隠れない自由
「タスケテホシイ──」
その言葉を聞いて、ジッとしていられなかった。
多分、俺は誰かに頼られたいんだと思う。
そこが自分の居場所になっていくから。
でも、心の奥底で困っている人がいないかと探し求めていたら……。
果たして、それは正義と言えるだろうか……。
◇
ボルネが聞いた音を頼りしばらく掘り進めていくと、岩肌から青く輝くラブラドライトの魔石が顔を覗かせた。
危うく借金生活になるところだったのを考えると、思わず気が抜けてしまう。
「本当にありがとう、ボルネ。今度は俺達がボルネを助ける番だ。改めて話を聞かせてくれないか」
レンゾーの工房に戻り、早速ララの欠片の修復をお願いする間、俺とルナリスはボルネから事情を聞くことにした。
「──キョウカイを、ニンゲンをトメテホシイ」
その話は、とても壮大で。
白金貨十枚ぐらいで解決出来るなら、どんなに安上がりだったかと、思わず後悔せずにはいられなかった。
言葉足らずなボルネの話をまとめると、こういうことだった。
・教会は魔族討伐に向けて動き始めている。
・その為に魔石狩りを行ない、精霊の力の弱体化を図っている。
・工業都市では魔石の採掘量が増え、このままでは星が疲弊してしまう。
「コノマチのニンゲンはカセグコトバカリ。ネモはチガッタ。ダカラ、ニンゲンをトメテホシイ。ホシをタスケテホシイ」
耳の良いボルネは鍛治ギルドにいると様々な噂話が聞こえてきたと言う。
有殻族の前に、密談は意味をなさないらしい。
しかし、教会の暗躍を知ったところで有殻族はそれを伝えるのが苦手だ。
途方に暮れていた時、俺とルナリスと出会う。
「フタリトモ、フシギなオトがスル。ココとチガウホシのオト?」
訳がわからん、と鼻を鳴らすレンゾーを他所に、俺とルナリスは顔を合わせてしまう。
きっと、ルナリスを救った精霊の加護がボルネに聞こえる音の正体なのだろう。
教会との因縁、ルナリスの受けた加護。
力を貸してもらったレンゾーとボルネを信用し、俺達は二人にこれまでの全てを話すことにした。
「──という訳で、ララを元に戻す為に工業都市に来たんだけど……。レンゾー、大丈夫か?」
「ゔ、ゔるぜぇ! ご、ごれば木屑が目に入っただけだぁ!」
俺がダンジョンのボスになった経緯を説明している辺りから怪しかったが、ルナリスが死の淵に立ったという話では、レンゾーの涙腺は決壊しきっていた。
ボルネは変わらず何も言わないが、その身体の奥からキーンと甲高い音が響く。
有殻族は涙の代わりにも音を出すのかもしれない。
「そ、そうかぁ……。それでおめぇら焦ってたんだなぁ……」
目と鼻を赤くしたレンゾーが、痰を絡ませながら事情を察してくれた。
ボルネに協力を仰ぐ時、レンゾーの意見を蔑ろにしてしまったことを詫びると、手をヒラヒラと振り、鼻水を啜る。
「でもよぉ、そうすっとあんまり目立たねぇ方がいいよな……。そのジークってのに目つけられてんだろ?」
教会が俺達をどんな風に認識しているかはわからないが、始末したはずの敵が工業都市で妨害工作をしていたなんて分かれば、前回の二の舞になるだろう。
あんな奇跡が二度も起こるはずがない。
もう一度ジークと戦えば、今度こそ誰かがいなくなってしまう。
「あの……、私としては甦ったことが教会にバレてもいいと思ってます」
おずおずと手を挙げながら、しかしハッキリとした声でルナリスが口を開く。
「精霊に助けられた命を無駄にする気はありません。でも、ずっと教会から見つからないように生きるなんて……。私達、悪いことなんてしてないと思います」
ボルネにはどんな音が聞こえているんだろう。
ルナリスから小さな光の粒子が、キラキラと舞っている。
「レンゾーさんのお人形作りのお手伝いもします。ボルネさんの言う通り、魔石の取りすぎを注意します。ララも元に戻しますし……、ネモさんは魔王になります!」
真っ直ぐな瞳で、俺を見つめている。
俺が魔王に啖呵を切った話はしていなかったので、レンゾーはもちろんボルネにも身体を揺らして驚いていた。
「ずっと考えてました……。私なんかが加護を受けて、何が出来るんだろうって……。まだ考えている最中ですが、コソコソする必要はない筈です!」
彼女は強くなっていた。
腕力や魔力の問題じゃない。
胆力や精神力と言うものなのかもわからない。
だけど確実に、惹きつけられた。
それは付き合いの長さによる贔屓でもなければ、好意の有無も関係なく。
この場にいた別の種族の三人が、ルナリスの言葉に心を震わされていたから。
ボルネの言った届かない声。
ルナリスであれば、あるいは……。
騒がしい荒くれ者の集う街。
技術を信奉する職人と金を好む商人。
ルナリスの声を届ける為には、何があればいい。
ふと、工房に吊るされたレンゾーの傑作が目に留まる。
大勢の人々を集めたところでルナリスの言葉を聞かせられれば……。
「なぁ、レンゾー。もし知り合いにいたら紹介してほしいんだけど……」
もし、上手くいったとして。
俺は素直に喜べるのだろうか。
「顔が広くて、金儲けが好きな商人……。出来れば有鱗族の知り合いがいたら教えてくれないか」
俺はルナリスと対等ではいられないかもしれない。
どんどんと先を行ってしまう彼女の背中に、劣等感を抱くとしても。
誰かの助けになりたいと、その気持ちが呪いのように焼き付いていた。




