逃げ切れたと思ったけど逃げ切れてませんでした!
「マリィ……出来れば私の隣に貴方を…………」
視界の端っこで水色の髪のイケメンが、1人の女性の前に傅いて手のひらに口付けをする。
おぉぅエンディング突入イベント入りましたか!
これで私のモブっぷりもあと少しで卒業出来る!!
この国はちょっと特殊で、王家と神殿と二つの勢力が仲良く手を取り合って政治とかやってます。
まあ神殿のしてる事は神様のお願いを王家に伝える事なんだけどね。
その神様の願い事を聞く人が姫神子と呼ばれる職業に就くわけで、今回は久しぶりの姫巫女候補者が2名出たわけですよ
1人は貴族出身者で、もう1人は平民。
そして神様が創った擬似空間に、どちらが神様の言葉を聞き取りその願いを叶える事が出来るか競い合う訳です。
姫巫女候補者は、色々な人に神様の言葉の意味を伝え相談を仰ぐわけですよ
その相談者が揃い揃ってイケメン
そのイケメン達と恋をする、そんな乙女ゲーに良く似た世界がココの世界
姫巫女候補者は国が管理する学校に通いながら、学校内に居る相談役に相談をしつつ
好感度を上げて、神様の願いも聞き届け擬似空間内の国を育て上げる
主人公はもちろん平民の女の子、貴族出身者はもちろんライバル
どっちが姫巫女になるかは貴方の育成次第!
主人公が勝って、晴れて姫巫女ED
主人公が勝って、恋愛も成就して姫巫女兼恋愛ED
ライバルが勝って、ライバルとの友情を捨てれなくてライバル補佐官ED
ライバルに負けて、相談者達の誰かと恋をして恋愛ED
まあその恋愛EDは相談者の数だけ存在するんだけど、今ちらっと見えたのは
第3王子との恋愛EDみたいだけどね
そして私がこの世界に気がついたっていうか思い出したのは
私のお兄様の友達がこの第3王子様
名前を聞いてあれ?ってなって思い出したのだけど
私の名前はゲームに出てこないカスリもしない、お兄様の名前も出てこないんだけどね!
ザッモブ兄妹!!
……まあゲームの内容を知ってるから、イケメン達とイベント乗っ取って好感度上げて
誰かとキャッキャウフフをするとか、誰かに忠告をするとか、そんなの面倒なのでしません
私はゲームが行われてる横で平凡に過したいだけです。
まあ、姫巫女候補にも選ばれなかったのでその線は無いのが確定ですけどね!
あとうっかりイケメンとお知り合いになって、女性陣に睨まれる生活とか遠慮します。
まあお兄様が王子様のお友達をしてるので私も貴族なんですが
こんな環境にうっかり片足突っ込んで、貴族世界で生きにくくなるとか遠慮します。
だからゲーム開始されて、なんかイベントもどきみたいなのやってるなーって
思いながらもスルーしまくり、むしろ視界に入れたくもない
そんな生活が苦節3年……
スルーしてても視界の端っこに入るだけでも結構イラっと来る生活もこれでオサラバー!
私はゲームに巻き込まれる事なく逃げ切れたー!!!!!!
って喜んでたのも束の間、いやまじで束の間
お父様の書斎室に呼ばれて行ってみれば、力なく項垂れたお父様と、少し困ったようにお父様の側に立って私の方を見るお兄様……ん?何かあったの?
となんだろうと首を傾げてると部屋の扉を閉めた私の動きに合わせてお父様が顔を上げる。
「第3王子のシュリン様が心に決められたお方、姫巫女候補だったマリィ様をお妃様にするに当たって、我が家でその教育をして欲しいそうだ」
…………はい?なんだって?
「もし教育が上手くいけばそのまま我が家の養女とし、送り出して欲しいそうだ。その教育をお前に任せるポーレット」
ゲームの世界から逃げれたと思ってたら、ゲームのその後に巻き込まれるとは思ってませんでした!!
公爵家とか侯爵家とかだとそんな事頼んだら逆に口出しされそうだし、伯爵家で王子様とも顔見知りの兄が居て、さらに押しの弱いお父様の我が家だと断られ難いのだろうと面倒ごとを押し付けられた気がするけれど、其処は貴族社会上には逆らえないから従うしかないかと、私はお父様と同じように自室で項垂れてしまった。
我が家でマリィを預かり教育する事になり、お妃としての教育は何をすれば良いのか判らないけど、せめて貴族の務めは覚えてもらわないとと私は、そっちの方で教育方針を固めた。
本来ならお母様とかに相談できればよかったのだけれど、生憎我が家のお母様は数年前に他界してしまいこの屋敷の女主人的な仕事は私がしてる訳ですよ。
あとこの事は一応内密だから、他の親戚にも頼れない、あぁまじ王子様面倒ごと持ち込むなよって心の中で悪態をつく。
そんな訳で数日後マリィが我が家にやってきて、とりあえずどれだけ出来るか基準を知るために
学校の成績を見せてもらった。
ほら一応通ってた学校は貴族の方が多くて、授業内容も一般教育から礼儀作法にダンスも一応習うしねと思ってマリィの成績表を見たら、目玉が飛び出るかと思った。
この学校基本できて当たり前だから、成績の段階も結構優しくて3段階
Aが優秀Bが普通Cが最低みたいな感じでマリィのはオールCだった……
良く見たら、擬似空間での国育成の方の成績も載ってて、ゲームでどんなに育成さぼりながらやってもBは取れてたのにそれさえもCだった……
飛び出た目玉が戻ってきません。
「な、なにこれ……」
余りにも言葉にならなくて、唯一出たのがそれだけで
これをどうやってお妃様に出来るほどの礼儀作法とかを教えろと!無茶振りにも程があるだろ!!
って心の中で盛大に突っ込む
「さあ……私にもわからないのです」
ゲームのヒロイン定番のノー天気な返事を返される。
そんな返事いらねぇーちゃぶ台持ってこいひっくり返してやる!!!
くらっとして倒れそうになるのを何とか私は踏ん張った。倒れないだけ褒めて欲しい
そこから血反吐を吐くかと思うほどの教育が開始された訳ですよ…………。
「せめてこの国の歴史は覚えときなさいよ!
ここからここまでノートに10行ずつ言葉にしながら書きなさい!!!」
「ポーレット様!腱鞘炎で手首が痛いです!!」
ノート1冊も埋まらない間に腱鞘炎になるとかどんだけ貧弱な手首なの!!
「どうして簡単なワルツさえも踊れないの、せめてこのリズムの足の動きだけは覚えなさいよ!
基本はこれなんだから、これさえ覚えれば後は殿下のリードでなんとかなるわよ!!」
「ポーレット様足くじいてしまいました……うううぐすぐす……」
どうしてヒールも履いてない靴でこけれるのよ!これがヒロイン補正なの?!ゲーム終わったのに!
しかも人の足散々踏んどいて捻挫とかアホじゃないの!私の足先の感覚返せよ!!!
「せめて茶葉の種類くらい覚えなさいよ!
お妃様になったら、お茶会とか開くときに馬鹿にされるわよ!」
「す、すみません、ポットを…………」
ぎゃー!!!そのティーポットお母様の嫁入り道具でしかも年代物なのよ!!!!
私の思い出もあるししかも形見の品なのに!隠してあったのにどっから探し出して勝手に使ってるの!!!
この怒り誰にぶつけろとー王子様かー!!!!!!!!
「貴族の名鑑よ、これを覚えないと話にならないわ」
「所でポーレット様の家名は何処に載ってますか?」
お前は今現在進行形でお世話になってて、養女になるかもしれない家の家名をしらんのかーい!!!!!!
他にも王子様の要望により、王子様は外交を担当してるからもし国外に視察に行くときに、パートナーとして連れて行くときに他国の言葉を覚えてもらってた方が良いからと、外国語も追加された。
共通語以外も教えろと?しかも私も知らないから私も覚えないと教えれないじゃないか!!!!
一般教養も全然知識として入ってないので頭クラクラさせながらこれらも叩き込むべく覚えやすいようにまとめないとなーって遠い目になる
「あんた本当学校でなにやってたのよ……」
「普通に通ってただけなのですが、授業も受けてたのですがどうしてなんでしょうね?」
むしろなんでこんなので一般市民の姫巫女候補なんだよ
「まさか授業は受けてたけど、ただ居るだけで何もやってないとかじゃないよね」
「え?普通はそれで良いのではないのですか?」
それゲームの時に授業を選択して受けて
『○○の授業を受けた、△△が上がった』
って画面に表示されるだけで、実際リアルでそんな事やってら、聞いたこと見たことを忘れないって言う天才以外がやったら、ただの無意味な行動じゃないかー!!!!!!
もうやだこの子、前世の記憶があって主人公やったー!ってパターンの子っぽいけど
取ってる行動が天然なのかよく判らないアホの子私の手に負えない、もう助けてー!!!!
あぁ、そろそろうちの館でお茶会の予定があったんだ、一応館の主として采配しないとなーと
色々と煮詰まった頭を動かしながら、マリィにも手伝うように指示を出す
ほらお妃様になったら、自分でお茶会開いた時に、一応こういう流れってのを覚えないとダメでしょ。
出してあった招待状の返事を見て、テーブルの数とそのテーブルに座るお客様の人間関係を考えながら配置を割り当てる。
「この人とあの人は仲が悪いから絶対に同じテーブルにしちゃダメよ、じゃないとその後の貴方の名誉の扱いが酷いことになるからね、あとこの茶葉にはこういったお菓子が合うから、きちんと茶葉とお菓子の相性も考えなさいよ、あと…………」
家令に指示を出しながら、マリィに一つ一つ私のやってる内容とその訳を説明してメモを取らせる
なんというか、授業真面目に受けて無かっただけで、こっちが説明してきちんとメモを取らせたり、覚えさせたりしたら、普通位になってきた気がする……。
そろそろこの家庭教師みたいな役割終わるかなーって楽観しそうになって来たところで
「私、ポーレット様のお手伝いをしたり、家庭教師を務めていただいて良く判りました、私にお妃様とか貴族は無理です。
シュリン様には申し訳ないですが、断らせてもらおうと思います」
彼女は私の叩き込んだ綺麗なお辞儀をしながら、私に謝罪をして屋敷を去っていった……。
…………まじどうしてこうなった……私の今までの苦労ななんだったんだー!!!!!!!
そして私は第3王子様のシュリン様に呼び出されるわけですよ。
マリィを虐めてお妃様にさせたくないの?とかそういう方向での話しなのかなー
もしかしてそれが原因でお家存続危うくとなるとか取り潰しとかになるのかなぁ……
あぁ嫌だって胃をキリキリさせながら王子の執務室に入る。
「私のお妃がポーレット、君に決まったよ」
「は?」
王家の象徴の水色の髪の毛が光に当たってキラキラしながら、王子様は私に向かって笑顔でそんな事を言い放った。
「ポーレット、君さ元々私の婚約者候補だったの覚えてるよね?」
「はい、まぁ……」
それまではお兄様のお友達で憧れの王子様ともしかしたら将来結婚……ポッとか思ってたけど
前世思い出して、乙女ゲーム巻き込まれるとか勘弁とかあったけど、最大の理由は
前世を思い出してしまって、本当にお妃様とか面倒でやってられん私は候補から外れてやろうって事ですよ。
あわよくばゲームの主人公ちゃん王子様のハート射止めてね☆って思ってましたよ。
王子様の話をまとめると、マリィさんやたら他の攻略対象の男性陣とかライバルの姫巫女ちゃんからの苦情が凄くて、王子様が防波堤をやってたんだって、それでも成績が良かったら民衆からの好感度上げに、お妃にしても良かったけど、あの成績だもんね……。
他の攻略対象の人達が冷たくあしらったのと、王子様がやたら話しかけてたから、マリィさんきっと王子様ルートに入ったとか勘違いしたんだろうな……(遠い目
「いやでも、私の隣に貴方をとか言ってたじゃないですか!」
あれはEDの時の決め台詞だ!だから私も王子様EDだと思ってたのに
「それ『できれば』がつくよ、絶対にとか言ってないからね」
それへ理屈って言うんですよ!!!
「ポーレット、君さマリィが現れてから僕に話しかけなくなったよね、あわよくば面倒なお妃を彼女にとか思って逃げてたでしょ」
ゴゴゴゴとかドドドドドドって音がしそうな笑顔こっちに向けないで下さい。
私も笑顔で対応してるけど、ちょっと視線が横に逃げてしまう。
「まあ君の所で彼女が使えるようになるもよし、音を上げて逃げるも良しって思ってたけど……
まさか『現実を思い知りました、ポーレット様の必死に私に教鞭をとる様をみて、身の丈の合った生活の大切さを思い知りました。私にはあのような貴族の生活は勤まりません』って断りに来るとは思って無かったよ。
君の面倒見の良さである意味彼女は逃げれたんだね、このしがらみの多い世界から」
シュリン王子がニヤニヤしながら私を見る。
うわぁ……
「そんな訳で、婚約者候補だった君が格上げされてお妃様に決定されました、マリィが辞退してくれなかったら側室として君を迎え入れる所だったよー」
いつの間にか席を立ち、こっちに歩み寄るシュリン様
一歩一歩前に足が進むにあわせて、私も一歩一歩と足が下がる
かかとにコツンと何か当たる感覚で、壁にまで追い詰められたのが判った。
私の顔の高さでシュリン様が壁に手を当てる
「私が君を望んで候補者にしてあったのに、逃げられると思ったの?」
私の耳元でシュリン様が囁いた…………
後でお兄様に、あれだけポーレットにゾッコンなのに、君を放すわけないでしょ
マリィさんの教育も、殆どは逃げようとした君への嫌がらせだよ
そんな案に乗らないと脅されたから僕も父上も項垂れてたんだよ、って言われた。
どうやら私は逃げれそうにありません