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聞いてみないとわからない

 酒場のジョッキ一杯、銅貨三枚。

 冒険者の頃に一日働いた報酬、銀貨四枚。

 商店で飾られていた高そうなドレス、金貨二枚。

 そして、ラブラドライトの値段が──。


「は、白金貨で十枚!?」


 一夜明けて連れてこられた鍛治ギルドでは、金さえあれば魔石が買えた。

 だが、そんな金はあるはずがないし、そもそも白金貨なんて触ったこともない。


「お兄さん、商人じゃないのか? 鍛冶屋でもなさそうなのに個人で魔石を買いたいなんて酔狂なことするねぇ。金がないなら大人しく掘りなよ」


 店に立つ有鱗族の商人が、手をヒラヒラと振り追い返す。

 長いことその日暮らしをしてきた俺には、まるで異世界の話だ。

 借金をすることのイメージが出来ていなかったが、手のひらにじっとりと汗が滲んできた。

 格上のモンスターと対峙した時とはまた違う、心臓を握られているように苦しくなる。


「鉱石や魔石は加工してなんぼだからなぁ。高え金で買って、良い武器や装飾品にして売るのが常識だ。返すあてがねぇってなると……」


 頭を掻きながらレンゾーが別案がないか、ギルドを散策してくれた。

 居心地が悪そうなルナリスは、俺のすぐ側にいるものの、キョロキョロと視線を泳がせている。


「ネ、ネモさん……。白金貨ってどれぐらい高いんですか? ケーキが百個ぐらい買えますか?」


 有紋族は森で静かに暮らす魔族らしく、田舎者の俺ともまた毛色の違う世間知らずだった。

 気が動転し真面目に考える気にもなれなかったので、雑に返してしまう。


「ケーキかぁ……。ケーキを作ってる料理人を何十人も雇えそうだ。毎日ケーキ食べ放題だな」


 その大きな目が溢れそうなほど開かれ、俺の動揺が感染していた。

 見ているだけで金を取られると思ったのか、俯いて少しでも身体を小さく見せようとしている。


「やはり値段はどこも変わらんなぁ……。どうだ、借金をする覚悟は出来たか?」


「……冒険者の時の稼ぎが日に銀貨四枚だった。とてもじゃないが返せるあてがない……」


 ララのことを諦めたくはないが、さすがに桁が違いすぎる。

 おまけにルナリスが受けている加護のこともあるんだ。

 精霊が見ている中、借金を踏み倒したり悪事を働こうものなら、どんなことが起こるかわからない。


「あの……、お金って借りるのにも条件があるんですか?事情を話せば貸してもらえるってものでもないんでしょうか……」


「銅貨や銀貨ならそれでもいいが、白金貨となるとなぁ……。鍛治ギルドでCランク認定されてるわしでも一、二枚ってとこだな」


 おまけに加工して売りもんにしねぇんじゃな、とレンゾーが天を仰ぐ。

 ダンジョンで冒険者を倒していくにしても、その為のダンジョンがない。

 改めて冒険者として稼ぐにしたって、芽が出なかったという過去が、難しいことを証明していた。


「……さっきの商人は金が無いなら掘りなって言っていたけど、頑張って掘れるものなのか?」


「不可能ではないが難しいな……。最低でもCランクの採掘場に行かねぇと。しかし、それでも期待は出来ねぇな……」


 質の良い魔石じゃないと意味がない、とのことで採掘場のランクが低いと見込めないらしい。

 見つかるまで掘ると言いたいが、そんなことをしていてルナリスが精霊に飽きられないかが心配になる。


 椅子に座り込み、呆然とギルド内を眺めていた。

 中央都市の冒険者ギルドに比べると、見慣れない光景が広がっていた。

 人間が少なく、レンゾーと同じく鍛治の材料目当ての有瘤族や商売をしている有鱗族の割合が多い。

 何より目に留まるのが、その巨体を持つ有殻族の存在だ。

 座っているだけなのに、まるで岩かと見間違う。

 よく見ると、座っているだけじゃなくて採聴士という聞き慣れない看板を掲げていた。


「レンゾー。あそこの有殻族は何をしてるんだ?」


「あぁ。地下に採掘に行く時、崩落の危険性がないか、暗闇で竪穴が開いてないかを調べてくれるお供だな。有殻族は地中暮らしが長いから音の反響で地形やらがわかるんだとよ」


 無口で何を考えてるかわからねぇ、と吐き捨てる物言いに、積極的に関わってこなかったことがわかる。

 どの種族も仲良し、という訳にはいかないな。

 危ない地下道の案内役か……。

 音の反響で地形がわかるって言うのは、俺とは世界が違って見えるんだろうな。

 ルナリスも鼻で魔力の痕跡を探っていたし──。


「なぁ、それってどこを掘れば魔石があるのか反響でわからないかな?」


「はぁ?そんなことが出来るなら、やつらは今頃大金持ちじゃねぇか」


 呆れるレンゾーを尻目に、有殻族に声をかけてみる。

 興味があったのかルナリスも着いてきたが、有殻族はピクリとも動かなかった。


「えっと……、採聴士ってのに興味があるんだけど……」


 ルナリスの二倍はありそうな巨大な身体には、鎧のような殻を纏っていた。

 年齢も性別も、感情もわからない。

 確かに、切符の良い性格のレンゾーとは相性が悪そうだ。


「あの……、私達魔石が必要なんです。ラブラドライトの魔石なんですけど──」


 事情を話そうとするルナリスが止まる。

 どうしたのかと見守っていると、キーンと金属を叩くような音がした。

 辺りを見回していると、その音が僅かにぶつ切りに聞こえてくる。


最初はただの金属音にしか聞こえなかったそれは、徐々に言葉の断片へと変わっていった。


「……コレ、キコエルカ? オマエラのハナシ、キイテイタ。マセキのコト、テツダッテヤル」


 そこにいたのは冷たい岩のような有殻族ではなく。

 熱の通う少し無愛想なだけの魔族だった。


 身を守る鎧のような殻で見えないが、うっすらと微笑んでいる気がしてきた。


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