まだ足りていない
あの時、俺は夢でも見ているのかと思った。
相変わらず美しいソリシアの街を彩る青い空、白い建物、七色の門。
黄色の門を、より輝かせるかのように炎が上がる。
あの金色の炎が、この街の闇を祓うように。
全ての魔族を焼き尽くそうとする悪夢のように──。
◇
ギルフォードと別れダンジョンに戻ると、ルナリスとララが顔を突き合わせていた。
虹の門についての胸糞悪い報告をしなくては、と気が滅入っていたが。
こちらでも何かあったのかと、溜息をつくがララの声色からトラブルという訳ではないらしい。
「このダンジョンのすぐ向こうに、とてつもなく長い横穴があったんだ。魔力も通ってなくて誰かが掘ったものなんだけど、なんだか不気味でさ……」
平原で適当にダンジョンを生成したので、すぐ近くにそんな横穴があるのは気付かなかったらしい。
意図しない形状になっていたので調べてみると、ダンジョンではない長い横穴だったとのこと。
「そうか……。まぁ、ここに長居はしないだろうから今すぐ危険性がないなら無視しておこう」
ララには悪いが、あまり興味の持てる内容ではなかった。
このダンジョンにしたって一時的なものだから、どいた方が良さそうならすぐに移動するつもりだが、誰かに文句を言われたわけじゃない。
そんなことより、今はギルフォードの思惑について対策をしたい。
「──という訳で、虹の門の役割は金持ちが人を買う為の商品確認だったんだ」
うげぇと舌を出して不快感を露わにするララに対して、ルナリスは眉間に皺を寄せるものの唇はキュッと結ばれていた。
てっきり怒りや悲しみを言葉にするかと思ったんだが。
「ルナリス、大丈夫か……?」
「……うん。何と言うか……そういった悪意や闇みたいなものも、私の魔力が高まったら晴らせるのかなって思って……」
彼女はずっと俺より先を見ていた。
ルナリスのファンを増やせれば力が増していくと考えていたが──。
圧倒的な神秘性が伝われば、改心する人も出てくるかもしれない。
「不可能ではないと思う。今のルナリスの力でどれぐらいの影響があるかはわからないが……。でも、それが出来たら平和な世界になるな」
神妙な面持ちで考え込んでしまう。
彼女なりに出来ることを考えているんだろうけど、神と魔王に並ぼうとするっていうのは荷が重すぎるよな……。
俺の突拍子のない思いつきがルナリスを苦しめていないだろうか……。
「うーん……、確かに規模の大きな話ではあったけど……。でも、いつか魔王様と対立することになるなら、これぐらいの壁は越えられるようにならないとね」
よし、とルナリスは自分に気合いを入れて踊りの練習を始める。
彼女にしか出来ない部分を任せるとして、周りの雑事は俺が片付けるしかないな。
槍を手に取り、準備運動がてら身体を動かそうとすると、ララに呼び止められた。
「戦う可能性もある感じ? 僕も頭数に入れてもらって大丈夫だと思うよ」
そう言って目のレンズをいじると、壁に光を照射する。
映し出されたのは、ララの身体とその複雑な構造についてだった。
図と共にレンゾーのメモが走り書きで添えられている。
「右手を外すとこの穴から煙幕を打てるよ。ここから弾を込める仕組みだから、爆裂玉とかもいけるかも。左腕は刃が出せるから、ちょっとした敵ならやれると思う」
「そんな物騒な身体だったのかよ……」
「見た目は可愛らしく作ってくれたのにね。これじゃあ殺戮マシーンだよ」
他人事のように笑うララの構造を確かめるように俺達は戦闘訓練をして万が一に備えることにした。
Cランクに上がったとはいえ、戦闘技術は高くないからな……。
ララに槍の稽古に付き合ってもらっていると、やはりララも戦闘用には作られていないみたいで、そこまで力の差は無いようだった。
「……いや、ネモが強くなってるはずだよ。古井戸のダンジョンの時より、明らかに動きが速い」
「そうか? ジークに手も足も出なかったからな……。あまり過信は出来ないけどな」
「魔力をモロに食らった僕だからわかるけど、ジークのあの魔法はBランク、それ以上かもしれないよ。アレと比べてもしょうがないけど、悲観するほど弱くはないよ」
ララの言葉に勇気づけられる。
しかし、ジークに圧倒的な力の差を見せつけられ、さっきはギルフォードの剣筋を追えなかった。
仲間を守る為にも、もっと強くならないといけない……。
「ルナリスが甦った時、ネモも精霊の加護を受けたんでしょ? ……うん、やっぱり前より魔力が増えてるよ」
額に手を当てて、ララが触診するように俺の魔力を計測していた。
冒険者だった頃は、魔力量が乏しくて大した魔法も使えなかったから苦労したな……。
思えば、イグナシア神なんてこれっぽっちも信じていなかったから、魔力が増えるわけなかったのに。
「何かしらの精霊に力を借りられれば違うんだろうけど。まぁ、今は地道に訓練あるのみだね」
槍を握る手に力が入る。
敵わない相手にがむしゃらに挑んでも仲間を失ってしまう。
そうならない為にも、少しでも強くなり、力の差を感じたら被害を減らすことを考えなければいけない。
このダンジョンのボスとして。今度こそ居場所を守る為に。
◇
だけど、俺はまだ強くなんてなっていなかったんだ。
虹の門で、再びジークに刃を向けられるまで、それに気付くことが出来なかった。




