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金と銀は比べるもなく

 騒ぎが大きくならないように、館長室を貸してもらいララの話を落ち着いて整理する。

 主である館長は傷の手当てに専念してもらったのだが……。

 その代わりとでもいうように、セレナが当然のように輪に加わっていた。


「セレナ、さっきは本当に助かったよ。だけど、今は外してくれないか……」


「私のことは気にしなくていいわよ。興味があるからここにいるだけで、時間の無駄だなんて言うつもりはないわ」


 遠回しに帰ってくれと伝えたかったが、それは叶わない。

 まぁ、少し偉そうなだけで悪い子ではないんだろうけど……。

 ルナリスは慣れているのか小さく溜息をつき、拳を握りしめていた。


「……こんなところかな。壁の修復も出来たし本題に戻っていいよね?」


 グリモルドが壊した壁をダンジョン生成の魔法を応用し、ララが修復をしてくれた。

 その作業が終わったところで、改めて状況をまとめていく。

 ララの目から放たれる光が、壁に地図を映し出した。


「さっきも伝えたけど、ここから中央都市を越えてさらに南下した都市、グラディアが教会に襲われたみたい……」


 映し出される地図には、二つのバツ印が記されていた。

 芸術都市ソリシアと農業都市グラディア。

 いずれも教会の侵攻により、陥落してしまった……。

 重苦しい空気の中、レンゾーの咳払いが沈黙を破る。


「ララの修理が終わったと思えば、突然慌て始めるからのぉ。危うく舌を噛むところじゃった」


 どうやらララが意識を失っている間に、魔王城から連絡が来ていたらしい。

 俺達が行って何が出来たかはわからないが、救援要請だったのであれば悔やまれるな……。

 暗い顔をしていたのか、ボルネが優しく肩に触れた。

 俺自身にも聞こえない思い詰めた音がしていたのかもしれない。


「ララちゃん、ここからグラディアまでどれぐらいかかる?」


「歩いたら一ヶ月はかかるよ。船があれば別だけど、ノルディアからだとグルッと大回りしなくちゃならない。そんなに近道にはならないかな」


 そもそも船もないしね、とララが天を仰いだ。

 船と聞いてギルフォードのことを思い出す。

 ララのなぞった航路を見るに、ソリシアに近い海域を通るしかなさそうだ。

 こんな時に海賊船に見つかるわけにはいかないな。


「有殻族の洞窟を抜けていくのはどうだ。俺とルナリスは一度通ってるし、ボルネもいれば負担は減らせるんじゃないか?」


「ヤメタホウがイイ。ララがマタカワル。キット、チカにウマルマセキのエイキョウ」


 そう言えば普段のララに戻っていたことを聞きそびれていた。

 教会や神について、母なる石に話を聞けば、対抗できるかもしれない。

 しかし、ララは魔法で地図上に洞窟を書き記しながら、子供のように口ごもった。


「そのことなんだけど……、ハッキリは覚えてないんだよね。でも、意識が薄れていってもうネモ達とも会えないのかと思ったんだ……」


 ララは声を震わせながら、洞窟の書き込みを歪ませる。

 違う意識が流れ込んで身体を動かされるという感覚を、俺は理解してあげられない。

 今回はレンゾーの助けもあって再び目を覚ましてくれたが……。


 魔石生命体に年齢なんてものがあるのかわからないが、思えばララはまだ子供らしいところも多い。

 グラディアがどうなってもいいとは思わないが、仲間に負担を強いるようなことはしたくなかった。


「そうなると地上から行くしかないか。平地は馬車を使えば少しは──」


「転移魔法を使えばいいじゃない」


 傍観していたセレナが、不思議そうな顔をしていた。

 それも頭には浮かんでいた

 しかし、ノルディアでの転移、それもこの人数となると……。


「セレナの提案はもっともだ。だけど、ノルディアからグラディアまでの距離となれば、かなりの金額になる。大前提として、俺達が転移させてもらえるか……」


 転移魔法は誰にでも出来るわけじゃない。

 だからこそ、価値があるし使ってもらうにはお金もかかる。

 陸路で一ヶ月かかるほどの距離。異種族の五人。

 余所者に冷たいノルディアの街で、転移魔法が使える人を見つけ、その上で見合う料金を支払うのは現実的に難しい。


「ソルドさんにお願いできないかな……」


「無理だと思うよ。そもそも、この連絡をくれたのがソルドだし。その後、僕から連絡してみても応答がないからね」


 ノルディアには有尾族が多いと聞いたことがある。

 もしかしたらソルドの親しい人もいるのかもしれないな……。

 彼にはルナリスのことでも世話になったから、出来ることがあれば力になりたい。


「セレナ、もし良ければ金貸しを紹介してもらえないか? さっきのこともあったから人間の俺に貸してくれるかわからないが……」


 その金で出来る限りグラディアの近くへ転移させてもらえれば、一ヶ月はかからないだろう。

 文字通り、一文無しになるがやむを得ない。

 俺の決意が伝わったのか、みんなも首を縦に振ってくれた。


「お金なら私が工面するわよ。そもそも、私の父の名前を出せばグラディアまで転移させるのだって難しくないわ」


 さっきから何の相談をしているの?と長い髪を指に巻く。


「そ、そんなことが出来るのか? この街じゃ俺達みたいな余所者は良い顔をされないだろ」


 おまけに俺は騒ぎを起こした張本人だ。

 セレナの家名を傷つけるようなことはしたくない。


「見くびらないで。さっきの騒動と今の話を踏まえれば、貴方がこの街の救世主だったことぐらいわかるわ。転移魔法ぐらい私の力でどうにでもするわよ」


 鮮やかな緑色の瞳が、真っ直ぐに俺を見据えていた。

 俺はセレナを、この街を誤解していたみたいだ。

 排他的な思想もあるかもしれないが、それは誇りの高さに由来する。

 だとしたら、恩人に報いることに種族なんて瑣末なものなんだ。

 信じることの大切さを学んだつもりだったが、まだまだ甘かったみたいだな。


 赤い瞳を潤ませて、ルナリスがセレナに向かう。

 固く閉じていた拳が、僅かに解かれていた。


「……ありがとう、セレナ」


「べ、別にルナリスの為じゃないわ。……この街にいたって成長できるんだから」


 二人の視線は、お互い僅かにズレていた。

 しかし、その口元は嬉しそうで。

 金と銀の髪は、どちらも美しく煌めいていた。

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