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星に願いを、少女に祈りを

 太陽が沈んでも、ファルジアは眠らなかった。

 店が並ぶ通りから少し奥まったところにある工房に、レンゾーは俺たちを案内する。

 道中もルナリスとは目を合わせようとせず、工房まで来たら話してやると息巻いていたが……。


「ネモさん、私熊のお肉って初めて食べました。全然噛みきれません」


 ルナリスの機嫌を取るために、レンゾーが勧める串焼きを買ってみるが、彼女の顎には手強かったみたいだ。

 有紋族は菜食主義が多いと聞いたことがあるけど、習慣がないだけで禁忌ではないとのこと。

 彼女のことですら、まだまだ知らないことばかりだ。


「散らかってるが、適当なところに座ってくれ」


 工房の中に入った瞬間、思わず言葉を失った。

 ルナリスが短い悲鳴と共に、背中に隠れたのが分かる。


「安心せい。本物じゃねぇ。まぁ、本物に見せようと作ってんだがな」


 天井や壁には、人の腕や足、頭や胴体が無数に吊るされている。

 悍ましい現場かと勘違いしたが、よく見ると木材や金属を加工して作られた人形だった。


「レンゾーは人形技師だったのか? それにしてもこんな小さい部品まで……」


「魔石で動かす人形、わしは『魔導人形』って呼んどる。年寄り達は古いもんばっか作っとるから、これに熱を上げてるのはわしぐらいじゃねぇかな」


 鍛冶にも冶金にも詳しくないが、これだけ精密なものを作ることがどれだけ難しいかぐらいは俺にだって想像ぐらいできた。

 寝る間も惜しんで、全てをそれに注がないと辿りつかないはずだ。

 どれだけ誇られても良かったが、当のレンゾーは落ち着きがなく、乱暴に頭を掻いていた。


「がっはっは! 気持ち悪りぃだろ? わしは女が苦手で目を見て話すことも出来ん。それでも指は細かく動くもんだから、こうして人形を作っちまってる」


 この街じゃどれだけ鉄を叩いたかでしか評価されねぇんだと、渇いた笑い声を上げる彼の手には小さな傷がいくつも刻まれていた。

 気味が悪いと指を指す人がいるのも理解はできる。

 こんな街だ。乱暴な言葉がレンゾーを傷つけたこともあったんだろうな。

 だけど──。


「気持ち悪くないですよ。すごく細かくて見てるだけで面白いです。この顔なんか本当に寝てるみたい!」


 手に取りたいけど壊したくないという振る舞いが、彼女の言葉が嘘じゃないことを物語っていた。

 舞を踊るルナリスには、表現が違うだけで通じるものがあるかもしれない。


「誰に何を言われたのかは知らないけど、これは胸を張って良い腕前だ。少なくとも俺達の前ではそんな卑下しなくていいぞ」


 冒険者として芽が出なかった俺としては、嫉妬すら覚える。

 だけど、だからこそ誇って欲しかった。

 身近な人に理解されなくても、住む世界が違えば評価されることはある。

 たぶん俺はレンゾーに自分を重ねてしまっていた。


「……ハッ! お前達みたいな素人にこれの凄さがわかるわけねぇだろ!」


 不器用に憎まれ口を叩くも、居た堪れなくなったのか奥から酒とツマミを持ってくる。

 絞り出すように言った「ありがとな」に彼の気持ちが映し出されていた。



 いくらか距離が縮めてくれたレンゾーは、ルナリスを直視は出来ないものの、俺を見ながらであれば話せるようにはなっていく。


「これは……ラブラドライトか。珍しくはねぇが、純度は高そうだ」


 作業用の眼鏡を通し、魔石の欠片を眺める姿は熟練の職人そのものだった。

 特殊な器具で調べているが、あれで何かわかるのか?


「……おい。これどこで見つけた?」


「……まぁ、ちょっとな。何かわかったのか?」


 ルナリスと目配せをし、それがダンジョンの核であることは伏せておく。

 俺達がダンジョンのボスだったことを教えていいものか、躊躇い誤魔化してしまった。

 レンゾーが筒のようなものに魔石を入れると、ゆっくりとそれについた輪が回転する。


「とてつもない魔力が込められてんな……。この量でエンジンが動くなんて、何なんだこれは……」


 驚きの中に喜びが隠れていた。

 まるで、自分の発明が完成に近づいたかのように。

 少年のように目を輝かせて俺に詰め寄る。


「わ、わかったよ。この魔石を復元できるってことなら訳を話す。実際のところどうなんだ?」


「見くびるんじゃねぇ! ワシがどれだけ魔石をいじくってきたか!」


 レンゾーはいてもたってもいられない、といった様子で魔石を入れた筒を掴んだ。

 ゆっくりと、着実に動くその輪が、彼には奇跡のように見えているらしい。


「この”星環機構”を動かせれば理屈上、魔導人形は完成する。だが、それを動かすにはどデカい魔石が必要なんだ。それをこれっぽっちの欠片で……」


「レンゾーさん、その魔石は私達が育ててきたダンジョンの核です。ただの魔石じゃありません」


 レンゾーに気を遣って静かにしていただろうルナリスが、凛とした口調で言葉にする。

 その眼差しには、彼女の覚悟が込められていた。

 自分を守ってくれたララを、取り戻す為に手段を選ばない、と。


「もし、その魔石を戻せるなら何でもします! お願いします!」


 ルナリスから輝く光の粒が舞っていた。

 強い決意と共に、彼女の魅力が溢れだす。

 それはレンゾーの目には映っていないはずだが、彼も間違いなく何かを感じ取っているようだ。

 さっきまで目を合わせられなかったのが嘘のように、ルナリスから目を離せられなくなっていた。


「……じ、じゃあ……、わ、わしの魔導人形のモデルになって……ほしい……」


 空気に溶けていくルナリスの魅力は、既にレンゾーの心を虜にし始めている。

 目の前で、心が動く瞬間を見た。

 それは恋というよりは、信仰に近いものだった。


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