』

「だからもう良いんだね」

『てめぇは悔しくないのかよ。誰も信じてくれないあの事実をよ』

「別に」

『そうかよ、ならもう我慢の限度だぜ。てめぇなんか見たくもねぇ。この世から消えちまえ』

「風のイージス」

『はっはっはっ、そんな妄想でこれが防げるかよ』


 パーン・パーン・パーン


『んな、何で、だよ』

「やれやれ、この世界じゃ魔力は殆ど回復しないんだよ。なのに無駄な魔力を使わせないでくれるかな」

『何でてめぇだけ使えるんだよっ』

「大いなる風の神よ、我が求めに応じて彼の者に永久とこしえなる苦しみの鉄槌を下したまえ」

『嘘、だろ……それ、は……止めろ、それを撃つなぁぁぁ』

「カース・ウィンド」

『ぐぁぁぁぁぁぁぁ』


 さすがにこの法治の世の中。

 適当にかすり傷を手足に付けておけば、緊急配備の警官達は彼を被害者として見る。

 そして弾切れになった拳銃を持っている者を犯人として緊急逮捕に及んだ。

 魔法が魔法がと暴れる彼に対し、警官達の視線は冷たい。


「怪我をしているのか? 」

「かすり傷です。どうやら下手だったみたいで助かりました」

「検査をしたほうが良くないか? 」

「あの親父に知られたら、かすり傷ぐらいでって叱られますよ。それとも神代さんが取り成してくれますか? 」

「うっく、そ、それはだな」

「くっくっくっ、まあそんな訳ですよ。さて、びっくりしたけど、ひとまず帰ります」

「さすがは鬼コーチの子だな。普通ならあんな事をされたらそんなに平気ではいられんぞ」

「それも伝えて良いですか? 」

「いかん、それは絶対にいかーん」

「くすくす」


 そう、家の手伝いとは彼の父親の道場の事。


 彼はかなり手を抜いていたにも関わらず、今では師範代になっていた。

 そうして近隣の警官達と共に汗を流す仲であり、自然と彼を見る目は甘くなっていた。

 本来ならそこまでに及んだ原因の追求などもあるはずが、狂人の凶行というイメージで固定され、彼に対する調書なども皆無であった。

 そこに精神魔法の関与があったのだが、魔法の無い世界の住人ではその行使に気付く事も出来ず、事件は狂人の一方的な思い込みによるものとして処理された。


 かつての勇者が精神異常で病院送りになった後、元勇者と共に召喚されたはずの面々が彼を問い詰める。


 カースとは呪いであり、呪いの風は対象を狂わせ、2度と元には戻らないという魔法になる。

 かつての勇者一行の中では黒魔術師だけが扱えた魔法になるが、その恩恵で敵の同士討ちを誘発したりして、その存在を知っていた元勇者。

 だからこそ顕著に反応した訳だが、元来カースウインドは大魔力を行使するスキルとなり、彼はマナの無駄を思って詠唱はしたものの、発動したのは無詠唱の幻惑魔法に過ぎない。

 いわば対象者を惑わせるだけの初期呪術魔法に過ぎないにも関わらず、呪いを受けたと思い込んだものだから、もう止まらない。

 ただでさえ拳銃を障壁で防がれたうえに、魔法の行使を目の前で見せられたのだ。

 自分が欲しくて欲しくて堪らない魔法を目の前で見せられる屈辱と、かつては苛めていた奴に仕返しされるという恐怖と、仲間が使っていた恐怖の呪いの大魔法の詠唱。

 これらが合わさって、元勇者の彼から正常な意識を奪っていたのである。


「お前、あいつに何をした」


 いきなり呼び付けられてそんな台詞。

 彼は不意に笑いの衝動に襲われる。


「何がおかしい、この野郎」

「いや、うぷぷっ、だってさ、僕はあいつに苛められていたんだよ。なのにさ、クククッ、彼に何かしたって、そんな訳が無いじゃない、あはははっ」


 言われてみればその通りなのだが、それにしては明るいこいつ。

 やたら笑っている彼にイラつき、関係無いにしてもウザいという理由だけで袋叩きにしようと相談の結果、彼に向かって行き……


 やれやれ、あんまりマナを使わせないでくれないかな。

 でも、幻惑魔法ぐらいの消費は知れてるから良いけどさ、もうじき警官が来るから、仲間割れでの傷害事件の犯人になっちまいな。


 そうして元勇者の仲間たちは、幻惑魔法を食らって仲間同士で殴り合っており、ターゲット不在のままなのを不思議に思わず、お互いに重傷になっていた。


(くそっ、どうなっているんだ)

(まるで幻惑魔法でも食らったようだぜ)

(まさか、あいつ、使えるんじゃ? )

(それこそまさかだろ。勇者一行のオレらですら消えちまったんだ。あいつが使える訳無いだろ)

(おい、肩貸してくれ。足が折れているみたいなんだ)

(悪いが、オレも腕がおかしいし、肩も妙に痛くてよ)

(やっぱりあの野郎が何かしたんだぜ)

(くそっ、あの野郎、もう許さねぇ。怪我が治ったら殺してやる)

(ああ、オレも一緒に殺すぜ)

(殺す前に裸にひん剥いて拷問しようよ)

(ああ、それも良いね)


(おい、こいつら頭大丈夫か? ……どうなっているんでしょうね。我々を前にして殺しの相談とは……全く、大胆と言うかおかしいと言うか。まあいい、全員を連行しろ……はっ、分かりました)


 彼らは行使した事はあっても食らった事が無かった為、幻惑魔法の真髄を始めて知る事になった。

 幻惑とは対象の姿をそれぞれに変え、攻撃対象を敵の仲間になるように惑わせると共に、周囲の景色さえも幻惑し、音すらも聞こえないようになる。

 そんな訳である意味、結界の中での出来事のように、パトカーのサイレンも聞こえず、近くに来た警官の姿も声も知る事も無いままに、彼への殺意を募らせてその相談をした結果、彼らの罪は更に重くなる事になった。

 それに加えて妄想のような言動を繰り返し、事ここに至り、精神鑑定を受けさせる事になる。


 しかし、留置中の彼らの精神は、その夜本格的に狂う羽目になる。


「くっくっくっ、いい様だね」

「お前、どうやってここに来た」

「まさか警官に関係者が居るのかよ」

「我は願う、我を貶めし彼らから光を奪い給え、ブラインド・ウインド」

「な、嘘だろ。おい、何処にいる、おい、おい」

「なんでてめぇだけ魔法が使えるんだよ、くそぅぅぅ」

「何か裏技があるのね。ねぇ、アタシにだけ教えてよ。ほら、この身体、欲しくない? 」

「陽気なる夜の神よ、そなたに捧げよう、さあ受け取るがよい」

「そんな、嘘よ。それはアタシの得意魔法。止めて、お願いだから」

「ソフトタッチ・ウィンド」

「嫌、止めて、お願い、あはははははっ、止めて、あははははは」


 拷問好きな彼女には、彼女の得意技だった拷問魔法をお見舞いしておいた。

 全身の疼痛に何処まで耐えられるかな。

 まあ、耐えられたとしても、笑いはかなりのエネルギーを消耗するうえに、顔がしわしわになるっておまけ付きだ。

 耐えられなければ病院送り、耐えられても老婆のような声と顔。

 さて、どちらが幸せなんだろうね。


 おっと、気配接近か。


「じゃあな」

「くそっ、どうしてお前だけなんだ」

「さあな……転移」


(くそぅぅぅ、どうしてだぁぁぁぁ)

(転移とかマジかよ。くそぅぅぅ、オレも本当なら。くそぅぅぅぅぅぅ)


 盲目になった男たちと、ひたすら笑い続ける女。

 今夜の牢獄はやたら賑やかな事となり、他の受刑者達も煩いと騒ぎ出し、当直の警官には手に負えず放置する結果となっていた。

 なので他の静かな受刑者には傍迷惑な結果となっていたせいで、皆が皆、睡眠不足になっていた。

 そうして彼らは揃って精神鑑定に掛けられる事となり、全員クロで病院送りになってしまったのである。


 その頃、復讐は終わったと、彼は心安らかに熟睡していた。


 それからと言うもの、もはや彼をどうこうしようと思う者は現れず、ひたすらのマナの操作熟練度は向上していた。

 そんな彼が誘致される事になったのは、ある意味必然かも知れない。

 単独での召喚になった彼は既に、対象の魔王すら凌駕するぐらいになっていたものの、簡単に終わらせてはつまらないと、まずは自分の目で確かめようと魔族の領地に調査に出かけた。


 そこで彼は信じられない光景を目にする。


 魔族とは言うものの、見た目は人となんら変わらない人達。

 確かに髪の色が銀色っぽい人が多いけれど、それがどうしたと言うのだろうか。

 道行く人達は召喚された国の者達よりも善良そうに見え、とても話に聞いていた悪逆な存在には思えない。

 街の噂では確かにきな臭い話も聞くが、それを喜ぶ人は居ない。

 誰も彼もがそれを嫌がり、一方的な決め付けでの侵略行為を嫌がり、兵士達も困っている様子だった。


 事ここに至り、彼は召喚者の虚偽を知る。


 彼は魔族に変装してしばらく暮らした後、遂には決意した。

 この光景を守りたいと。

 それからの彼は魔族として戦いに赴くようになり、召喚したはずの勇者の音沙汰も聞かれなくなり、魔王に殺されたという噂が蔓延するようになる。

 彼が意図的に流したその噂は人族の希望を奪い去り、遂には侵攻作戦は止まったのである。


 それからの彼は魔族領に留まり、事が起きるたびに対処するようになっていた。

 いつしか守護神のように皆に慕われ、彼は死ぬまで平穏のうちに過ごしたという。


 めでたし、めでたし?

  

勢いのままに書いた結果、短編になってしまいました。

もっと話を膨らませる事が出来るのなら、連載も可能であったかも知れません。

ですが、残念ながらそんな技量は無いのです。


拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございました。

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