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母なる石

「コレ、タベルとゲンキにナル」


「あ、ああ……。ありがとう……」


 出迎えてくれた有殻族のベルドンは、俺達を自宅に招き、食事を振る舞ってくれた。

 ただ、有殻族とは食文化が違い、思わず皿から目を背けたくなる。


「ベルドンよ。人間と有紋族は地中の虫を食しません。根菜やキノコがあればそれを出してあげなさい」


 かしこまった言葉からは、優しいながらも重さを感じ、ベルドンだけでなく俺とルナリスの背筋も伸びる。

 口元を微かに上げながら、ララ……だったものが語りかけた。


「そう緊張しないで。私、貴方達と話すのを楽しみにしていたんだから」


「……ララじゃないよな? 誰なんだ、あんた」


 ベルドンの身体から鈍い振動音が聞こえてくる。

 皮膚にビリビリと伝わるこれは、彼の怒りの表現だろうか。

 新たに出される皿から、盛られた食材がポロポロと溢れていた。


「これ、食べ物を粗末にするでない。ネモよ、有殻族は歴史的に私を尊ぶところがある。許してやりなさい」


「……いえ、こちらこそ知らなかったとはいえ、失礼いたしました……」


 細かく動かせる指を、うっとりとした目で眺めるその人は、まるで久しぶりの身体と言わんばかりに触れている。

 溢れた芋を食べながら、ルナリスが恐る恐る手を挙げた。


「あのぅ……、あなたはララちゃんなんですか? ララちゃんは戻ってきますか……?」


 優しく目を細めると、質問に答える前にベルドンを呼びつける。

 濡れて冷えたルナリスが暖を取れるように、と熱石なるものを用意させてくれた。

 落ち着いて威厳があるものの、視線や態度はまるで世話を焼く母親を思わせる。


「安心なさい。貴方達の仲間はいなくなってませんよ。ララという素敵な名前までつけてくれてありがとう」


 ゆったりとした所作で頭を下げられ、こちらも下げてしまった。

 見た目はララだからこそ、なんだか調子が狂ってしまう。


「ララは……、私の一部なの。貴方達とは生命の在り方が違うから想像しづらいかもしれないけど、昔のララだと思ってもらうのがわかりやすいかしら」


「昔のララ……、ここは過去の世界なのか?」


 海底に潜り、ララにダンジョンを生成してもらったが、その時に時空が歪んだとか?

 しかし、目の前のララは慌ててそれを否定した。


「違う違う! 言い方が難しいわ……。私はララの……化石? 先祖? 上手い例えが出ないわね」


「ハハなるイシ、ダルマがマッテイル」


 言葉を尽くして考えてくれたが、どうやらベルドンにも都合があるらしい。

 昔のララは妙案を思いついたように手を叩くと、上品に立ち上がった。


「ネモ、ルナリス。貴方達も来なさい。ベルドン、もしこの二人の方が心配なら貴方もいらっしゃい。ダルマはそんなこと気にしないでしょうけど」


 言われるがまま流されてしまうが、有殻族にとって大事な存在だと聞かされてしまうと無碍にも出来ない。

 わからないなりについていくと、集落の更に下層に大きな岩のようなものが鎮座していた。

 色褪せた赤が混じる岩に見えるそれは、手足の欠けた有殻族だった。


「久しぶりね、ダルマ。元気かしら」


「二千年ぶりだな。見ての通り、死んでないだけだ」


 有殻族でもハッキリと発音できる人もいるんだなと感心するが、二千年という時間の重みに思わず声が漏れる。

 しかし、二千年前に生きていたのであれば……、魔王とも面識があるんだろうか?


 次から次へとわからないことが増えていくが、昔のララとダルマと呼ばれる有殻族の会話からわかることもあるかも知れない。

 感動の再会に水を差さないように見守っていると──。


「元気でね、ダルマ。会えて嬉しかったわ」


「え!? 終わりですか!?」


 思わず、声を挟んでしまった。

 ベルドンから重低音は響いていない。

 もしかしたら、彼も近いことを考えていたのかもしれないな。


「二千年ぶりですからね。ダルマと話すことは特別ないわ」


「相手を信じていれば、言葉を交わす必要もない」


 二人には、俺が感じ取れないものが見えて、聞こえているんだろう。

 二千年を一つの区切り程度として受け止められる器を持てれば、その言葉の意味がわかるのかもしれない。

 立ち去ろうとしたララが、俺の顔を見て思い出したようにダルマに向き合った。


「私と魔石の関係はなんと説明するのが良いと思いますか? 彼らがこの身体をこさえてここまで連れてきてくれたのです」


 彼の前で優雅に回る姿は、どこかルナリスの舞を連想させた。

 ベルドンから喜んでいるような音が鳴る。

 ララを推しているのが伝わってきた。


「お前さんはこの星そのもの。魔石は星の欠片。それ以上も以下もない」


「……え? ……星そのものってどういう……」


「今の説明でわかるのかしら。このラブラドライトの魔石が貴方のダンジョンの核だったでしょ?」


 胸に手を当てて、魔石が装着されているところを大事そうに撫でていた。

 心臓が鼓動を打つように、星環機関の回転が伝わっているんだろう。


「本当の私はこの星の中心に眠ってるわ。魔力が溜まり身体まである魔石が、この地下深くに来たことで共鳴して、意識が浮かび上がったの」


 ラブラドライトも他の魔石も、私の欠片で私の一部と説明をしてくれるが……。

 急な話で、感情がついてこない。

 さらにララは俺の都合をよそに、話が止まらなかった。


「この星は、私が作ったダンジョンなのよ。植物も動物も、人間も魔族も、精霊も。全部私から生まれたの。だから″母なる石″と呼んでもらえてるのよ」


 この星がダンジョン?

 この世界を作った存在? 神様?

 じゃあ、教会が信仰する聖イグナシアとは……。


 俺はあの日のことを思い出していた。

 ルナリスを救う為に、魔王城に行った時のことを。

 もう戻れない。取り返しのつかないところまで来てしまっていた。


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