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舞台の裏で、幕は上がる

 その男の舌先は二つに割れていた。

 目立つようにわざとらしく動かし、眉を顰めるルナリスを見て、嬉しそうに肩を揺らす。


「で? このお兄さんが儲けさせてくれるってのか?」


 レンゾーに紹介された有鱗族の男は、待ち合わせの酒場に遅れてくるなり、ギョロギョロと俺達を見定めてきた。

 四人とも別の種族ということに興味を示したものの、身なりから金の匂いがしなかったのかルナリスを揶揄って退屈を凌いでいる。


「この街で顔が広いっつったらギルフォードしか思いつかん。性格は悪いが商才はある」


「昔のよしみで来てやったのに。つまんねぇ話ならこれ一杯飲んで帰るぞ」


 相手が商人と思うと背筋が伸びる。

 金になると思わせれば勝ち。単純だが難しい。

 ここまで来たら、あとはみんなで相談した作戦をギルフォードに提案するだけだ。

 舐められないよう景気付けにジョッキを飲み干し、口火を切る。


「この街の人達を巻き込んでショーをしたいんだ。その宣伝をしてほしい」


 笑うことも貶すこともなく、ギョロリと俺達の顔を見回す。

 一貫性のない集団だったことが功を奏したのか、追加の酒を頼み始めた。


「見せ物小屋みたいな面子だもんな。大道芸でもやんのか?」


「……世にも珍しい『人形と踊る少女』のステージだ」


 ふぅん、と頬杖をついてルナリスを見つめる。

 この四人であれば、踊るのは彼女であるのは想像できるだろう。

 ギルフォードの圧があまり得意ではないのか、ルナリスは視線を逸らさないでいるのが精一杯のようだった。


「素材は悪くない……。が、少し芋すぎる。おまけに身体も細い。悪いが大した興行にはならなそうだ」


 その一言は、ルナリスの怒りを買うには十分だった。

 が、俺はそれをギルフォードの誠実さと受け止める。

 確かにルナリスはまだ幼さも残る。踊り子にはどうしたって女性らしさを求める者もいるだろうしな。

 むしろ、ちゃんと検討してくれた証拠だ。


「その人形が一人でに動いても、客は沸かないか?」


 ギルフォードが舌をチラッと覗かせた。

 顔に広がる鱗が、鈍く光って見える。


「おい、アレが完成したのか? よっぽどの魔石じゃないとダメって言ってたら」


「こいつらが持ってる魔石が、そりゃあもう凄くてな。わしの魔導人形がついに日の目を見るぞ!」


「……アレは顔やら身体やらのデザインを好きに決められるんだよな?」


「おぅよ。おめぇの言う興行に向いた容姿にしてやらんこともない」


 ギルフォードはジョッキを手に取るが、いつの間にかそれが空になっていることに気がついていなかった。

 頼んでおいた追加のジョッキを渡すと、鋭い牙を見せて笑う。


「その気にさせるのが上手いな。でも、まだ足りねぇ。ショーって言うなら派手じゃないとな。例えば……」


「音楽とか……どうだ?」


 ボルネに視線を送ると、重なった複雑な音を立ててくれた。

 事前に聞いたところ、いくつかの殻を響かせることで複数の音を同時に出せるらしい。

 まさに一人楽団。舞台袖で奏でてもらえばルナリスの踊りが何倍にも華やかになるはずだ。


「なるほどな……。そうなると大前提だが、お嬢ちゃん。どんぐらい踊れるんだ?」


 最初からあまり印象が良くなかった上、軽んじられた対応を取られていたルナリスは、既に我慢の限界まで来ていた。

 勢い良く立ち上がると、その場でステップを踏んで見せる。

 しなやかな手つき。髪も身体の一部だとして魅せ、酒場の視線を一瞬で自分のものにしてしまった。


(なんだ……? 前よりも目が離せない……)


 客のジョッキを持つ手が止まり、固唾を飲んで見つめてしまう。

 振りまく魅力の欠片が、ルナリスの動きに合わせて波のように溶けていった。

 突然、ピタッと動きを止めて声を上げる。


「ありがとうございました! 今度ショーをしますので是非見てくださーい!」


 歓声がルナリスを包み込んだ。

 酒の席の余興だから、というだけじゃない。

 確実に彼女を印象づけることに成功した。


「ネモさん。この人、乗り気じゃないみたいですよ。諦めて他の人に相談しませんか?」


ベッ、と舌を出して見せて威嚇する。

イタズラ程度の可愛らしさが勝つが、彼女なりの抵抗なのだろう。


「待て!……待ってくれ。お嬢ちゃんの踊りは最高だった。あんなの見せられちゃあ、もう帰れねぇ」


 悔しそうに腕を組んで、天井を眺めていた。

 トントンと小気味よく動く指は、何かの計算をしているように見える。


「……やるなら四日後がベストだ。中規模の商隊がこの街に来る。時間は夕暮れ時。この店に頼んで外に席を作らせる。すぐそこの十字路に舞台を作ればいい」


「協力してくれるのか!?」


「取り分を決めてからだ。相場で言えば俺が七、お前らが三だろうな」


「ふざけるな。五分五分でいいだろ」


長い爪で机を突きながら、ギルフォードはその割れた舌先を動かした。


「別のやつに話を持ってくか? 悪いが時間と場所は俺が決めたんだ。話を持ち帰ったら、その時間に別のショーでもしてお前らのこと食っちまうぜ」

 

カラカラと笑い、良い儲け話を見つけて酒の味を楽しんでいた。

みんなの顔色を伺うと、下を向いてしまっていた。

恐らく、ここまで上手くいきすぎて綻んでしまう顔を隠しているのだろう。

ボルネだけが一切の表情を変えず、ギルフォードをジッと見据えていた。

それはそれで、圧をかけられてて良いのだけど。


「わ、わかった。六対四でどうだ」


「七三だ。これは譲らねぇ」


「……わかったよ。じゃあ、せめて今日の酒代はギルフォードが持ってくれ」


元々俺達は金が目的じゃないからな。

楽しく酒が飲めた方がいい。


「交渉成立だな。いいぜ、酒代ぐらいはご馳走してやるよ」


ありがとな、ギルフォード。

結構高くなりそうだけど、ご馳走様。


「みんなー!協力ありがとう!四日後にそこの店先でショーをやるから観に来てくれよ!」


酒場から再び歓声が沸く。


「にいちゃん、悪いな。奢ってもらった上に可愛い踊り子さんまで拝ませてもらって」


「レンゾー!期待してるぞー!」


好き勝手に応援の言葉をかけては、俺達に感謝の気持ちを込めてジョッキをぶつけてきた。

向かいの席でギルフォードだけが、目をギョロギョロと泳がせている。


「な、なんだ……。まさか、お前……」


「全部仕込みだよ。店の客全員に『酒代は俺が持つから、この子が踊ったら注目して盛り上がってくれ』ってね」


踊りの評価は本当に高そうだったけどな。


「じゃあ、ギルフォード。ご馳走様」

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