生ける伝説、偽りの神
──遥か昔、魔石生命体と呼ばれる存在が宇宙に点在していました。
漂うエーテルを吸収し成長する私達は、お互いの衝突を避ける為に自らを核として守る為にダンジョンという殻を作ります。
それが、星です。
核が古くなり星が維持できなくなった時、再び宇宙を旅できるように、いくつもの欠片を生み出していく。
ラブラドライトを始めとした魔石が、私の一部であるとはそういう意味ですね。
これだけ巨大なダンジョンを維持していくには、エーテル……魔力と言った方がわかりやすいですね。
魔力を循環させないといけないので、魔族やモンスターを生み出し、長い時間の中で魔力が薄まったものが人間や動植物として繁栄していきました。
個体が強大すぎる魔力を持たない現在の在り方が平和で良いですね。
そして──
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今の話だと、魔族と人間は元々同じ種族だったみたいな……」
思わずララの言葉を遮ってしまう。
話の規模が大きすぎて、何が何やら……。
しかし、魔族と人間のルーツが同じというのはあまりにも常識はずれだ。
「え? 魔族と人間は枝分かれしたけど同じものでしょ?」
それはララやダルマといった歴史の生き証人からではなく。
同じ時代を生きるルナリスとの間に見つかった溝。
ミシミシと、俺の世界が音を立てて軋んでいく。
「いや……、それだと教会の教えと……」
神が人間を作り、精霊が魔族を作ったと教えられてきた。
人間が善で魔族が悪、なんて言うつもりはないが……。
世界が色褪せていくように、まるで別のものに変わってしまいそうで……。
「真実か偽りかなんて関係ない。自分がどちらを信じるのか。それだけだ」
信じる──何を根拠に? 誰を?
ダルマの言葉に頷きながら、ララは話を続けた。
追い討ちをかけるように、衝撃的な事実を口にする。
「そうですね。教会の象徴とされる神は、元々宇宙から飛来した魔石生命体ですから。あちらはあちらに都合の良いことを言っていることでしょう」
「待って! ちょっと待ってくれ! 話についていけないです。神ってのは……聖イグナシアのことで、それが……魔石生命体?」
信じられない、というよりは理解が追いつかない。
自分の信じていた歴史が変わってしまいそうなだけでも頭が痛いのに……。
身体の疲れもあり、もうこれ以上何も聞きたくなかった。
「あ、あのぉ……、本当に申し訳ないのですが、私達はちょっとお休みさせていただいても……よろしいでしょうか」
俺を気遣ってか、ルナリスがちょこんと手を挙げる。
ベルドンの家から抱えてきた熱石の重さすら疲れとなり、その場にしゃがみ込んでしまった。
「少し急いてしまいましたね。今日のところは身体を休めなさい」
ベルドンに支度をするように命じると、ララはダルマに手を振る程度でその場を後にしてしまう。
二千年前の関係値によるのもかもしれないが、本当に二言、三言話すだけでお互い満足しているようだった。
それが相手を信じるということなのだろうか。
俺はひびの入ってしまった世界を見て、信じるという言葉の意味がわからなくなってしまった。
「あのダルマ……さんというのは一体どんな方なんですか?」
ベルドンの家に向かう途中、ララに声をかけてみる。
歩くだけでも楽しいのか、一歩一歩味わうようにしながら、答えてくれた。
「有殻族の長……というのが良いのでしょうか。象徴、誇り……久しぶりに喋るのは難しいですね」
ララが言葉や表現に悩むことが多いのは、時間の過ごし方が違いすぎるからなのかもしれない。
ララやダルマ、それに魔王に共通する荘厳さやズレの端に触れた気がした。
「ダルマはとても勇敢な戦士でした。この四大都市を繋ぐ洞穴を素手で掘り、世界の交流を可能にしました。その代償に手足を失いましたが、有殻族は彼を伝説として今も愛しています」
ルナリスが驚きの余り熱石を落としてしまう。
ベルドンが軽くそれを拾い上げるが、微かに鳴らす低音はダルマの功績への誇らしさを感じた。
「よ、四大都市ってこの穴はソリシアとファルジアまで繋がっているってことですか?」
「ええ。学術都市ノルディアと農業都市グラディアにも繋がっています。二千年前は……、今日はもうやめておきましょう。ごめんなさい、お話できるのが嬉しくて、つい」
口元に手を当てるララの顔は、心から楽しんでいて、止めてしまうことを申し訳なく思う。
しかし、さすがにこれ以上は頭に入ってこない。
「今日はゆっくりお休みなさい。貴方達にはまだ時間があるのだから」
有殻族には寝具を使う文化がないようで、俺とルナリスの為に土を盛り、寝床を作ってもらった。
改めて、全く違う生き物だと感じてしまう。
今までは人間と魔族は、別のものだと思っていたから共通点を見つけていたが……。
同じものだったと言われても、違いを色濃く感じてしまう。
「ネモさん、大丈夫?」
寝返りの多い俺を心配してくれたのか、ルナリスが小声で呼びかける。
ルナリスを愛しいと感じる気持ちが、理屈じゃないものを繋ぎ止めていた。
俺は自分の半生が、虚なものだったのかと思いショックを受けているだけなんだろうか。
「ちょっとだけ散歩でもして落ち着いてくるよ。心配してくれてありがとう」
ララの言葉を疑う訳じゃない。
むしろ、教会の方に敵意がある分、気持ち的には受け入れやすい。
だけど、気持ちはそう簡単についてこない。
足は無意識にそこへ向かった。
まとまらないモヤモヤを、晴らして貰えないかと甘えているんだと思う。
「ダルマさん、お話できますか?」
手足のない彼は逃げないし、近づいてもこない。
その距離を埋めるかどうかは、俺自身に委ねられていた。




