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聞こえる音、聞こえない音

 有殻族の採聴士はボルネと名乗った。

 魔石を見つける手伝いをしてくれるとのことで、依頼料は銀貨五枚。

 返せる目処のつかない借金に比べれば、あってないような金額だった。

 支払おうとしたその瞬間、レンゾーに肩を掴まれてしまう。


「待て待て! 銀貨五枚は高くはない。が、こいつの言ってることは信用ならん! 魔石の場所がわかるなんて嘘に決まっとる!」


 焦らずコツコツと掘るしかないんじゃ、と諭すレンゾーの気持ちも分かる。

 漁に出るじいさん達もそうだった。

 あの時の相手は海。今回は鉱山。いずれにせよ自然と向き合っていくのに焦りは禁物なのは分かっている。

 しかし、俺達には……ルナリスには悠長なことをしている余裕はないかもしれないんだ。


「レンゾー、お前の気持ちは嬉しいよ。でもな、俺達は一日でも早く魔石を手に入れたいんだ」


「……ハァ。まぁ、昨日会ったばかりのわしがお前らの金の使い道にとやかく言える筋合いはねぇわな」


 不満、というよりは諦めに近い。

 レンゾー自身も出過ぎた真似をしたと後悔をしているようだった。

 違うんだ。俺がルナリスのことを全部説明していないのが悪いんだ。

 ルナリスも同じことを考えていたのか、服の裾を掴み、無言で俺に訴えかける。


「……改めて説明させてくれ。とにかく今はラブラドライトの採掘が見込めるか確認したい」


 重たい空気が、肩にのしかかる。

 たかだか四人。だけど四つの種族。

 意見や考えが、必ずしも同じ方向を向く訳がないんだ。

 改めて魔族という大きなものを統べる魔王の負担に背筋が伸びる。


「ダイジョウブ。ミンナのオト、ヤサシイ」


 ボルネが胸の殻をコン、と叩く。

 何の話かと呆気に取られていると、ルナリスが晴れた顔で手を叩いていた。


「ボルネさん、心の声が聞こえるんですね!?」


「チガウ。シンゾウのオト。カンジョウがデル」


 心臓の音。心拍数か!

 恐らく魔力の波を音として捉えているんだろうけど、俺達とは世界を生きているみたいだ。

 もしかしたら、感情が分かりづらいのも有殻族同士では分かり合えてるからなのかもしれないな。


「フンッ、うさんくさいのぉ。おい、ネモ。急いでんなら早く掘り行くぞ。わしも早く見つけて魔導人形を作りたいんじゃ」


 そう言うとレンゾーはギルドで採掘の手続きをしに行ってしまった。

 レンゾーをはじめ、この街にいる有瘤族からの感情を、ボルネはどう受け取っているんだろう。

 冒険者の頃、不信や不満を向けられるのが日常だった。

 この心配もボルネには筒抜けなのかもしれないと思うと、余計なお世話かな自重した。



 レンゾーが許可されているCランクの鉱山は、他にも多くの人達がツルハシを振り、土を掘り返していた。

 まるで巨人のハラワタを食い破ろうとする虫に見えてくる。


「こんなに大勢が掘っても見つからないんだな……。見通しが甘かったよ……」


「いや、この数は異常だな……。普段はこの半分かもっと少ねえ。それに……どうも人間が多いな」


 有瘤族は少量の魔石を加工し、自分の鍛治の腕を見せつける。

 やたらと掘り返すことはしない、となれば人間が多いこの光景は──。


「コッチ。オクにケハイがスル」


 ボルネに案内をされ指示をされたところを掘ると、小さなガラスの破片のようなものが土から顔を覗かせた。

 俺とルナリスは顔を見合わせてしまうが、レンゾーには伝わったらしい。


「これは……、小せぇがダイヤだな。探してるもんとは違ぇが立派な魔石の欠片だ。驚いたな……本当に分かるのか?」


「ワカル。ケド、ネモがサガスオオキサはモットモットオク」


 結果を見せられてレンゾーは居心地が悪そうに鼻先を掻いた。

 心のどこかで見下したり、異物感を抱いていたものを認めないといけない時。

 しかし、彼の心はまだ素直にはなれなかった。


「……まぁ、わしらを騙そうって訳じゃねぇみてぇだが……。ラブラドライトが見つかったら、その……認めてやるよ」


「レンゾーさん……、かっこ悪いよ……」


 ルナリスの遠慮を突き破る物言いが、レンゾーの胸に突き刺さる。

 みんながみんなそう素直になれる訳じゃない。

 こればかりはレンゾーに同情もしてしまうな……。


「でも、これでボルネの力を借りれば効率良く魔石が見つかりそうだな。助かるよ」


 激励のつもりで声をかけるが、反応がない。

 ボルネなりの感情表現をしてくれている可能性もあるが、俺には何も感じ取れなかった。

 数瞬、気まずい沈黙が流れると、ボルネはゆっくりと顔を近づけてきた。

 いつものように、少し聞き取りづらい声だが、ハッキリと言葉にする。


「マセキはミツケル。カワリにタスケテホシイ」


 初めてボルネと目があった。

 兜のように覆った殻の隙間に、琥珀色の瞳が揺らめいている。


「ニンゲンがマセキをウバッテイル。ネモはニンゲンだからニンゲンをトメテホシイ」


 採掘場に響くツルハシの音。人々の掛け声。

 それはボルネにとって痛ましい音なのかもしれない。

 静かに、でも固い意思を持つボルネの心を、俺はまだ何も分からなかった。

 でも、助けたい、とそう思ってしまった。


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