新しい仲間は、ダンジョン
海と話が出来ると豪語していた父親を、夢想家だなと笑っていた。
ダンジョンと話が出来るなんて言ったら、心配されるか、もしくは勘当されるかもしれないな。
『カタリナからボスが決まったって聞いたけど……、あなた達がネモとルナリス?』
その声は音として聞いているのではなく、頭に直接伝わってくるようだった。
姿の見えないあどけない声は不気味で、より身体を強張らせる。
「俺がネモ。こっちがルナリスだ。あんたは……、何なんだ?」
部屋の空気が小刻みに震える、気がした。
不思議と嫌な予感はしない。
『何って言われても困るよ。君達が僕の中に入ってきたのに』
「もしかして……、あなたはこのダンジョンそのものですか?」
ルナリスの声に石が反応するように、淡い光が微かに明るさを増す。
信じられない話だが、疑えるほどの知識がなかった。
『カタリナから話を聞いていないみたいだね。そうさ、僕は今君たちが立っているダンジョンそのものだ』
こちらの都合はお構いなしにダンジョンは続ける。
ここは生まれて間もないダンジョンであり、
中で消費された魔力に応じて成長する。
冒険者を迎え撃ちながら、魔力を消費させるボスが必要だったことを。
『今見えているその魔石がダンジョンの核だよ。それを破壊されないように守りながら、敵と戦ってほしいんだ』
にわかには信じられない。
だけど、今この瞬間も既に不思議に足を踏み込んでいた。
ルナリスが何も言わずに視線を寄越す。
深く鼻から吸った空気は、肺と頭を冷やした。
「つまり……この核となる石を守りながら、冒険者と戦えってことだよな。だったら……いくつか質問させてくれ」
ここは古井戸の中にあり、ダンジョンがあるなんて気づいてもらえないこと。
冒険者を倒すとは言っても、俺たち二人はそれほど戦闘力が高くないこと。
俺の質問に応えるように、石の光が水面を揺らすように部屋を照らした。
『先に二人の戦闘力についてだけど、ボス用の装備が支給されるから同格の冒険者に負けることはないよ。詳しいことは後で説明するけど』
魔力が宙を滑りながら、壁に文字を書き連ねていく。
ダンジョン運営の細かい説明と、その方法が記されていた。
『ここがわかりづらいから……って話については工夫してほしいな。それを考えるのがボスの役目であり、君達の仕事なんだから』
それを言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
弱音を吐きたくもなるが、それでは今までの俺と何も変わらない。
幸いなことに、俺にはルナリスという相棒がいるんだ。
同じことを考えていたのか、ルナリスも力強く頷いていた。
『ところで……、二人は何でダンジョンに宝箱があると思う?』
ふいをつく質問だったが、言われてみれば確かに不思議だ。
冒険者としては宝箱やそこでしか取れないアイテム、希少な魔物から得られる経験値を目的にダンジョンに潜るが……。
まさか、それは冒険者への甘い罠とでも言うのか。
『その通り! ダンジョンの魔力を消費して良い宝箱を生成し置いておく。それに釣られた冒険者を狩って魔力を得る。ダンジョンとボスの共生だね』
どんな作りにするのかも、どんなモンスターを配置するのかも、どんな宝箱を設置するのかもボスの裁量。
でも、魅力的なダンジョンでも来てもらえなきゃ意味がない。
このダンジョンの噂を流し、強すぎない冒険者を倒し、魔力を集めていく。
戦いは既に始まっていたんだろう。
自分が冒険者だったことを最大限に活かし、今度はボスとしてここを防衛してみせる。
不気味に思えた煌めく石も、こうして話してみれば愛らしく思えてきた。
「話はわかったよ。最後に聞きたいんだけど、あんたのことは何て呼べばいい?」
『……え? 名前?』
さっきまで饒舌だったのに、突然黙り込んでしまった。
ふふっ、と息を漏らすルナリスを見て、くだらないことを気にしてしまったのかと顔が熱くなる。
だが、その熱くなった頬を気持ちよく冷ますように、そよ風が部屋に流れた。
『そんな風に名前を聞いてもらえるとは思わなかったよ。良かったら君がつけてくれないか、ネモ』
「名付けるって言われてもなぁ……。そうだ、この石に名前ってついてないのか?」
『それはラブラドライトって魔石だよ。人間は宝石とも言うね』
「ラブラドライトか……。長いから″ララ″でいいか? 女性っぽすぎるかな」
『ダンジョンに男も女もないよ。ネモはおかしなことばかり気にするね。でも、素敵な名前だ。ありがとう、ネモ』
「これからよろしくな、ララ」
気づけば影が見えるほど部屋は明るくなっていた。
ララの照らす明かりは、ルナリスの銀髪を淡く虹色に染めている。
俺は胸に満ちた充足感の正体に気づいた。
村を出て、冒険者になった理由。
欲しくて、探して、手に入らなかったもの。
俺はようやく自分の居場所を見つけられたんだ。




