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この世は舞台、人はみな役者

 頬を伝う涙が乾きかけた頃、ようやくルナリスと向き合う余裕が生まれた。

 吸い込まれるような赤い瞳から、涙と共に魅力の欠片が空気に溶けていく。


「まだ信じられないです……。私がそんなことになってたなんて……」


 目が覚めたら自分が死にかけていて、それを精霊が助けてくれて、その精霊はこの世界とは別の存在で。

 そんな話を聞かされて、はいそうですかと信じられるやつなんて中々いない。

 ルナリスは自分を守るようにして、辺りを見回していた。


「推してもらえるのはありがたいですが……、何か見返りとか求められませんかね? 寿命が短くなってしまったり……」


 彼女の心配は、実は俺も気になっていた。

 何より優先されるのはルナリスの無事であり、目を覚ましてもらう事だったとはいえ、何の代償もないとも考えにくい。

 異次元の力。それも死を免れるような奇跡が何度も起こっていいはずがなかった。


「それと……、ララは無事ですか?」


「……いや、ララは破壊されてしまったんだ……」


 ルナリスを守る為に最後の力を振り絞ってくれたララは、恐らくジークに粉々に砕かれてしまった。

 朧げな記憶だが、ダンジョンが無くなりただの古井戸になっていたを考えると、無事では済まないだろうな……。


 ルナリスの安否に気を取られていたとはいえ、ララという大事な仲間を失い、俺達の居場所が無くなってしまったことには変わらない。

 特に、ルナリスからすれば自分を責めてしまいかねない状況だ。

 気休めを口にする気にもなれず、部屋に沈黙が染み込んでいった。


「お二人さん、もうお邪魔してもいいかしら?」


 コンコンと扉をノックしながら、カタリナと魔王が部屋に戻ってきた。

 気を遣ってくれたことも含め、今回の件について改めてルナリスと共に頭を下げる。

 ひとしきりの礼をした後、ルナリスは我慢しきれず二人に尋ねた。


「私は……、精霊に何か代償を払わないといけないんでしょうか……?」


 残りの寿命とか、と消えるような声で呟く。

 せっかく助けてくれた命だ。さすがに寿命を奪われるってことは無いにしても、代償がないってことはないだろう。

 魔王は掻き上げるように髪を撫で付けながら、天井を仰ぎ答える。


「精霊は気まぐれだからな。今回のことは、これまでのルナリスを見て来ての加護だ。だから何かを支払う必要はないはずだ」


 ただ……、と魔王が続ける。

 曇った顔が、その厄介さを物語っていた。


「これからが問題だ。推していた者に興味がなくなってしまえば、その反動はあるかもしれないな」


「例えば、一般的な精霊なんかは魔力を貸してくれたり、魔法を使えるようにしてくれるわよね。関係がこじれて飽きられちゃうと前より多めに魔力を奪われちゃったり、魔法に関しての記憶を無くすなんてこともあるわ」


 カタリナが補足してくれたが、一般的な精霊でそれだけの代償だ。

 灰になった魂を復元してもらう、なんて飽きられたら命を落とすに決まってる。


「そんなの……、もう呪いじゃないか!何とか助かる方法はないのか!?」


 唇を噛み締め、恐怖を抑え込んでいたルナリスを見て、いてもたってもいられなくなる。

 助けてもらったのはありがたいが、気まぐれに命を落とすかもしれない、なんて心が壊れるに決まってる。


 その場にいる全員が、考え込むが前例もないことなので確証がない。

 その時、ルナリスがポツリと力無く嘆く。


「私が面白ければ、飽きられませんかね……」


 そうか……。推され続ければいいのか。

 顔を上げた時、魔王も思うところがあったのか目が合い、ニヤリと牙を見せる。


「そうだ、ルナリス。面白ければいいんだ。恐らく、精霊は俺とルナリスを見せ物として楽しんでいる」


「人間と魔族がペアとなり、ダンジョンのボスを勤めた。確かに精霊が興味を持ってもおかしくないな」


 俺と魔王の言葉にカタリナも気付いたようだ。


「なるほどね……。おまけにこんなに可愛らしい女の子だったら、物語のヒロインにはピッタリだわ」


 ルナリスは理解が追いついていないようで、視線が定まらず目を回していた。

 その仕草に、魅力の欠片がキラキラと溢れていた。

 俺の中で、一つの仮説が組み上がる。


 これしかない。

 もう一度、腹に力を込めて魔王に相対した。

 全てを理解していた魔王も、不敵な笑みでそれに応える。


「さっきも言わせてもらったが、改めて『俺はルナリスと共に魔王になる!』精霊を飽きさせず、彼女と一緒に魂の価値を証明してみせる!」


「フハハッ、私を舞台に立たせるとは面白い! 君達の魂の価値は、君達のクライマックスで決まる訳だ。せいぜい楽しませてくれ!」


 ルナリスの手を取り、固く握りしめた。

 戸惑いながらも理解したようで、彼女は両手で俺の手を包む。


「ネモさん、私の為に……ありがとうございます。でも、魔王様を降ろすというのは……」


「あら、いいじゃない。それぐらいしてもらった方が私達も面白いわ」


 私達を楽しませなきゃ、精霊だって飽きちゃうわよ、とカタリナが囃し立てる。


 そうだ。奇跡はもう起こってるんだ。

 ルナリスと出会い、ボスになり、困難を越えてきた。

 十分過ぎるほど、舞台は整ってるじゃないか。

 じっとりと汗をかいているルナリスの手をもう一度握り返し、その赤い瞳に誓う。


「大丈夫だ。俺はルナリスがいれば何にでもなれる。ダンジョンのボスにだってなれた。魔王にだってなれる!」


 これは呪いなんかじゃない。

 ただのキッカケでしかない。

 決めたのは俺だ。選んだのはこの道だ。


「見せてやろう、俺たちの物語を!この世界を舞台に!」



 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

 精霊である皆様の加護(評価や感想など)がネモやルナリスの力となりますので、引き続き応援をよろしくお願いいたします。

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