壊れた壁と、崩れる自信
視察に来たというソルドの口振りから、俺達のダンジョン運営は順調とのことだった。
人間を採用したこと、ボスのペア制を取ったことは実験的な面もあったらしいが、テンポよくDランクまで昇格したことでソルドがダンジョンを閉鎖している日に直接話を聞きに来た。
「なるほど……。″週末限定ダンジョン″と″内部構造の工夫″か。その他にも何か試してみたか?」
「あとは″希少モンスターの配置″ですね。週末限定のダンジョンで他では討伐しづらい、戦い頻度が少ないモンスターが出るとなると、リピーターが増えるんですよ。そうすると、より効果的な罠を設置できて節約にもなりました」
ふむ、とソルドが記録を取りながら尻尾を揺らす。
ルナリス曰く、有尾族は尻尾に感情が出やすいらしく、それはポジティブな動きらしい。
視察なんて言われた時はどうしようかと思ったが、良い印象を持たれるなら良しとしよう。
ほっと胸を撫で下ろすと、それを見逃さないとでも言うようにソルドの尻尾は動きを止めた。
「それぞれのアイデアは、他のボスも取り入れているケースもある。だが、解放する日にちを減らしたことで存在に気づいてもらえない、魔力容量のコントロール、設計に困難するといったところが多い」
地道な宣伝活動や、ダンジョンの成形が勝因だったな、と評価した点を挙げてくれた。
しかし、と前置きをしながら壁をコンコンッと叩く。
「今はDランク程度であれば考えなくて良いが、敵が強くなると壁や床を破壊するほどの技や魔法を使う者も出てくる。いつまでも通用する作戦じゃないことは頭に入れておけ」
ソルドの指摘はごもっともだ。
俺達の作戦は、ダンジョンの内部構造を脆くしている。
核の間を最深部に隠したところで、壁や天井を壊されてしまっては意味がない。
「……魔石が破壊されるとどうなるんですか?」
「それはララに聞くのが良いんじゃないか? 全く、ダンジョンに名前をつけることはあっても魔石に名前をつけていたのはお前達が初めてだよ」
やれやれ、と呆れたように溜息を吐くソルドの尻尾は振子のように揺れていた。
思わず口角が上がるが、気付かないフリをしてあげよう。
『名前をつけてくれる人も昔はいたけどね。確かに最近はドライな人が多いのかも』
いつから話を聞いていたのか、髪を流す風と共にララの声が響いてきた。
「あれ? ララって生まれたてのダンジョンなんじゃなかったのか?」
「僕はまだ出来て日が浅いよ。でも、魔石は君達とは命の考え方が違うから。別のラブラドライトも僕だと言えるし、繋がっている部分もあるんだよね」
人間だってたくさんいるし知恵を分かち合うでしょと説明されるが、あまりピンとはこなかった。
そもそも石と喋っているというのは、今でも信じられない時がある。
いくつか聞き取りをした後、ソルドは転移魔法を使って魔王城に帰って行った。
ララを介せば連絡は取れるらしいが、気疲れをするので極力控えたいところだ。
「他のボスも似たような事をしていたんですね。こんなに早くDランクまで昇格しましたし、もっと褒められるのかなって期待しちゃってました」
ソルドがいなくなった解放感からか、ルナリスがいじけたように項垂れた。
おどけるように小さくステップを踏むものの、自信の無さが音に表れている。
「後ろ向きになることはないと思うぞ。他より上手く出来てるってのは間違いないようだし。順調にララの容量も増えてるから出来ることも増えていくさ」
そうだ。わざわざソルドが視察に来るなんて、それだけ期待されているってことだ。
大丈夫、とルナリスでもララでもなく、自分に言い聞かせていた。
ふと壁をコンコンッと叩いてみる。
確かに少し軽くて高い音がした。
着実に魔力は蓄えられているんだ。これから補強をしていけばいい。
焦らず、じっくり鍛えて行こ──
『ネモ! ルナリス! 敵が侵入してきたよ!』
突然の警告に心臓が跳ねる。
馬鹿な……、今日は閉鎖していて入って来れないはず……。
背筋に冷たい汗が流れた。
壁を叩くと、軽く高い音が響く。
誰かがダンジョンの壁を壊したんだ。
何者かの牙が、喉元に迫っていた。




