表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『神ニアミス』【掌編・コメディ】

作者: 山田文公社

『神ニアミス』作:山田文公社


「突然で申し訳ありませんが、本日であなたの寿命は終了です」

 黒ずくめの男が突然そう告げた。

「え、ええと……誰?」

 俺はそう聞き返すと、黒ずくめの男は懐から名刺を取り出して、俺に手渡した。

「申し遅れました。わたし冥府の鬼籍の転籍管理しております、死神の倉田と申します。突然の告知に戸惑われるでしょうが、なにぶんこれも運命さだめですので、おとなしくこちらの指示に従って頂けたら、非常に助かるのですが……」

 俺は男が何か宗教関係か何かの回し者としか思えず、つい口癖のように「結構です」と答えていた。しかし黒ずくめの男……倉田は尚もしつこ食い下がってきた。

「いえ、その受託拒否に関わらずに、非常に残念ながら今日があなた命日です」

 俺は首を傾げながら、聞き返した。

「えーと、それはつまり死ぬって事?」

「オフコース、今日あなたは死にます」

 微妙に使いどころが違う気がするが、そこは突っ込まないほうが良いと思い、そっとしておく事にした。

宮村祐みやむら ゆうさんですよね?」

「ええ、そうですけど」

「確かにあなたの名前は死亡リストに記載されております。鬼籍にも転籍予定日が書かれていますので……間違いありません」

 倉田はノートと、台帳を見合わせながらそう言った。

「なに鬼籍って?」

 俺はいまいち意味が分からずに倉田に尋ねると、倉田は驚いた様子で首を傾げながら、唇を軽く噛んだ後にゆっくりと説明を始めた。

「地獄の閻魔大王はご存じですよね? その地獄は正確には『冥府』と呼ばれておりまして、その冥府のアジア支部統括が閻魔支部長となっていまして、その管轄下の戸籍の事を『鬼籍』と呼んでいるのです」

「つまり……どういうこと?」

 倉田は驚いた顔をして、眉の根を指で押さえた。

「えーつまり……、死んだ後の戸籍ですね」

 ようやく俺は倉田の言葉が理解できた。つまり鬼籍とは戸籍らしい。

「で?」

 それが、いったいどういう事か分からないので俺が聞いた。

「え? ええと、私が来た理由とかはご理解頂けてます?」

 なにやら怪訝な顔で倉田は俺に尋ねてきた。

「何が?」

 俺は分からずに聞き返した。

「私が来た理由……わかります?」

「さあ……」

「ええっ! 私の話を聞かれてました?」

「はい」

 倉田は、なにやら呻き声を上げながら、頭を抱え首を傾げてみせた。そしてしばらくして、明後日の方向を見てから、なにやらリズムを取る仕草をみせてから、改まって説明し始めた。

「えー、うん、今日あなたは死にます。」

「なんで?」

「あーいや、ゴメンね、とにかく最後まで聞いて最後まで、それから質問受け付けるから」

「え、なんで今日俺死ぬの?」

「いや、だから……」

「あー、わかった。そう言って俺を騙そうとしているんでしょ?」

「いや、ね、少し黙って聞いて」

「先、言っておくけど俺、金無いから」

「だから……」

「とりあえず、俺バイトあるんで」

「ちょっと待てぃ!」

「なに?」

「黙って人の話を聞けないのか? おい、最後まで黙って聞けよ、大事な話だからさ!」

 何故か突然、倉田は切れた。

「なんでキレてるの?」

「とにかく、今日君は死ぬから、死んだら、私に従って行動してください、いいですか?」

「はい……なんで?」

「うん、もうわかった。とにかく君は今日死ぬから」

 そう言い倉田は投げやりに言った。

「いや、死ぬのは分かったけどさ、何で死ぬの?」

 俺の質問に倉田は面倒臭そうにしながら、ノートを開いた。

「じゃあ、本来は教えたら未来が変わる場合もあるから駄目だけど、大丈夫そうだから教えますけど……ええと、宮村祐、慢性腎炎による急性腹膜炎を発症し死亡……と」

「慢性腎炎?」

「腎臓の病気」

「俺、腎臓の病気とか無いけど」

 驚いたように倉田は聞き返してきた。

「……ないの?」

「それ、間違ってね?」

 そう言い倉田は再度読み直した。

「えぇ、まさかぁ……嘘」

 ノートをパラパラとめくって、倉田は驚くように声を上げた。

「あのー、いま62歳ではないですよね?」

「俺、そんな老けて見えるの?!」

「どうみても20代ですよね……そうですよね」

 そう言い、倉田はノートを閉じて、軽く頷きを繰り返しながら、首を明後日の方向に向けて歩き始めた。しばらく歩いてからこちらに向き直り深く頭を下げた。

「本当に申し訳ない、人違いでした!」

 そう言い倉田は走って逃げて去った。

「なんだっんだ? あいつ」

 そう言い宮村祐はバイトに向かう。


 ときどき地上に起きる神と人のニアミスは、こんな風して気づかれる事無く、誰にも語られずに人知れず消えていく。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ