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信頼を力に、信念を貫く

 金色の炎に焼かれ、ルナリスの立つステージに落ちていく。

 全身に纏う殻は、蜜のように溶けてしまうが、かろうじて落下の衝撃を受け止めてくれる。

 道連れにできたはずのジークは、金色の火球に包まれるように宙高く浮かんでいた。

 燃え盛る太陽のようにも陽炎を滲ませ、不死鳥の卵のように鼓動している。


「ネモッ! しっかりして!!」


 作戦通りララと入れ替わり、ステージ上で聖歌を歌っていたルナリスが駆け寄ってきた。

 俺の顔を覗き込む赤い瞳には、年相応の少女の涙が浮かんでいる。


「……せっかくのステージを台無しにして悪いな……。今度ゆっくり聞かせてくれよ……」


「歌なんていくらでも聞かせてあげるから! 身体は大丈夫なの!?」


 朦朧とする意識の中、人々のざわつく声が耳を擦った。

 せっかく教会へ不信を募らせたのに、俺がジークに負けるようなことがあれば、絶望と諦めにひっくり返されてしまう。

 立たないと……。立ってジークを倒さないと……。


 落下で折れた足の痛みが、気持ちと裏腹に身体をのけ反らせた。

 流れる汗で霞む視界の先、金色の火球を突き破るように。

 不死鳥の翼を背中に生やしたジークが、俺達を見下ろしていた。


「蠢く虫ケラどもめ。それにカリデアの民でありながら神を疑う背信者がこんなにも……。裁きの炎に身を焦がせ!!」


 神の怒りの炎が、ジークの右手で燃え盛る。

 辺りが金色に染められていく美しさに反して、肺の中まで膨張するような熱さに息が詰まった。

 苦しそうに膝をつき、声も上げられず手を合わせることしか出来ないカリデアの人々の顔が金色に照らされる。


「跡形もなく燃えてしまえ!!!」


 轟音と熱風が、皮膚を叩いた。

 視界を炎が埋め尽くすその時、大聖堂に開いた大穴が塞がっていく。

 舞台袖でレンゾーに修理をされているララが、朦朧としながらダンジョンの形状を変えていた。

 その熱に再び溶かされてしまうも、一度だけジークの炎を受け止める。


「古井戸の時のお返しだ……。前より火力が弱いんじゃない?」


 最後の力を振り絞ったのか、項垂れるララはレンゾーの呼びかけに応えなくなる。

 せっかくララが守ってくれたのに、俺は何も出来ないのか……。

 動かない足を叩くと、鈍い痛みが太腿に走る。


「これは……、ソリシアの時の……」


 ポケットに入ったガラス玉。

 助けられなかった有翼族の少年からの贈り物。

 俺はあの子の信頼に、まだ応えられていない。


 左目の奥が、熱く爆ぜた。

 身体中の細胞が開くように、背中を突き破り琥珀色の翼が生えてくる。

 俺の心臓は、まだ止まっていないんだ。


「ネモ……。大丈夫……なの?」


 言葉を選ぶルナリスは、唇を噛み締める。

 じっと見据えたその瞳には、心配も信頼も込められていた。

 返す言葉が見つからない。

 ただ一つ、俺は絶対にジークを倒す。

 例え、この身体と魂が焼き尽くされたとしても。


「待って!!」


 浮かぶ俺の手を引いて、ルナリスはそっと口付けをした。

 頬に走る涙と唇の温もりが、俺の覚悟の形を変えた。


「ちゃんと帰ってきてね」


 ルナリスから湧き立つ魅力の欠片が、俺の身体を包んでいく。

 あの時の精霊も、背中を押してくれているのかもしれない。


「信じてくれ。必ず帰ってくるよ」


 息を飲む声が、辺り一面から聞こえてきた。

 ステージの外でカリデアの人々が手を合わせて俺達を信じている。

 柔らかい祈りが、ダンジョンに満ちていく。


「マーテル様、ルナリス様、ネモ様。どうか、私たちをお救いください……」


「何もしてくれない教会が、何で俺達を裁くんだ! 頼む、このまま殺されるなんてあんまりだ!」


 炎の熱が、涙と言葉を奪っていった。

 倒れ込む人の影が、一つまた一つと増えている。


「ネモッ! もうお前も限界のはずだ。これを使え!!」


 ソルドが俺の槍を投げて寄越す。

 歯を食いしばりながら槍の柄を固く絞り。

 指が割れるほど握り締めて。

 ジークに向かい、翼を打った。


「貴様が……神の、真似事をするなぁぁ!!」


 礫のような炎が、俺の翼を穿つように放たれる。

 金色の逆光で気付かなかったが、ジークの顔は苦痛で歪んでいた。

 治癒魔法をする余裕がないのか、炎の大きさも勢いも弱くなっている。


「ジーク……。ここで神を信じてるのは、もうお前だけなんじゃないのか……?」


「ふ、ふざけるなぁ!!!」


 数多の火球が、空を埋め尽くした。

 避けることに精一杯で、ジークとの距離を縮まらない。

 左目が痛み、もう何も見えない。


「終わりにしよう、ジーク」


 残りの魔力を振り絞り、ジークより遥か高く、大聖堂の天井画を目指す。

 神と呼ばれる不死鳥を背にして、槍の穂先を地面に向けた。

 落ちるように急降下する中、ジークの右手が躊躇う一瞬の隙を見逃さない。


「か、神よ……。この右手を向けることをお赦しください……」


 加減された炎が、俺の翼に焼いた。

 琥珀色に溶けた魔力が残滓として身体に纏わりつき、俺は落ちていく。


 魔力が枯れ、槍だけを握り締め。

 七魔族の力を失った俺は、ジークと変わらない人間として。

 貫いた。


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