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最初に貰うプレゼント

 館長から話を聞いた二日後、レンゾーとボルネに再会することが出来た。

 久しぶりに顔を合わせたレンゾーは、疲れているはずなのに力強く抱き締めてくる。


「レ、レンゾー……。お前、何か雰囲気変わったか?」


「うるせぇ! わしがどれだけおめぇらに感謝したかったか……。本当にありがとう……」


 汗と涙がレンゾーの顔に筋を作っていた。

 土埃の跡が、ここまでの旅路の苦労を物語っている。

 友人との再会は嬉しいが、身に覚えのない感謝は素直に受け取れなかった。


「レンゾーさん、どうしたんですか? ララちゃんの件で怒ってると思ったんですが……」


 ルナリスの顔を見ると、レンゾーの顔は鼻水まで足されてしまい、とても事情を聞ける状況ではなくなってしまう。

 波紋が広がるような優しい音と共に、ボルネが代わりに説明をしてくれた。


「ファルジアにキョウカイのニンゲンがセメテキタ。デモ、ネモとルナリスのオカゲでミンナがヒトツにナッテイタ」


「教会が!? 街のみんなで追い返したのか?」


「ルナリスのショーの後から、魔石の採掘量を減らしていこうって話が鍛治ギルドの連中でも広まってよぉ。それに腹を立てて聖騎士団を寄越してきたが、職人達が自慢の武器で戦ったってわけだ」


 弾けるような二の腕を見せつけ、レンゾーが歯を出して笑う。

 俺達が離れてから、そんなことがあったのか……。


「だからよぉ……。あの時、おめぇらがみんなをまとめてくれてなかったら、今頃ファルジアがどうなっていたかと思うよぉ……」


 感謝の意味はわかったが、俺とルナリスは恐縮してしまった。

 突き詰めたら俺達も携わったのかもしれないが、立ち上がったのはファルジアの人達だ。

 それよりも、聖騎士団から街を守りきったことに驚いてしまう。


「あ、それとララのことは別もんだぞ! せっかく預けたのに何をしたんだ!」


 いつもの調子に戻ったレンゾーにララを預けると、ルナリスの家の畑でゆっくりと調べ始めた。

 細かな細工や関節の動き、星環機構を確認していくうちに、レンゾーの顔は曇っていく。

 ルナリスが淹れたお茶を一息に飲み干すと、乱暴に頭を掻いて眉を顰める。


「星環機構の軸が固まっちまって動かなくなってるな……。急激に魔力を注がれたりでもしねぇとこうはならねぇが、心当たりはあるか?」


 ララが動かなくなったのは──。

 母なる石と言葉を交わしたその翌日だった。

 あれだけの存在が憑依したとなれば、膨大な魔力が流れ込んでいたとしてもおかしくないな。


 レンゾーに事情を説明すると、ボルネから小さな破裂音がした。

 その場にいたベルドン達にとっても衝撃的だったかもしれないが、地上の有殻族にとっては一大事なのかもしれない。

 信じられないとでも言うように、ゆっくりと俺の顔を覗き込んできた。


「スゴイ。ワタシもハナシテミタイ」


「まぁ、軸を固めちまってるのを取り除けば動くとは思うんだが。何だかべっとりしてやがって気味が悪ぃ」


 星環機構の中を見せてもらうと、ラブラドライトをはめた窪みと、それを回転させる軸が繭のように粘性の糸に包まれていた。

 魔石を包むと繭に見えるが、指で掬うとベタベタとしている。

 まるでそれは、蜜のように──。


「レンゾー、ボルネ。もし知っていたら教えてほしいんだが……」


 有花族についてのお伽話や伝承、この森の霊樹の名前、有瘤族や有殻族の中で伝え聞くものはないか。

 二人にそれを尋ねてみても、顔を傾げるばかりだった。


「ダルマならシッテイルカモ。ズットムカシからイキテイル」


「そうだな。あとは……魔王か」


 千年単位で生き長らえている存在であれば、絶滅した種族についても何か知っているかもしれない。

 ただ……、話をしていて何か引っ掛かる。

 思い出そうと記憶を絞った。

 あの時の蔦の温もりに、指先が懐かしさを感じている。


「しっかし、おめぇらは訳のわからないことをしてんな! 魔王様だの母なる石だの、普通は話も出来ねぇんだぞ」


「遠い世界の精霊から加護を受けるなんて奇跡を起こしちゃったから、不思議なことに慣れちゃったね」


 照れくさそうに頬を掻くルナリスを見て、記憶の扉が開かれる。

 甦りの奇跡、魔王城、包帯で姿を隠した不思議な女性……。


「もしかして……」


 確かめずにはいられない。

 レンゾーにララのことを頼むと、身体は図書館へ駆け出していた。

 咄嗟のことだったが、ルナリスは俺の意図に気付いたのか慌てて追いかけてくる。


 包帯で見えなかったはずなのに、彼女の微笑みを覚えていた。

 この指先に伝わった温もりと、結びつけてしまう。

 館長室の扉を開くと、一冊の本を開いて頭を抱えている最中だった。


「突然すみません。霊樹の名前について、心当たりが一つ浮かびました」


 目を見開く彼が開いていた本は、あの祝名典だった。

 胸がざわつく。

 何かに導かれるような、そうすることを決められているような。


 祝名典の魔法コードで、心当たりのある名前を入力してみる。

 パラパラとめくれたページが止まると、あるイラストが目に映る。


「ネモ……。これって……」


「館長……。このページにある名前は何の精霊から加護を受けやすいんですか?」


 何の変哲もない、男女の絵。

 若いようにも見えるし壮年に見えるそのイラストに、俺達は見覚えがあった。


「わかりづらいですよね。これは『愛』を表しています。このページに霊樹の名前があるのですか?」


 奥に延びる階段を昇っていく。

 俺の名前と同じページに彼女の名前まであるのは、ただの偶然かもしれない。

 だとしても、大きな力のうねりを背中に感じた。


 洞を覆う蔦に手を伸ばす。

 それは優しく微笑むように、指先を温めてくれた。


「霊樹の……、貴方の名前は『カタリナ』ですか?」


 包帯を解くように、スルスルと蔦が避けていく。

 洞の中に足を踏み入れると、穏やかで安心するものが身体を包むようだった。

 目には見えないけど、肌はそれを知っていた。

 たぶん、そこは愛で満ちていた。

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