表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/68

酒と金が鍛治場を回す

 煤けた建物の外壁は、この街の歴史そのものだった。

 そこかしこに黒煙を吐き出す工房が並び、人間と魔族が当たり前のように行き交っている。


「ここがファルジアか……。なんというか……うるさいな」


 金属を叩く音。荷を引く馬の嘶き。飛び交う罵声。

 思わず耳を塞ぎたくなるが、そんなことをしていると後ろから誰かにぶつかられてしまう。

 だけど、少しだけ港町の荒さが懐かしくなった。


「ネモさん……、先に宿で休ませてもらいますね……」


「そうだな。魔石については俺が情報を集めておくから。ルナリスは休んだ方がいい」


 日差し避けの為に被ったフードが、彼女の疲れを強調していた。

 手近な宿を取ってルナリスを休ませ、主人に相談すると気前よく人が集まる酒場を教えてくれる。

 客とわかった途端に変わる態度が、この街の個性を表しているようだった。


 街の中心通りに構えるその酒場は、まだ日が高いわりに席が埋まりかけている。

 余所者に興味を示さないところを見るに、人の出入りが多いんだろうな。

 カウンターに座り、退屈そうなウェイトレスに声をかけてみる。


「いやぁ、参ったよ。中央都市から魔石の買い付けに来たんだけど、約束の時間に誰もいなくてね。ちょっとここで涼ませてくれ」


 チラッとこちらを見るも、無愛想に注文を聞くだけ。

 俺の予想が正しければ、金払いさえ良ければ店員の口も軽くなるはず……。

 ルナリスには悪いが、ここの地酒を気前よくボトルでいただくことにする。


 日が傾くにつれて、気づけば店内は満席になっていた。

 気持ち良く酒を飲んでいると、ウェイトレスや近くにいた客との会話も弾んでいく。


「それにしても兄ちゃん、随分強えな。もう二本は開けたんだろ?」


「ここの酒が美味いんだよ。俺の漁村も酒を作ってたんだけど、海の酒とはまた違うんだな」


 街の雰囲気から職人気質が多いのは察していた。

 仕事に誇りを持つ男達は、周りに嫌という程いたからな。

 親譲りの酒の強さが、こういうところだと面白がられて役に立つ。

 そろそろいいかな。

 顔が赤くなってきた男に、残念そうに相談をしてみた。


「実は中央都市から商売で来たんだけど、空ぶっちゃってさ……。魔石に詳しい人がいたら紹介してくれないか?」


 男は硬そうな髭をこすりながら、ウェイトレスに心当たりがないか声をかける。

 どうやら当てがあったようで、奥のテーブルの有瘤族を示していた。


「兄ちゃんの商売の足しになるかはわからねぇが、あそこのレンゾーは鍛治もしねぇで魔石ばっか掘ってる変わりもんだ。おい、レンゾー!お前に話があるってよぉ!」


 小柄で歳の近そうな男が、不機嫌そうに近づいてくる。

 鍛治や物作りに長けている有瘤族は、みんな頑固そうに見えるが、レンゾーはそれに加えて神経質そうな印象があった。

 酒を飲みながら、誰だこいつと俺を値踏みする。


「あんた、魔石に詳しいんだって?ちょっと話を聞かせてくれないか?」


「何でお前なんかと……。他当たってくれ、酒場でシラフでいるやつなんかと話すことはねぇよ」


 赤ら顔の男が言いかけた言葉を止める。

 つい口元がゆるんでしまった。


「それもそうだ。じゃあ、俺とあんたでどっちが酒が飲めるか勝負しよう。俺が勝ったら話を聞かせてくれ。あんたが勝てば酒代は全額俺が払ってやる」


 ウェイトレスに目配せをすると、商売気のある笑みを隠そうともせずレンゾーを乗せてくれた。

 やっぱり商人は金になる客の味方だな。

 レンゾーはウェイトレスからも煽られると思っていなかったのか、断る文句が浮かばなかったのか、たじろぎながら誘いを受ける。


「よ、余所者がデカい口叩くじゃねぇか。有瘤族の肝臓は熊の肝だって言われてるのを知らねぇみてぇだな」


 溢れんばかりに注がれたジャッキが、あっという間に机を埋めていった。

 悪いな、レンゾー。俺は地元じゃ鯨の肝だって言われてたんだ。


 十杯も飲み干してみれば、レンゾーは椅子から転がり落ちた。

 荒くれ者達の歓声を受け、田舎を思い出す。

 酒の強さは冒険者の価値とは無関係だったことが惜しい。


「レンゾー。大丈夫か?ほら、水飲んで外の空気を吸おう」


「お、おめぇ……やるじゃ……ねぇか。でもな、わしは……まだ……」


 肩を貸してどうにか店の外に運ぶが、店先でひっくり返ってしまう。

 この街ではよくある事のようで、行き交う人達も気に留めないのはありがたい。


「……で? 何が聞きたいんだって?」


 酔っ払いに質問したところで、まともな返答にはならないと話を流そうとするが、レンゾーは頭を揺らしながらも意識を保とうとしていた。


「いいから言ってみろ! 今言わねぇんじゃ聞かねぇぞ!」


「しょうがないな……。実は砕けた魔石を直したくて──」


「ああ!ネモさん! 宿の人に聞きましたよ。一人でご飯食べちゃうなんてひどいです!」


 すっかり回復したルナリスが俺に気づいて駆け寄ってきた。

 お腹が空いているのか、地団駄を踏む姿はそれなりに不満そうだった。


「ご、ごめん……。ただ、俺も魔石に詳しい人を見つけたんだ。レンゾー、この子は俺の仲間のルナリスだ」


 レンゾーにルナリスを紹介すると、さっきまでの威勢はどこへ行ったのか舌が上手く回っていない。

 酔いが回ったのかと、心配すると胸倉をグイッと掴まれた。

 汗の臭いが鼻をつく。


「わ、わしは女が苦手なんだ……。しかも、あんな可愛い子……。無理だ、酔いが醒めちまったよ……」


 さっきは今言えって言ってたくせに……。

 空腹で不機嫌なルナリスと、女性が苦手なレンゾーに挟まれて溜息が出る。

 こんな時にも一切酔わない自分の体質を恨めしく思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ