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葉に隠されるように

 洞穴を抜けた先には、木漏れ日が包む森があった。

 空に届きそうな程の大樹が、暗闇に慣れた目を潰さないように陽の光を柔らかくしてくれる。

 涼しげな空気と、どこか甘い花の匂い。

 その開放感に、思わず俺とルナリスは身体を目一杯広げた。


「ふぅ……。やっと外に出られたね。うわぁ、月光花の香りが懐かしいなぁ」


 太陽の光が遮られた森の中は、昼間でも満月の夜のように淡く照らされている。

 光の当たる時間が短いからか、見慣れない花や草が生い茂っていた。

 昔の友達に出会ったかのように、ルナリスは虫や鳥に手を伸ばす。


「……ルナリス、ちょっと休んでから行くか?」


「大丈夫! もう少し行けば泉があって水浴びも出来るよ。さすがにもう身体が……」


 暗い洞窟の中では諦めていたが、いざ外に出ると身体の汚れが気になってくる。

 風上に立つのが嫌らしく、後ろからルナリスが湖までの道を案内くれた。


「それに、レンゾーさんとボルネさんを待たせてるかもしれないし、ノルディアまで頑張ろう!」


 背中に向けられた元気な声を、彼女はどんな顔で発しているのか。

 ノルディアを目指すことになった、あの日のことを思い出す──。


 ◇


「この声はボルネか!? 凄い……、本当にファルジアの人の声が届くなんて……」


 ベルドンの魔法を乗せた声が、遠く離れたボルネとの距離を縮めてくれた。

 事情を説明してからしばらくすると、レンゾーの声も聞こえてくる。


「なんじゃこりゃあ……。おい、ボルネ! この魔法について詳しく教えろ! わしの発明が更に凄いもんに出来るぞ」


「レンゾー、それは後でゆっくりやってくれ。実はララのことなんだけど──」


 ララの身体のことや星環機関について、専門的な知識が無さすぎて言葉で説明をするのが難しい。

 母なる石のことは、俺自身が十分に理解出来ていないので簡単にしか伝えなかったが。

 とにかくレンゾーは、まるでその場にいるかのような剣幕で怒鳴りあげた。


「ネモォォ!! おめぇを信じてララを預けたのに、なぁにをやってんだぁぁ!!」


 集落に響き渡るような振動が、ビリビリと鼓膜を揺さぶる。

 俺とルナリスだけが、反射的に耳を塞ぐもののベルドン達は一切動じていなかった。

 後から聞いた話では、有殻族は聞こえてくる音の大きさを自分たちで調整できるらしい。

 大声をあげられたボルネに被害が無かったのであれば何よりだ。


 レンゾーに星環機関は冷たいか、魔石は砕けていないかなど、言葉で一つずつ確認はされるが原因はわからない。

 さすがに現物を見ないと製作者のレンゾーにもお手上げとのことだった。


「仕方ねぇな。わしが見に行ってやるから待っとれ」


「……ありがたいけど、ファルジアからここまで1ヶ月かかるらしい。何かわかるならと思って繋いでもらったけど、こうなってしまったら俺達が向かうよ」


 俺達の都合でララが動かなくなってしまった。

 その上でレンゾーをここまで来させてしまうのは、いくら何でも申し訳ない。

 しかし、レンゾーにはレンゾーの言い分もあるようで引く様子がなかった。


「おめぇらの扱い方が心配になってきた。下手なことされるぐらいなら、わしが向かった方がマシじゃ!」


「ダッタラ、ノルディアでアエバイイ」


 そのボルネの提案に、ルナリスが僅かにピクリと動く。

 驚く、というよりは緊張から来る揺れみたいで。

 違和感を覚えるが、彼女自身の声で掻き消されてしまった。


「ここはノルディアに近いんですか!?」


「ノルディアならハンブンのキョリだ。ファルジアとチュウカンだな」


 ベルドンの言葉に、思わず足をタタンッ弾ませていた。

 喜んでいる時の癖が出ているということは、さっきの緊張は俺の思い過ごしか……。


「レンゾーさん、ルナリスです。あの……、ノルディアならお互いの真ん中ぐらいなので、そこで合流しませんか?」


「ノルディアか……。有紋族はあまり好かんのだが……。あ、ルナリスは別だぞ!」


 レンゾーの渋い反応にめげず、ルナリスが珍しく引き下がらず説得をするとボルネの後押しもあり二人とノルディアでの合流を約束する。

 途中まではベルドンが付き添ってくれたが、十日程は黙々と洞穴を歩き続けた。

 動かないララを背負い景色の変わらない道を歩き続けるのは、ダンジョンに慣れていたとはいえ精神的には辛いものだ。


「ルナリスはノルディアに行きたかったのか?」


 長い道程の中、ふとした質問に彼女は強張る。

 口ごもりながら出てくる言葉は、気恥ずかしさに照れていた。


「ノルディアは私の家の近くなの。有紋族が大勢住んでいて……。凄い大きな図書館があるので楽しみにしてて!」


 ルナリスのことはずっと前から見ていたからわかる。

 視線を合わせず、自分に言い聞かせるような言葉の張り。

 何かを隠すような、そんな態度だった。


 ◇


「ネモさん! ここか葉隠の泉だよ。いつも葉が積もってるから気をつけないと沈んじゃうからね。で、向こう側に見えるのが──」


 鬱蒼とした樹木と、目印になるもののない緑を抜けた先に、僅かに建物が見えてきた。

 森に溶け込むような木造の家々は、適度にその距離を空けながら、自然の邪魔をしないような小ささで立っている。


「あれがノルディアか……。さすがに疲れたな。俺はあっちに行ってるからルナリスも水浴びしてくるといいよ」


 お互いが見えないように離れ、久しぶりの水で身体を清めると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 少しぐらいならいいかな、と開放的になり肌着姿で泉に飛び込んでみる。

 水面には落ちた葉が敷き詰められていたが、泉の中は透き通っていて底には俺ぐらいの太さの木の根が張っていた。


「プハァ。あぁ〜サッパリしたぁ!」


「……誰かいるの!?」


 水面に顔を出すと、そこには見慣れない有紋族がいた。

 金色の髪に白い肌、透き通った森のような翠色の瞳がこちらを睨む。


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