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あなたに推されたい

 夜の平原を満月が照らしていた。

 海から吹く風は、昼間よりも荒い波の音を運ぶ。

 乾いた草の匂いが、気持ちを落ち着かせてくれた。


「二人で話すのも、なんだか久しぶりな気がしますね」


 月光に晒されたルナリスの銀髪が、闇を照らしていた。

 影が見えるほど明るい夜は、こんなにも綺麗に見えるのか。

 耳にかける指先が、いつもよりも大人っぽく感じて胸が高鳴っていた。


「レンゾーやボルネ、ギルフォードと立て続けに知り合ったからなぁ。ララもあんな形で再会できるとは思わなかったよ」


 ルナリスに呼び出された後、ララは生成したダンジョンの点検をするとのことで留守番を買ってでた。

 邪魔したくないからと面白がっていたが、その気遣いがありがたい。

 俺もルナリスと二人になりたかったからな。


「……この数日、話しかけづらかったみたいでごめんな。もう大丈夫だから」


 赤い瞳が、俺を見つめていた。

 小さく溜息をつくと、地面をポンポンと叩いて座るように促してくる。


「ネモさんって、自分が思ってる以上に顔に出てますよ? 全然大丈夫そうじゃないです」


「そ、そうなのか……」


「……最初はララが砕けちゃって、ダンジョンが無くなったことがショックなんだと思ってました。でも、ちょっと違いそうで……」


 指先をくるくると回しながら、上目遣いで俺の顔色を伺ってくる。

 ファルジアを虜にしたあの踊り子とは思えない、年頃の少女の顔だった。


「私が何かしちゃったのかなって……。何となく、あの舞台に立つ前ぐらいから? レンゾーさんの家で、わ、私が偉そうなこと言ったのが……気に障ったのかなって……」


 大きな目から涙が溢れ始める。

 緊張や不安が、決壊するほど我慢させていたなんて。


「違うんだ! ルナリスは何も悪くない! ……全部、俺が情けなくてかっこ悪いだけなんだ」


「ネ、ネモさんはっ、頼りになるし……か、かっこいいです!」


 フードを被ってしまい、顔を隠すが鼻をすする音は止まらない。

 満月が俺とルナリスを見つめていた。

 こんな時に、俺は何をまだかっこつけようとしてるんだろう。


「ルナリス、俺の正直な気持ちを聞いてもらえるか?」


 肩をビクッと震わせたが、コクリと小さくフードが揺れた。


「俺さ……、悔しかったんだ。ルナリスがどんどん凄くなっていくのが。一緒に半人前のボスって感じだったのに、精霊の加護を受けて、色んな人を惹きつけて、あんな風に舞台を成功させて……」


 弁解をする彼女を制して、俺は続けた。

 止めちゃいけない。つまらないプライドや見栄が出てこない内に、全部を吐き出す為に。


「八つ当たりなんだ。自分が何も持ってなくて、人の才能に嫉妬してた。レンゾーもボルネもギルフォードも。みんな凄いからさ。……悔しかったんだ」


 懐かしい磯の匂いがした。

 村とは違う波の音がする。

 突然、手を暖かいものが包んだ。

 フードの中から、潤んだ瞳のルナリスが俺の手を優しく触れる。


「それで……。あんな悲しい顔してたの?」


 悲しい顔?

 いや、俺はもっと醜い顔をしていたはずだ……。

 人の努力や思いを、一方的に恨むような、意地汚い顔でルナリスを睨んでいたはずだ……。


「……そんなの、当たり前だよ。みんな他人が羨ましいんだよ。私だってそう。レンゾーさんだって『わしもネモみたいに女の子と話してぇ』って言ってた」


 レンゾーの真似は似てなかったが、茶化す気にはなれなかった。

 彼女の気持ちが、言葉になる前に伝わってくる。


「私達はまだ何年も、何十年も生きていくのに。どうしてそんなに完璧であろうとするの? いいじゃん、人に嫉妬したって」


 いつの間にかルナリスの声は涙で震えなくなっていた。

 強い心が、芯のある声をあげている。


「私だって怖いのに! あんな大勢の前で踊るなんて無理だよ! でも、ネモさんが見ていてくれたから。ネモさんに見てもらいたかったから」


 握る手に力が込められた。

 満月の強い輝きが、周りの星を見えなくさせる。

 俺にはルナリスしか見えなくなっていた。


「ネモさん……。私、ネモさんが好き」


「俺もルナリスが好きだ。憧れじゃない。何というか……特別でいたい。俺だけのものにしたい」


「ネ、ネモさん。手が痛いよ……」


 思わず強く握ってしまった手を慌てて離すと、ルナリスに思いきり抱き締められる。


「嘘。痛くないよ。だから強くギュッてして」


 壊れないように強く抱き締めると、頭をぐりぐりと擦り付けてきた。

 細く柔らかい髪が、優しく頬をくすぐる。


「えへへ。また涙出てきた」


 その顔には晴れやかな笑顔と、煌めく魅力の欠片が溢れていた。

 指で掬うと、キラキラと闇に溶けていく。

 少しずつ視界が広がっていく気がした。

 前よりもルナリスの瞳の赤が色濃く見える。


「ありがとう、ルナリス。これからもずっと一緒にいよう」


「私も一緒にいたい。ずっと私のこと見ててね」


 背中に手を回す力に、彼女からの信頼を感じた。

 彼女に推され、俺は強くなる。

 彼女も俺に推されて、より強くなる。


 俺はイグナシア神や精霊よりも、ルナリスを推していたい。

 その時、気がついた。

 これが魔王になる為の方法なんじゃないかと──。

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