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ガラス玉のように澄み切った空の下

 悲劇は雨の中で起こるものだと思っていた。

 快晴のソリシアの街を下りながら、目に映るのは混乱と暴動。

 港には大型の船がいくつか停まり、教会のシンボルでもある不死鳥の描かれた旗を揚げていた。


「何が起こってるんだ……」


 ジークとギルフォードの争いだけでは、こんなことにはならない。

 地鳴りのような声が、街を下から震わせている。

 ルナリスとララは大丈夫なのか……。


「お兄ちゃん、お家……あの角のところ……」


 涙の跡をくっきりと残しながらも、少年は自分の家を自分の口で言えるようにはなっていた。

 家で震えていた母親に、説明をすると息子を力強く抱き締める。


「……ありがとうございました。本当に……、この子だけでも……私……」


 お礼を言われるようなことは出来ていない。

 街も非常事態で、一人で子供を守らないといけないんだ。

 側にいてあげることも出来ず、俺はもう行かないといけないのに……。


「お兄ちゃん、ありがとう……。これ、お礼にあげる」


 少年の手でも小さい、丸いガラス玉を渡された。

 有翼族は光り物を好むという話を聞いたことがある。

 彼の宝物なのかもしれない。包み込むようにそれを受け取った。


「ありがとう。大事にするよ。うるさいのも今だけだから。お家で大人しくしてるんだぞ」


 少年に見送られながら、港への道を駆け走る。

 潮の匂いがするはずの風が、血と火薬の匂いで鼻腔を覆った。

 二人は無事に逃げ切れているだろうか……。

 収まることのない悲鳴が、息をするのを忘れさせた。



 藍の門の広場には大勢の聖騎士が集まっていた。

 物陰に隠れてやり過ごそうとしたが、どうも様子がおかしい……。

 十名ほどの騎士達の視線の先には、ジークがいた。


「ガルネア司祭の護衛のはずが、なぜこんなところにいる! ″薬箱″が調子に乗るな!」


「……申し訳ありません」


 対峙した時の、ジークの顔が思い浮かぶ。

 あれだけの実力があっても、聖騎士団の中では肩身が狭いのか。

 それとも、他の騎士と派閥でも違うのか……。


「すぐに赤の門まで昇るぞ! 歯向かう魔族は斬り伏せろ。どうせ全て処分するんだ」


 指揮をとる強面の男が、聖騎士団を連れて街を昇っていく。

 港の方を一瞥したジークは隊の後ろについていく。

 聞き違いであって欲しかった。

 全て処分する? この街の魔族を?


「ジーク!!」


 思わず声をかけてしまう。

 賭けではあったが、戦闘にはならない自信があった。

 一度見逃されているし、さっきのやり取りからして聖騎士団の目的は赤の門にある。

 俺一人の為に、いたずらに時間を使わないとたかを括った。

 そこまでしても、聞かずにはいられない。

 あの少年は……、あの親子は……。


「……こんなところで何をしてるんですか? 早くあの有紋族を助けに行けばいいでしょう。貴方と遊ぶ時間は無くなりました」


「な、なぁ……、抵抗しない有翼族は殺さない……よな? 危害を加える魔族だけ……だよな?」


 隊に素直に従う気がないのか、最後尾の騎士に「先に行ってください」と伝えると、身体を俺に向けて答えた。


「関係ありません。有翼族は今回の制圧のキッカケとも言えますので。無抵抗なものも全て処分しますよ」


「こ、子供もいたんだ! 何も殺すことないじゃないか!」


 ジークは不思議そうに眉を曲げた。

 同じ人間なのに、どうしてこうも違うのか。

 それはジークも俺に対して感じているのだろう。

 言葉が通じているのか、確認するようにゆっくりと話す。


「えっと……、ネモさん……子供って大人になるんですよ?」


 言葉が、出なかった。

 なんで、そんな発想が浮かび、そんな結論に辿り着くのか。

 信じるものが違うと、ここまで違ってしまうのだろうか……。

 ジークはチラッと後ろを振り向くと、隊に追いつこうと昇り始めた。


「運が良かったですね。でも、次こそはあのお仲間達を焼き尽くしてあげますよ。もっとも、ネモさん自身が仲間に会えないかもしれませんが」


 スッと港の方角に指を刺す。


「あの有鱗族ですが、近辺の海でも有名な海賊ですよ。今頃、お仲間は商品として奴隷船になっているかも知れせんね」


 それ以上、ジークの声は聞こえない。

 俺もいつまでもこうしてはいられない。

 止まっていた足を、港を目指し直走る。


 ポケットに入ったガラス玉を、服越しになでた。

 また、救えなかった……。

 一度下りた階段を、昇る力と時間が俺にはもうない。

 自分の弱さを呪いながら、俺は港を目指して走った。





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