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少女と魔石

 太陽は頭上に昇っていて、間違いなく時間が経っているのがわかる。

 しかし、歩き続けても変わらない景色と、果てしなく続く街道が、時間を隠してしまってないかと疑いたくなった。

 余裕がなくなってしまい、もう随分とルナリスの声を聞いていない。


「大丈夫か? 休憩するか?」


「……」


 黙って首を振り、足を止めない彼女を見て、俺はさらに歩幅を狭めた。

 あの時のルナリスの気持ちを思えば、少しでも頑張らせてあげたかった──。



 魔王城での出来事から古井戸に戻ると、ダンジョンがあったはずの横穴は塞がり跡形もなかった。

 苔むした匂いが、そこには初めから何もなかったんだと語っている気がする。

 ルナリスも魔力の残り香を辿るように鼻を動かすが、寂しげに土壁を撫でていた。


「……これからどうするかな。別のダンジョンを探す、っていうのも正直気乗りしないよな……」


 俺達のダンジョンはララじゃないとダメだ、と子供みたいな拘りが楔のように心に刺さっている。

 ただ、このまま時間だけが過ぎていくのは怖い。

 ルナリスが精霊に飽きられることで、どんな反動があるかなんて、試すわけにはいかない。

 時折、彼女の瞳や首筋、指先から軌跡を描くように魅力の欠片が宙を待っていた。

 それが見えると、まだルナリスは無事なんだと安心できる。

 しゃがみ込んでいじけてしまっている後ろ姿を見て、俺がシャンとさせないといけないと思って声をかけた時──。


「ネモさんッ!これ、見てください!!」


 名残惜しんで土を弄っていたと思ったが、ルナリスはガラスの破片のようなものを拾い上げていた。

 光沢のある黒い石に見えるが、上から差し込む光に当たると、僅かに虹色に輝いて見える。


「これって……。まさか……!」


「はいッ!! これはきっとララの破片ですよ!!」


 爪先は土に染まり、ローブの裾が汚れていた。

 お世辞にも居心地の良い場所ではなかったが、俺達は時間を忘れて辺りを掘り返す。

 結局、かき集められたのは元の大きさの四分の一にも満たない量だったけど。

 それでも、可能性の糸を手繰ることができそうだった。


 この魔石の欠片から、何とかララを元に戻せないかと伝達魔法でソルドに相談してみるが、魔石については詳しくないと一蹴されてしまう。


「魔石のことなら有瘤族や有殻族に聞いてみるのが良いな。少なくとも俺よりはマトモな答えを持っているはずだ」


 ソルドの声色から忙しそうに思えたが、それだけでも教えてもらえたのはありがたい。

 ルナリスとの間に相談はいらなかった。

 彼女は何も言わずに魔法で周辺の地図を描く。


「ここから東の街道をずっーと行けば、工業都市ファルジアがあります。昔から有瘤族が多く住んでいる地域なので、ララを復元する手がかりがあるかもしれません!」


 ファルジアか……。

 中央都市からも遠く、教会の影響が小さい街らしい。

 ファルジア製の武器や防具を買い付けたり、技術を学びたくて住んでいる人間や他種族も多くて共存出来ているとか。


「よし! まずはファルジアを目指すぞ!」


 ルナリスは胸の前で、魔石の破片を固く握りしめていた。

 身を挺して自分を救おうとしてくれた仲間に、声にならない言葉を送るように。

 感謝の思いを熱に込めて、固く握りしめていた。



 ──あれから数日。

 街道を通る馬車といえば、教会のシンボルを掲げるようなものばかり。

 フードを被っていれば、遠目からルナリスが有紋族だなんてことは分からないが、馬車に乗せてもらおうと止める気にはなれない。


「ルナリス、もう少しだ。あの丘の木で休憩しよう」


「……はい。頑張り……ます……」


 踊る為の体力や柔軟性はあるものの、日差しはあまり得意でないらしい。

 こういう時、漁村で育ったことが役に立つなと呑気なことを考えていると、風に乗って何かが焼けたような匂いがした。

 ルナリスも気づいたようで、重くなった足をどうにか動かしている。


「ハァァァ……。よ、ようやく見えましたね……」


 丘の上に上がると、それはハッキリと確認できた。

 煙が雲を捕まえるように立ち昇り、全てを燃やしてきたかのように熱い風が炭の匂いを運んでくる。


 工業都市ファルジアが山にもたれかかるように座っていた。

 ようやく見えた目的地は、心臓の鼓動をさらに早める。


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