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ダンジョンのボス募集中

 砂浜に並ぶ二つの足跡を見て、つい顔が綻んでしまう。

 こんな些細なことで喜んでたら、浮かれてるってネモに笑われちゃうかな。

 集中する為に顔をパチパチと叩くと、その瞬間を見られてしまった。


「何してるんだ? ルナリス」


「き、気合いを入れようと思って! ララの為にもたくさん貝殻を見つけなきゃ!」


「そうだな。とはいえ、全然見つからないな……。海に潜って獲った方が早いかもしれないぞ」


 白波が優しく足首を撫でる。

 夕陽が沈もうとするオレンジ色の海を見るネモの左目は、眼帯で覆われていた。

 大聖堂での戦いを終えて、視力を失い、霊樹の力も使えなくなってしまう。


「左目、痛くない?」


「痛くないよ。それに、俺には過ぎた力だったからな」


 カタリナさんに力を失っていることを告げられた時のネモの顔は、落胆ではなく安堵の色が濃く出ていた。

 ジークに勝つほどの力を手に入れたとはいえ、魔力に飲み込まれそうになっているネモは見ていて苦しかったから。

 私もこれで良かったんじゃないかと思ってしまった。


「ルナリスも残念だったな。せっかくあれだけの信仰を集めたのに、数日で元通りだなんて……」


「気にしてないよ。あれは私だけの実力とは言い切れないし。それに……みんなに信じてもらえた、祈ってもらえただけでも幸せだったよ」


 ネモの演出のおかげで窮地に立たされたカリデアの人達が、私を推してくれたけど。

 騒ぎが落ち着けば、日常に戻れば、夢から覚めたかのように私への信仰は薄れていった。

 信仰は文化で、生活で、生き方そのものだから。

 だからこそ、ほんの数時間でも、みんなに信じてもらえたのは本当に嬉しかった。


『お二人さん、お話は仕事が終わってからにしてもらっていいかな?』


 肩にかけたポーチから、ララの声が聞こえてくる。

 星環機関の中で、小気味よく魔石が回っていた。


「ご、ごめんね。でも、虹色の貝殻が全然見つからなくて……」


『頼むよ。このままだと、今度はポーチが僕の身体になっちゃう』


 大聖堂の一件もあり、ララの身体が動かなくなり、レンゾーさんに新しい魔導人形を作ってもらうことになる。

 でも、それには特別な素材が必要みたいで、ボルネの助言を参考に、私とネモはこうしてソリシア近くの海岸の砂を延々と掻き分けていた。


「次はどんな姿になりたいとか希望はあるのか?」


『そうだね。せっかくだからモンスターに寄せて欲しいかな。また一から始めなきゃいけないんだから気分を変えてみるのもいいよね』


 教会の魔王城遠征は、神の力が弱まったことであえなく中断される。

 同時に魔王様の力も弱まってしまったけど、両軍に大きな被害はなかったみたい。

 間接的とは言え、人間と魔族の戦争を止めることが出来たのは本当に良かった。


 しかし、魔王様に楯突いたことにお咎めなしとはいかなくて……。

 ネモはダンジョンのボスをクビにされてしまった。

 ネモと魔王様とカタリナさんで話し合って決めたことだから文句はないけど。

 私は何だか腑に落ちなかった。


「……絶対、ぜぇっったい強くて大きなモンスターの身体にしようね! ドラゴンとかゴーレムとか! 私、頑張っていっぱい貝殻を集めるから!!」


 もっと可愛いのがいい、と不満そうなララと笑って。

 果てしなく続く砂浜から虹色の欠片を拾い集めていく。


「ネモ、夜になったら見つけられないよ! もう少し頑張ろう!」


 ぼんやりと夕焼けに染まるソリシアを見つめていた。

 ソルドさんの話によると、あの惨劇の中、何人かの生存者が確認できたらしい。

 オレンジ色の空を、小さな有翼族が飛んでいた。

 眼帯でネモの表情は隠れてしまっているけど。

 きっと、いつもみたいに柔らかく微笑んでいるのかな。


 海から吹く風が、髪をそっと撫でていった。

 そういえば、あの時も風が吹いていたな……。


 森の中で、ネモと出会ったあの日。

 私の人生が、大きく動き出した。

 ノルディアの森を飛び出して、自分を変えたくて、ダンジョンのボスになろうとして──。


「ルナリス! ちょっと、これを見てくれ!」


 愛する人と、大切な仲間に出会えるなんて、夢にも思わなかった。


「どうしたの? 大きな貝殻でも見つかったの?」


 ネモは、ガラスの瓶と一枚の紙切れを手にしている。

 中から取り出した紙切れを覗くと……。


【ダンジョンのボス 募集中!】

 経験者優遇!

 海底都市近くのダンジョンで働いてみませんか?

 人間、魔族、モンスターでも大丈夫!!

 ご興味ある方は下記の魔法コードからお問い合わせください。



「……プッ。またネモってばまたこんなの拾って。経験者歓迎だって。良かったね」


『まぁ、魔王を倒すにもこの星を統べるにも、海を支配するってのはアリなんじゃない?』


「そうか……。俺も海に何かを返せるのかな……」

 

海で育ったネモの右目が、期待の色に染まっていくのがわかる。

自分を信じられなかった彼が、人に何かを与えられると思ってくれたのが嬉しくて。

無意識に、ネモの手を握ってしまっていた。


太陽は沈み、満天の星が顔を見せ始める。

私を助けてくれた精霊達も、どこかで見守ってくれているのかな。

海の中だと光も届かないかもしれないけど、私とネモはもう大丈夫。

だって、信じられる仲間と、信じたい自分になれたから。


空に散らばる星達は、魅力の欠片のように輝いていた。

銀色の月が、微笑んでいる。

 



 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

 精霊である皆様の加護(⭐︎やコメントなど)がネモやルナリスの力となり、物語を終えることが出来ました。


 彼らの旅は、舞台の外で続いていきますので門出を祝う最後の加護をいただければ幸いです。

 皆様、本当にありがとうございました!!


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