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幻の里へ
「なぜ、私を襲った」
頼邑が鋭い声で訊いた。
ふたりの男は答えず、恐怖に顔をゆがめたままだ。頼邑は納刀し、荷物から、行李から晒や貝殻につめた金創膏などを取り出した。
小柄な男は、怪訝な顔をしているが、かまわず頼邑は、小柄な男の着物を裂き、金創膏をたっぷり塗った油紙で傷口を押さえ、晒を幾重に巻いた。
「情けなどいらね……」
と、憎まれ口を叩いたが、抵抗することはな く、頼邑をじっと見ていた。
「しばらくすれば血もとまるだろう」
骨や筋に異常はないので傷口さえ塞がれば心配ないはずである。
「可笑しなやつだ」
そう言葉を洩らし、視線をおとした。
それにしても、どう訳あって頼邑を襲ったのか分からない。恨みを買うような覚えもないので、もう一度訊いてみた。
すると、顎のとがった男が、
「話せば長くなる」
と、小声で言った。
「話す前に我らの里へ案内しよう」
と、頼邑の背を向けた方向に眼を向けた。 その道は霧と闇に覆われていた。