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深窓の毒女

作者: バオール

 お元気でしょうか。

 私たちが手紙をかわすのも、これで何度目になるでしょう。溜めた便箋を読み返しても、数える前に文章に眼が行ってしまい、いまだに分かりません。

 私は塔の窓から粉煙草をふかして、紫煙を撒き散らし、何を書くべきが考えています。重ねた年月は増えるばかりですが、思い出は積もっていません。ここ数年は塔の中で過ごす日々なので、思い出されるのは、外に出ていたときのことばかりです。

 毒女と呼ばれ畏怖されていた、あの時。

 野原を歩けば、足跡が腐れ、毒が周りを汚しました。産まれた時から毒と不幸を撒き散らしていましたが、薬と毒は表裏一体です。だから、私は生かされていました。

 蒔いた種を刈るために、私は生きることを認められていました。

 悲しいですね。本当に。

 村にいたときに、ある男の子に告白されたのを覚えています。初めて好きと言われて舞い上がり、唇をかわしてしまい、唾液の毒素が男の子を蝕みました。幸い、命に別状はありませんでした。私由来の薬で彼は治療されたのです。

 ただ、そのあと姿を見たことがありません。

 もしかしたら、亡くなっていたのかもしれませんね。

 成人になる前の頃、私は魔王と呼ばれる男に見初められました。歩けば街が吹き飛ぶような恐ろしい男でしたが、私と出会ったことで歩みを止めてしまいました。彼は腐れるのを覚悟に、私を愛してくれました。その日々は忘れがたいもので、思い出が灯心のように温め、照らしてくれます。

 終わりの日も、魔王の衰弱を喜ぶ歓声に包まれていながらも、最後まで温もりをくれました。

 そして私は救出され、魔王の妻として幽閉され、今に至ります。

 未だに、私の毒素は世界を蝕んでいるそうです。

 ときどき若い男がグラスを持ち、私に懇願しに来ます。私は指先を噛み、グラスに薬の元となる毒の血を提供しています。ただ、これは内緒なのですが、若い男は指先の傷を舐め、一滴も漏らさないように味わってくれます。彼は吸血鬼のようで、毒混じりの血液は、禁忌の縛りを受けているため非常に美味しくなるそうです。

 というわけで、なんだかんだで狙われているので、早く戻ってきて欲しいです。

 旅の先々から送っていただく絵葉書はとても美しく、流麗な文字も嬉しいですが、そろそろ普通の会話がしたいです。

 願わくばこの手紙は届きますように。

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