試される者、試す者
一瞬で目的地に行けたら、どれだけ楽だろう。
転移魔法はそれを現実のものとしてくれたが、反動なのか耳の奥が痛くなった。
漁村育ちで耳抜きは手慣れたものだが、そんな俺でも痛むぐらいなので、何事にも代償はあるんだなと痛感する。
「ここみたいですね……。そこに看板が立ってます」
指の先を見ると『ダンジョンのボス面接会場』と毛筆で書かれていた。
字の上手い魔族もいるんだな、と呑気なことを考えてしまうが、突然室内にいることの異様さに息を呑む。
どこかの城の廊下に見える。
長く長く続き、絨毯や燭台といった調度品はそれだけで漁の儲けを超えてしまいそうなほど豪華に感じた。
「ここは……、どこだか知ってるか?」
「魔王城ですよ。緊張しますよね……」
ルナリスは足首を回したり落ち着きがないが、俺はといえば驚きのあまり言葉が出なかった。
冒険者として名を馳せて、教会から聖十字騎士団に任命をされ、その上で魔王討伐の使命を賜らないと向かうことすら出来ない最後の砦。
パーティをまとめるどころか、見捨てられて野垂れ死にしそうだった俺が居ていい場所じゃない。
「ふぅ……。さぁ、ネモさん。頑張りましょうね!」
ルナリスが深呼吸をして扉を開く。
俺といえば心臓が早鐘を打ちすぎ、頭の靄はすっかり晴れていた。
死ぬまでに良い思い出が出来た、と面接とは違う観点で満足をしてしまい、肩の力が上手く抜ける。
部屋の中には二人の魔族がいた。
一人は有尾族の男性。眼帯をした顔は迫力があり、いつ罵倒してきてもおかしくない雰囲気を漂わす。
もう一人は全身を包帯で巻いており、種族も性別も一切が謎に包まれている。
ただ一つ、有尾族の男性が隣を気にかけている様子から地位は包帯の人の方が高いのかもしれない。
「はじめまして、有紋族のルナリスと申します。本日はお忙しい中、ありがとうございます」
「……人間で冒険者のネモと申します。よろしくお願いします」
頭を下げた矢先、有尾族の男性が書類をめくり、包帯の人に小声で何かを耳打ちしていた。
いいじゃない、と女性の声が聞こえてきた。
どうも包帯の中は女性で、おそらく人間の俺が面接に来たことを了承してくれたのだろう。
背中に汗が伝う。
俺とルナリスの戦いが始まった。
有尾族の男性はソルド、包帯の人はカタリナと名乗り、俺達にそれぞれ質問を投げかける。
出身地は? これまでの経験は? 使える魔法や技は? 契約している精霊はいるか?など。
そして、ルナリスが面接で上手くいっていない理由が俺にも理解できた。
「ふぅん……、戦闘経験なし、月の精霊と契約はしているものの攻撃魔法は未修得か……」
ソルドがペン先で頭をかいて唸ってしまう。
横でやり取りを聞いている限り、テキパキと回答していて面接官のリアクションも悪くない。
ただ、ダンジョンのボスとなると戦闘経験があるに越したことはないのだろう。
対して、俺は──。
「ネモさん……でしたっけ? あなたはこれが何の面接なのか理解してますか?」
口調が丁寧な分、眼光鋭く、爪を机にコツコツと叩く仕草が恐ろしい。
まるで歓迎をされていない。
しかし、どうせ落ちるとしても黙って落とされるのは癪だ。
「はい、ダンジョンのボスの面接ですよね。種族不問と記載があったので応募させていただきました」
そうは言っても、と目線を切る。
ソルドは俺よりもカタリナの反応が気になるようで、煮え切らない反応を示していた。
「魔王に忠誠を誓えるなら、種族は問いません。例え人間でもね」
見えないはずなのに、カタリナが微笑んだ気がしてしまう。
俺がこの勝負に勝つにはカタリナに認めてもらうしかないようだ。
やってやる!
「ネモさんは戦闘経験はあるのよね?冒険者なんだし」
「はい。今二年目です」
「これまではどんなクラスを経験してきたのかしら」
「今は槍兵ですが、剣士、武闘家、魔術師などパーティの都合で色んなものに携わりました。なので、満遍なく色んなことが出来ます」
「人間はそれが面白いわよね。魔族は得意を伸ばすばかりだから、環境の急激な変化や相性の悪い敵と出会すと簡単にやられてしまう」
「そうですね。その辺りは人間であることがメリットにもなりますね。また、私は冒険者が何を考えてダンジョンの探索をしているかがわかりますので罠にもかけやすいと考えています」
カタリナは腕を組みながら、包帯に隠されてはいるものの俺とルナリスを見比べているようだった。
ソルドを含め、三人がカタリナの言葉を固唾を飲んで見守ってしまう。
そして、短く、ハッキリと告げた。
「じゃあ、二人とも合格にしましょう。ただし、半人前同士ということでペアで良ければ任せます」
ネモさんは魔族のことを知らない、ルナリスさんは戦闘経験がない。
ならば二人で手を取り合って、カタリナが手をガッチリと組んで見せる。
「「ありがとうございます!!」」
言葉を口にして、頭を下げながらルナリスを見ると、彼女と目が合った。
再び舌先をチラッと見せる。
もしかしたら彼女の癖なのかもしれないし、有紋族の挨拶なのかもしれない。
俺はまだ知らないことがありすぎる。
だからこそ、知る為にも挑戦しよう。
ダンジョンのボスとして、挑戦される者になろう。




