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信頼の足音、勝利の拍手

 村にいた頃は人付き合いが苦手な方だと感じはしなかった。

 狭い世界で子供の頃から知っている人達に囲まれていたから。

 中央都市の人の多さ、冒険者になった途端に有象無象の一部となり、徐々に人との接し方が打算的になった。

 金も無く、一人の時間が増えると、装備の手入れをする機会が増える。

 だからこそ、ボス用に支給された装備の良さに面食らってしまった。


「だいぶ馴染んできましたね。すっかりボスって感じです」


「ルナリスこそ。そのブーツはどうだ? 最初は重そうだったけど」


 返事の代わりに軽快なステップで応えてくれた。

 タタンッ、タタンッと靴底から小刻みに鳴る金属音が、戦闘の緊張を解いてくれる。


『二人とも、気をつけてね。大怪我しなければ僕が治してあげるから』


 ダンジョンの魔力を消費することにはなるが、重傷でなければ手当てをしてもらうことが出来ることがわかった。

 冒険者の頃は、高額になってしまう治癒魔法を受けるなんて夢のまた夢。

 貯めた魔力の無駄遣いは避けたいとはいえ、着実に戦闘経験を積めるのは俺とルナリスには理想的な環境だった。


「作戦通りに行こう、ルナリス!」


「大丈夫、大丈夫……。よしっ! フォローお願いします、ネモさん!」


 何度目かの戦闘。

 まだ手に余る黒い槍と傷の少ない鉄の鎧。

 ルナリスの動きも固さが取れてきたからこそ、今日の敵は負けられない。

 迎え撃つ広間への道を、風がそっと背中を押してくれた。


 待ち受けた扉が開くと、見知った顔が二人と知らない顔が二人。

 オルスとサッドの二人と最後に交わした言葉は覚えていない。

 傷を負った俺を置いていったとは言え、ハッキリと別れを切り出された訳ではなかったから。


「お、お前……、ネモか?」


 オルスはまるで、幽霊にでも会ったかのような顔をしていた。

 普段は冷静な彼も、死んだと思っていた昔の仲間とダンジョンで敵として再会すれば、少しは取り乱すか。


「ルナリス、後で話す。だから、作戦通りに頼む」


 何かを言われた訳じゃない。

 ただ、彼女は優しいから躊躇うと思ったんだ。

 背後で鳴った金属音が、了解と力強く応えてくれる。


 見知らぬ二人は初めての同行だったのか、敵は四人という数の有利を活かせてはいなかった。

 ルナリスの魔法のキレも増し、俺達の連携が上手く取れているのもあるが。


「ネモさん、次いきます!」


 タンタンッ、タタン、タタンッ。

 激しくも小気味良い音が部屋に響く。

 後方に下がる魔術師を、ルナリスの魔法が強制的に引き寄せてしまう。

 タンッ、タタタン、タンタンッ。

 ルナリスの踊りを止めようと向かうサッドが、急に壁に向かって飛んでいく。

 力自慢だった彼も動きを封じられれば脅威ではない。


「おい! 何やってんだお前ら!」


 オルスの焦りと苛立ちが部屋に充満していた。

 作戦通り、アイテムバッグから煙玉を投げて追い討ちのように視界を奪う。


「クソッ……、今度は何だ! 陣形を立て直せ、この煙じゃ相手も見えてねぇ!」


 そう。半端な煙幕じゃ意味がないからな。

 ただ、ルナリスの魔法で冷静さを欠けば自然と声が出る。

 そこを目掛けて槍を突けば──。


「ぐぁぁぁあ!?」


 聞き慣れた声が、悲鳴に変わった。

 ルナリスの位置は音でわかる。

 彼女の纏うヴェールが少しずつ煙幕を払ってしまうが、この槍があれば時間はかからない。

 声の位置で獲物の急所は想像がついた。

 煙幕を張ったのは俺の弱さだったのかもしれない。

 相手の顔が見えていたら、この槍を握る手に迷いが出るから。


 ルナリスと立てた作戦は他にもあったが、実戦ではそこまで上手くいかないな。

 お互いの未熟さを時間と工夫でカバー出来たのは大きな成果だ。

 意識を失った冒険者が床に伏せることで、ララがゆっくりと魔力を吸収している、らしい。

 魔術師系で無くてもララの経験値に出来るのはありがたい。


「お、お前……、やっぱりネモだよな……。どうして、ダ、ダンジョンに……?」


 どうして? 理由を聞かれると答えづらい。

 キッカケはルナリスに負けたくないと思ったからだし、応募して面接して、圧倒いう間に今に至る。

 確かに始めはそうだった。

 だけど、今は違う。

 理由じゃなくて目的であれば答えてやるよ。


「俺の居場所がここで、俺がこのダンジョンのボスだから」


 槍の柄で強打する。

 無闇に殺したくはない。

 魔力はいただくし、出来ればもう会いたくはない。

 でも、感謝はしている。

 俺がここで、仲間に出会えたキッカケにはなったから。


 肩で息をしているルナリスに水を差し出す。

 生き返ったかのように、爽やかに笑う。


「ネモさんには指一本触れさせません!」


「ありがとう。俺もルナリスの踊りは邪魔させないよ」


 差し出された手をパンッと叩く。

 ルナリスのステップも心地良かったが、この音をまた聞きたいと思った。

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