練っても、醒めても
ルナリスとララの設計を始めてから数日。
俺は何度目かの魔力切れを起こし横になっていた。
「悪いな、ルナリス……。俺の魔力が少ないばっかりに……」
「全然大丈夫ですよ! それよりネモさんのアイデアは上手くいきそうです! これなら今のララでも罠を十分に仕掛けられます」
魔石に延々と魔法コードを打ち込むルナリスは声が上擦っていた。
休憩がてら踊りの練習をする時間以外、ずっと魔石に向かい合っている。
「俺の魔力じゃそんな細かい設定はできなかった。本当にルナリスとペアで良かったよ」
「私は手と魔力を使ってるだけですよ。出来た! 見てください、ララの魔力容量にピッタリ収まってます!」
グッと親指を立てる彼女の額は、汗で前髪が張り付いている。
いくらアイデアを出したとは言え、これだけの作業をほとんど一人でやらせてしまい心苦しい。
魔法で浮かび上がったダンジョン内部のモデリングの緻密さが、ルナリスの集中力を物語っていた。
『凄いね……。僕はまだ出来立てのダンジョンだから使える魔力も限られてるんだけど……。もはやEランク、いやDランクとも遜色ないクオリティだよ』
「ネモさんの″週末限定″と″壁や天井を薄くする″という魔力量の節約のおかげですね!」
ララからダンジョンの管理権限をもらった俺たちは、まず何が出来るのかを時間をかけて調べていった。
ララは俺たちに粘土で例える。
ダンジョンの構造、配置するモンスター、罠や宝箱の設置数や種類など。
決められた魔力量の範囲内で、粘土細工のように練って整えて形にしていく。
それを魔石に登録すれば、ララがその通りのダンジョンに姿を変える、ということらしい。
「魔力で作られているってことは、冒険者が来ない時間にもダンジョンとして形を成している間は魔力を使ってるってことだからな。ならいっそのこと、存在する時間を限定してその分贅沢に設計しようと思ったんだ」
それに冒険者からすれば、週末しか入れないダンジョンがある、なんて条件があるなら週末だけでも行ってみようという心理にもなるだろう。
節約したおかげで希少なモンスターも配置できそうだし罠も置けた。
後は地道な広報活動だ。
「じゃあ、俺は中央都市に行ってそれとなく噂を流してくるよ。何でも週末しか開いてない謎のダンジョンがあるらしいってな」
「はい!ネモさんが人間だからこそ思いつく自作自演ですね!」
『感心しちゃうね。こんな嘘つき見たことないよ』
名案だと褒めてくれる二人を責めるつもりはないが、もう少しだけ優しい言葉が欲しかった。
まぁ、二人の言葉が嫌味に聞こえてしまうのは、人間と魔族の文化の違いなんだろうな。
ボスになったとは言え、俺がまだ人間であることに変わりない。
数日ぶりの中央都市は、何故か少し人が多く感じられた。
気のせいだとわかっていても、俺が勝手に心に壁を作っているから。
前よりも人に見られている気がして落ち着かない。
「ネモさん、無事だったんですね!? 数日前、お仲間だけで飲んでらしたんで何かあったんだと諦めてましたよ」
ダンジョンの噂を広める為に酒場に行くと、見知った店員が声をかけてくれた。
俺を見捨てたかつての仲間達のことを言っているんだろう。
それについて、今更どうこう言うつもりはない。
命懸けで冒険者稼業をしていれば、自分の身の安全を最優先するのは当たり前。
治療費が惜しくて仲間を見捨てるなんて、今時珍しい話じゃない。
ただ、そう思えるのは俺に新しい居場所が出来たからだ。
「何とか命だけは……ね。あいつらに変な気を遣わせるのも嫌だから俺に会ったのは内緒にしておいてくれ」
酒場で働いていれば色んな人間模様を嫌という程見てきて察したようで。
大袈裟に苦虫を噛み潰すような顔をした店員は、俺のことは知らぬ存ぜぬと笑っていた。
「そうだ。代わりと言っちゃなんだけど、俺を助けてもらった人が面白いダンジョンの話をしててさ……」
俺は田舎に帰ろうと思うけど、最後にここの酒が飲みたくてさ、と店員の耳を借りる。
中央都市で噂を広める、なんて大義名分を掲げておいて、俺の中にある一握りの寂しさ。
初めてギルドの依頼を達成して飲んだ酒の味に、別れを告げたかったんだ。
最近入ったギルドの受付嬢が可愛いらしいとか、聖騎士団所属の冒険者がイカれてる話してみて欲しいだとか。
そんな下らない話を肴にしながらも、帰る頃にはアルコールと共に未練は抜け落ちていた。
その後、酒場の店員のおかげか週末限定の噂を聞いてか、来訪する冒険者の数が少しずつ増えていった。
俺たちの連携も少しずつ形になってきた時、ララから報告の声があがる。
『二人とも、次の冒険者が来たよ!』
ルナリスの魔法と連結し、来訪者の姿が映し出される。
そこには俺の最後のパーティだった者達の姿があった。
これが俺の、一つのケジメだ。
新しく手にしたボス用の装備を身に纏い、二人に行くぞと声をかける。
信頼できる仲間達は、威勢良くそれに応えてくれた。




