再会の場所
注意:初見でない場合、前回から一部変更・追加された内容があります
やさしく暖かい春のそよ風が、河川敷で華やかに咲く桜の花びらを大空へ運ぶ季節。
大空に舞う桜の花びらを眺めつつ、茶色い革の鞄を右肩に提げた私は1人、ゆっくりと河川敷の道を歩いていた。
今日は、高校の頃仲の良かった友人たちと8年ぶりの再会になる。
久しいと言っても、まだ離れ離れになってから8年ほどしか経っていない。だが、私はこの8年がとても長く、遠く感じる。
高校までの生活がとても楽しく、印象的であったからこそ、今こうして再会するまでの時が長く思えるのだろうと思う。
桜の舞う河川敷からおよそ20分。この辺では大規模ともいえる商店街を歩く。
八百屋や魚屋のおじさん達は、買い物に訪れた主婦の方を威勢よく招きいれて旬の食材を提供している。本屋を覘くと、アルバイトをしていると思われる高校生らしき少女が、カウンターの席で辞書のように分厚い本を真剣に読んでいる。道端で語らうおばさんや子連れの主婦なんかは、暖かみのある表情をしながら笑い合っている。
この町は私の故郷であり、この商店街は私の大切な思い出の1つでもある場所だ。
8年もの歳月が経っているが、ここは近代化が急速に進み冷たくなる時代に負けないくらいの暖かを、今も変わらず保っていた。そんな商店街を見た私は心が温かくなっていくのを静かに感じながら、目的地へ向かった。
商店街を少し抜け、マンションや立派な一1軒家が建て並ぶ住宅街へ来た。
商店街からそう遠くもない、外装が洋風のような1軒家に着き、静かに扉を開ける。
この家は、私が小学1年生の頃に出来たカフェで、外見が洋風で玄関には花壇いっぱいに季節の花が咲き誇っている。しかし、中へ入ってみると木の板張りの壁と、楠の木で出来た大きなテーブルやカウンターがあり、外見と内装のギャップがある。
私が初めてこのお店に訪れたのは、大体小学2年生の頃だった。父に連れられて初めて訪れたが、玄関先に咲く花や中の感じが凄く居心地が良かったことを、今でも強く覚えている。
中へ入ると、ほんの少し茶色の混ざった黒髪でポニーテールをした若い女性の店員が声を掛けた。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
私は「いえ、約束をした人がいます」と答える。
すると、大きな窓から光が差し込む、客室の四隅のテーブルに座る、私と同じくらいの年齢をした男性がこちらへ手を振った。
店員も気づいたらしく、「あちらの方々ですか」と確認し、男性のいる席へ案内してくれた。
席へ着き、鞄を隣の椅子へ置きくつろぐ。
先ほど手を振った男性の隣には、誰もが見とれてしまいそうな漆黒の黒髪をした、小顔で目や鼻など形の整った女性が座っている。顔がとても幼く見えるし、身長も小さめのため、まるで高校生のように思われそうである。
手を振った男性の方は、短めの髪なのだが癖っ毛のため少々ボサボサとした茶色の髪、目が大きめだがどことなくクールな感じを持つ、よくあるイケメン顔をしている。座高から見ても、身長は190cmくらいは確実にあると思う。
この2人は私の同級生であり、私の大好きな親友である。
黒髪で童顔な女性は横咲瑞穂、隣に座る背の高いイケメン男性は永井志信という名前。
「久々に会ったね、柚香さん」
私、友沢柚香の名前を呼ぶ志信。
彼とは高校で離れ離れになって以来、8年ぶりに再会したことになる。彼の少し低めのトーンでゆったりとした声がとても懐かしく聞こえた。
「久しぶりだよね。しのぶんに会うのは」
高校の頃呼んでいたあだ名で彼の名を言う。
すると、彼は少し恥ずかしそうに顔を赤くしながら、「そのあだ名聞いたのも、高校以来で久々だよ」と話す。
「瑞ちゃんとはこの前1回会ってるけど、しのぶんとは完全に高校以来だもんね」
「確か言ってたな、瑞穂とはパチ公前で出くわしたって」
「お陰で、こうやって再会出来たからね。 ……そうそう、2人ともレインのIDか電話番号教えてよ」
私はスマートフォンを鞄から取り出し、2人の連絡先を教えてもらった。
元々、2人の連絡先は中学の頃から知っていたが、2年ほど前に私がスマホを水没させてしまい完全に機種変をした事で彼ら含め全ての人の連絡先を失ってしまうという大ドジを踏んだ。
会社などの人の連絡先は、機種変後早急に回収できたのだが、元々親しい友人の少ない私なので、志信と瑞穂の連絡先は今日に至るまで回収出来なかった。
「でも、瑞ちゃんから会おうって誘われたのは希少価値だね」
瑞穂はとても静かで、あまり感情を表へ表さない性格をしているため、人と接する事が苦手である。私にも所々感情を押し込めたりするため、彼女から誘われる事自体稀なのだ。
「柚さんと会うついこの前、志信くんに『また柚香たちと集まって、生まれ育った町で散歩でもしたいな』って言われてので」
「確かに言ってたな。でも、瑞穂が誘って、柚香さんとこんなに早く会えるとは思って無かったよ」
志信は少し微笑み、テーブルに置いてあるコーヒーを飲んだ。
瑞穂は志信の話を聞き恥ずかしくなったのか、私が来るまでに読んでいた本で自分の顔を隠した。彼女の性格は、別れる前とさほど変わっていないところも、また懐かしく思った。
志信や瑞穂と久々に会話を交わしているところ、先ほどから見かける女性店員がデザートを運んできて、私たち3人の前に置いた。
「店長からの特別サービスだそうです」
女性店員はそう言うと、ニコっと笑顔を見せて、「ごゆっくりどうぞ」と一声掛けた後カウンターの方へ戻った。
私た3人の前に置かれた品は、小さなカップの底に溶けたチョコがあり、その上を順にスポンジケーキ、薄く赤いホイップ、バニラとチョコのアイスが重ねられ、トッピングとしてバニラアイスの横に薄くスライスしたバナナが2枚、アイスの上に白い粉糖がまぶしてあるパフェだった。
「あ、懐かしいパフェだ!」
久々に見たパフェを眺め、つい子供のように大きな声を出してしまった。
このパフェは、私が中学1年生の頃このカフェの店長のおじさんが新商品として提供を始めたパフェなのだ。見た目はシンプルだが、アイスやホイップの味はおじさんが殆ど手作りで作っていておいしい。しかも、価格も200円弱なので提供当時なんか、子供たちは勿論、女子高生や主婦の層にも大人気だった。
私も例に漏れず、母から月1回のお小遣いを貰っては食べに来ていた。
どうやら今でもこのパフェは健在している事を知ってうれしい気持ちと同時に、大好きなメニューが残っていた安心感がこみ上げてきた。
「ここの店長さん、まだ元気そうだね」
「……おいしい」
志信と瑞穂は早速パフェを一口食べた。
私も一口、パフェを食べる。
「このちょっぴりほろ苦いチョコアイスと甘酸っぱいイチゴホイップのコンビ、今でも変わらずおいしい!」
「あと、ホイップの量も少し多めだ。店長さん、僕達のこと覚えていてくれたんだね」
ここのパフェに入っているホイップは通常横にした親指程度の厚さなのだが、私たちがこのパフェを頼んだ時だけ特別に、ホイップが2倍の量で出してくれるのだ。
何故私たちだけホイップ2倍なのかは未だに不明だけど、甘いもの大好きな私たちからすれば特別感じがあった。
そんな記憶も、店長さんは今でも覚えていてくれた事に感謝した。
お店でパフェを食べたり、話をしているうちに、およそ1時間たった頃。
「そろそろ、彼の家にいこうか」
志信が次の目的地へ誘った。
「そうだね。あんまりこんなところで3人遊んでると怒ってきそうだしね」
「そうですね。彼は意外と寂しがり屋だったりしますから」
私たちはカフェを出る準備を素早くして、女性店員に挨拶をしてお店を出た。
そして、私たちの大親友であるもう一人、保田 朋樹の元へ向かった。
次話はこの続き(数分後)からです。
(しょっぱなとか思いっきり数字違うところがありましたので、至急訂正しました)
(因みにここで出てくるワードで、レインはラ○ン、パチ公はハ○公になってます)