表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命短いセミだった少年、裏を返せば単なる無鉄砲。さあ、恋を手に取って戦場へ。  作者: ぴこたんすたー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

第1話 弱者の冒険の始まり

随分、前の作品になりますが、今もなお人気がある作品の一つです。

セミとしての淡い恋がテーマで、当時は何とかして読者を増やそうと、気合を入れて書いた短編でもありました。

そんな反骨精神が浮き彫りにされた作品です。

 太陽がギラギラと照りつける夏。

 僕たちの輝かしい季節がやって来た。


 大人になり、大きな空を飛ぶことを夢みて、僕は長年、地中の村で暮らしてきた。


 そう、僕は夏の風物詩でもある昆虫のアブラゼミだ。

 特に名前はなく、個体番号731と呼ばれていた。


「おおっ、中々いいヤツがいるぜ」


 だけど社会に羽ばたく成虫になるために地底学校を卒業し、地上の世界に出たのも束の間、僕は大きな人間に捕まってしまった。


 相手は小学生くらいの男児か。

 僕はジタバタともがくが、人間の握力には敵わなく、どうにもならない。


 長い間、暗い土の中で過ごし、先生の授業の話からでしか分からなかった外の世界。

 ようやく、未知の風景が見れると思ったらこれだ。

 僕のセミとしての生涯もここまでか……。


「コラッ、何やってるのよ。芒次ぼうじ!」


「あっ、邪音じゃねお姉ちゃん。凄い素敵なのが見つかったよ」


「もう、セミなんて食べれないでしょ。それに成虫前のじゃん。逃がしなさい」


「ええー、これ、友達に見せたら喜びそうなのに」


「駄目よ。奇人変人ゴッコなら、中石ちゅうこく大陸でやりなさい」


「ならさあ、偽造でもいいから、海外行きのパスポート作ってくれよ」


「あんた、本気でこのセミを調理する気! ちょっとそれをよこしなさい!」


「あっ、何すんだよ!?」


 水色のワンピースで黒髪ロングヘアーの『邪音』と呼ばれた美少女が、白の半袖、半ズボン姿の丸刈りの少年から、強引に僕を取りあげ、近くの草影にそっと置いてくれた。


「もうこんな子供に捕まらないでよ。これからも元気に暮らしてね」


 僕はご丁寧に優しく手を振る少女に感謝しつつ、この場をあとにした。


 授業で習ったことわりの通り、僕なりに誤解していた。

 人間の中には、いい人もいるもんだなと……。


****


「なんだと、お前、人間になりたいだと!?」


「そうなんだ。僕、あの日から、その人間の女の子が好きになっちゃってさ」


 僕は無事に自宅のほら穴に戻り、葉っぱの夕刊新聞を読みながら、仲間たちの無線を聴いていた大人のセミの父さんに対して、酔っぱらいのように、この熱い想いをぶちまけた。


「だが、私には見当もつかんが……」


「そう言わず、何とかしてくれよ。このまま、悶々と眠れない夜を過ごすのは嫌だよ」


「うむむ……そうだな。もしかしたら、この村の長老様なら、何か知っているかも知れんな」


「やりぃ、長老だね。そうと決まったら、善は急げだ」


「おい、ちょ、ちょっと今は待てい!?」


 僕は夕暮れにも関わらず、父さんの言葉の投げかけを聞き流し、長老ゼミが住んでいる樹齢100年足らずの大木へと突入するのだった。


 一足早く、一皮剥けて翼を生やした同世代の男子の大きな背中に乗って……。


****


「いやー、いい飲みっぷりじゃのう」


「きゃはは、おじいちゃん元気すぎだって。あたしの体がもたないわ」


「じゃあ、次はこっちをもらおうかのお」


「いやーん、その豪快な男らしい姿、見ていてゾクゾクしちゃう♪」


『──ドカーン!!!』


 フカフカのソファーに座り、セクシーな赤い胸空きドレスのミンミンゼミ女性と黒のタキシードのクマゼミの長老が、樹液酒を仲良く飲んでいたとも知らずに、扉をぶち破り、部屋の中にパイナップル爆弾のように転がり込む僕。


 これには酒の酔いも覚めたのか、女性も目つきが点々となっている。


「ああ、あんた……離婚したのは聞いてたけど、こんな暴走的でイカれた隠し子がいるの? 

こりゃ、せっかくの合コンもえたわ。もうあたしゃ、帰るわ」


「ああ、誤解じゃよ。この子はワシの子じゃない。それに君の好きな切り株の蜜でのデートの約束はどうなるんじゃ。愛しき君よ、待つんじゃ!?」


 なぜか、朝から姿を見ないなあと感じていたら、今日はセミ同士による合コン、いや、再婚? パーティーだったとは。


 泣く泣く相手パートナーを失った、長老の背中が小さく見えた……。


「はては、お主、今日のこのことを知って、このような強行策を選んだのか。()()()言えい!」


()()()


「お主、マジでぶっ飛ばすぞい!」


「まあまあ、そう言わずにさ、合コンなんて生きていれば、いつでもできるじゃん。それよりもちょっと僕の話を聞いてよ」


「それはワシの老い先短い求愛行為よりも、大切なことなのかの……?」


「ああ、浦島次郎の開けてビックリ騙し箱だよ」


「お主、ワシを騙す気マンマンじゃな。それに浦島○郎に弟がいるとか初耳じゃが!?」


「まあね。タブレット端末の普及で日本史の内容は日々進化しているからね。まあそれより本題に入るよ」


 僕は長老にも、彼女への切なる想いを説明した……。


****


「そうか、それで、ここに訪ねてきたんじゃな」


 長老が僕の座ったテーブルに、今日採れたての朝露の飲料水の入った紙コップを置く。


「しかし、惜しいのう。あの長寿の樹液酒を飲み続ければ、通常より遥かに数十年は長生きできる選択があるのに。わざわざそれをせずに、人間として生きるとはな」


 奥に貯蔵してある何個もの酒の入った樹樽を指さしながら、ほうーと困り果てた溜め息を吐く長老。


「……と、言うことは、やっぱり()()()()から、()()になれる方法があるということか。どうすればいいんだ?」


「何、簡単なことさ。この植物に、お主の命を捧げればいいんじゃよ」


 長老が桐のタンスをゴソゴソと漁り、一つの細長いモヤシの苗のようなものを、僕に放り投げる。


「おっとっと、何でもかんでも投げないでよ。えっと、いや、これは……?」


 よく見ると苗だったものの根っこに、何やら黒い蟻のようなものが引っ付いている。


「まさか、これがあの納豆菌?」


「いや、それはちと違うわい。これはワシが研究を重ねて作った、噂の()()()()の『人になれるバージョン』じゃよ」


 長老の話によれば、僕の体にこの人間のDNAの菌を植えつけ、その菌のパワーで人間になれるという、()()()たまげた発想だった。


 セミとしての命を根から養分として吸収し、それを糧にそのまま人間の体へと移す。

 まるで出来上がった書類に、何度もコピーを刷るかのように……。


 だが、激しい痛みや異物の拒絶などの副作用などもあり、場合によっては自我が保てずに、この手元にある蟻のように、()()()に命を奪われる可能性もあるらしい。


『お主は、それでも良いか?』と問う、長老の言葉に僕は強く頷き、頑なに横には振らなかった。


「そうか、それなりの覚悟はあるんじゃな。では、時間ももったいないし、即座に菌の植えつけを始めるかの」


「はい、よろしくお願いします」


 あの子と対等に話せるなら、なりふり構う暇はない。


 僕は賭け事はよく知らないが、今回ばかりは一寸いっすんの光に賭けたのだった……。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ