表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/68

それが正義なんだと信じたくて

「……ドルバスは仲間じゃなかったのか?」


「仲間? 海賊に仲間なんている訳ねぇだろ。俺にいるのは手下と、客と、商品だけだ」


 ドルバスの身体を跨ぎ、彼が持っていたアイテムを盗む手際に無駄はない。

 奥歯の削れる音が、骨を伝って身体に響いた。

 熱い血液が左目に昇っていく。


「ギルフォード……、お前は間違ってる……」


「今更何を言ってんだ。変な力を手に入れてのぼせてんのか?」


 ドルバスを足蹴にして、ギルフォードは語る。

 その表情に、悔いや恨みはなく、声は明るく弾んでいた。


「この世は弱肉強食なんだ。教会が有翼族より強かったからソリシアは陥落した。有尾族より強かったからグラディアは滅んだ」


 怪しい煙草は吸っていない。

 これは紛れもないギルフォード自身の言葉だ。


「ドルバスよりもネモの方が強かった。そして、俺はネモよりも強い。だから、俺はドルバスを食った」


 ゆっくりと俺の間合いに歩み寄る。

 肩に担いだ剣は、隙だらけのはずなのに。

 俺の太刀筋を簡単に受け止めてしまった。


「安心しろ。グラディアの再建は儲かりそうだ。しっかり直してやるよ。十分稼いだら、またぶっ壊せばいい」


 上機嫌に跳ねる舌先を見て、心がざわつく。

 魔力が身体を駆け巡っているものの、振り下ろした剣をかわされてしまった。

 ギルフォードの鱗が、雨粒を弾き怪しい光を放っている。


「随分と魔力量が増えてるじゃねぇか。何があったのか知らねぇが、その左目にネタがあるんだろ? あんまり暴れるようなら間違えて突いちまうぞ」


 挑発するように、俺の肩を包む殻を突く。

 痛みはそれほど無かったが、ギルフォードの剣筋を止めることが出来ない。

 有瘤族の攻撃力を、有殻族の守備力を、有紋族の魔力操作を身に付けても。

 ギルフォードとの力の差が、まだ埋まりきっていなかった。

 しかし、それでも……。


「弱肉強食だって言うなら、俺の方が強くなってやるよ、ギルフォードォォ!!」


「調子に乗んなよ、三下がぁぁ!!」


 ギルフォードの剣戟に、身体がどんどんと削られていく。

 一撃の重さでは勝っていても、滑るように動く剣捌きが捉えられない。

 二度、三度と当たらない太刀筋をかわされ、霰のような突きで肉を穿たれた。


「ハァ……、ハァ……、随分しぶといじゃねぇか……。でも、この調子ならお前が蜂の巣になって終わりだな……」


「……ぐっ……。ど、どうだかな……。だんだん動きが鈍くなってるんじゃないか? さっきに比べて余裕がなさそうだぞ」


 ギルフォードの息は上がっていた。

 当たらないと思っていた攻撃も、徐々に受け始め、高い回避力にも限界が見えてくる。

 血を流す俺に比べれば、ギルフォードの外傷は少ないはずだが、身体が悲鳴を上げるように咳こみ始めた。


「……あの煙草を吸ってなければ、お前の勝ちだったかもな!」


 歯を食いしばり、体重を乗せた袈裟斬りが、ギルフォードの肉を斬る。

 硬い鱗が刃を受け止め、勝負を決める一撃には至らなかった。

 膝を着きそうになるギルフォードの目がギョロリと動く。

 視線の先には、ルナリスと青ざめた有尾族が……。


「残念だったな、ネモォ!! 綺麗事じゃあ大事なものを守れねぇんだよ!!」


「やめろ! ギルフォード──」


 半歩遅れた踏み込みは、泥に足を取られて出遅れる。

 離れていくギルフォードの背中には、もう追いつかない。


「ルナリスッ!! 逃げろぉぉ!!」


 肺から絞り出した声が、彼女に届く頃。

 大勢の有尾族を引き寄せた代償が、ルナリスの身体から自由を奪っていた。

 立ち上がれない中、有尾族の子供を守る彼女の背中に向けて、ギルフォードの白刃が鈍く照らされる。


「ネモォォ! お前じゃ俺に、勝てねぇんだよぉ!!」


 手を伸ばしても、届かない。

 ソルドから受け取った剣を投げつけようとした時、ギルフォードの背中越しに見える有尾族達の姿がちらついた。

 一瞬の迷いが、腕を強張らせる。

 クソッ、霊樹の力で強くなれたと思ったのに……。

 結局、俺は何も守れないのかよ……。


「ルナリィィス!!」


 鱗に覆われた腕が振り下ろされる、その瞬間。

 茂みから延びた人影が、ギルフォードの懐に飛び込んだ。


「傲慢だぞ、ネモ! 自分一人で全て出来ると思うな!!」


 全身の毛が濡れそぼり、泥だらけになったソルドの体当たりが、ギルフォードを巻き込み泥の中を転げ回る。

 普段のギルフォードなら、直線的な突進なんて目を瞑っていてもかわせたのかもしれないが。

 息が切れ、足場が悪く、自分の勝利を確信した時、決死の攻撃はかわせない。


「クソがぁ!! 死に損ないが邪魔すんじゃねぇ!!」


 ギルフォードの腕にしがみつき、ルナリス達への攻撃を食い止めるソルドは、今にも倒れそうだった。

 しかし、眼帯に隠されていない片方の瞳は、炎のように煌めいて、体力の限界を越えてでも抵抗する強い意志を放っている。

 振り解かれて崩れ落ちるソルドを足蹴にされた時、ギルフォードの背中にようやく追いついた。


「ありがとう、ソルドさん。後は俺が引き受けます!」


 渾身の力を込めてソルドの剣を振り抜くと、ギルフォードの右腕が宙を舞う。

 悲痛な叫び声が、戦いの終わりを告げていた。

 心臓が痛いほど脈打つのに、ようやく気がつく。

 過集中のせいか、視界がくっきりと見えすぎてしまう。

 雲の切れ間から覗く青空が綺麗すぎて、何だか今は目を背けたくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ