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あなたのお陰で

「『俺が魔王になる』……か。私を討とうとした勇者はいたが、魔王になろうとする人間は初めてだ」


 着いてこい、と言い広間を出る魔王の後を追うと廊下にカタリナが立っていた。

 魔王と何かを話した後、同行しながら肩を叩かれる。


「あなた、やっぱり面白いわね。魔王にあんな風に立ち向かうなんて」


 聞こえていたのか。魔王への忠誠心が高い者がいたら危なかったかもな……。

 カタリナはクスクスと笑ったが、それぐらいで済むならマシだ。

 ふと、何かに気づいたように彼女の動きが止まる。


「あら? あなた、さっきより魔力が増えてない?」


 全く自覚がない。というか、魔王と話をしただけで魔力が増えるなんて、そんな楽なことがあるわけがない。


「それについては後で説明をしよう。まずはルナリスだ」


 壁一面に薬草や魔術書が並ぶ部屋に、ルナリスは横たわっていた。

 鼻を突くような薬品の匂いが立ち込めるが、身体の痛みが引いていく気がする。


 ベッドに眠るルナリスは、今にも寝返りをうちそうな穏やかな顔をしていた。

 ただ、側によると違和感を覚える。

 彼女は、一切息をしていなかった。


「ふむ、何度見ても異様だな……。ネモ、彼女の違和感に気付けるか?」


 彼女にそっと手をかざし終えると、魔王は試すように促した。

 ルナリスであれば、魔力の変化などを鼻で嗅ぎ分けられるだろうが、俺にそんなことは……。

 近づくと、彼女の銀髪に何か砂粒のようなものがついていた。

 指先で摘むと、僅かに輝いている。


「それは彼女の『魅力の欠片』だ。やはり、君にも見えるか……」


 カタリナも合点がいったようだが、俺だけ話についていけない。

 魅力の欠片? 

 魅力がどこかから溢れているとでも言うのか?


「精霊っていうのは推すか推されるかで力を貸してくれるっていうのは知ってる? これが推されてる証拠よ」


 カタリナもそれを摘み、指で擦る。

 キラキラと舞うその輝きは、見惚れてしまうが、少し恐ろしくも見えた。


「……これ、魂の欠片ってことはないよな?」


 縁起でもないことを言ってしまうが、カタリナが明るく笑い飛ばしてくれる。


「そんな趣味の悪いことしないわ。魅力って人を惑わすことも出来るからね。美しさとは違うのよ」


「魅力は本来目で見えるものではない。しかし、ルナリスは特殊な精霊に推されたことで、魂が復元され、こうして魅力が顕在化している」


 そうだ。さっき魔王もこの世界ではない何かって……


「何なんだ……? その、ルナリスを推してるっていうのは……」


 魔王とカタリナは、残念そうに首を振った。

 全てを知っていると思ったが、この二人でさえ未知のものがあるなんて。

 途端に、ルナリスについている魅力の欠片が不気味なものに思えてきた。


「……ネモは異世界ってあると思う?」


 突然のカタリナの質問に、言葉を失う。

 ただ、彼女は冗談のつもりではないらしい。


「精霊ってね、ネモの思っている以上に大勢いるのよ。木や水、自然のものが代表的だけど、それはこの星だけに留まらないの」


「星どころか、ここではない全く別の世界にも無数の精霊はいる。中には魔力や魔法が存在しない世界もあるらしい。まるで想像もつかないが」


 魔王とカタリナの話はスケールが大きく、全てを理解しろと言われても感情が追いついてこなかった。

 魔法の無い世界。

 一体どんな生活なのか。

 そこは種族の壁はなく人間だけなんだろうか。

 どこか寂しく、だけど素敵にも感じられた。


「ルナリスがその精霊に推されて、そのお陰で助かったっていうのはわかったが、ルナリスは生まれが特殊だったのか?」


「たぶん違うわ。面接の時に魅力は今みたいに見えていなかったから。……ネモにもね」


「……俺にも?」


 カタリナが俺の肩に手を伸ばす。

 宙を掬うようにして、指先をそっと見せてくれた。

 どこか温かい光が、そこにはあった。

 ルナリスに比べてると、ずいぶん小さいがうっすらと淡く光るそれは、確かにあった。


「魔力が増えたのもそのお陰だ。それは先程『魔王になる』と啖呵を切ってから見え始めたぞ」


 それって……、俺も推されてるってことか?

 しかも、魔王に宣言をしたら推され始めたってことは……。

 今まさにこの瞬間にも──。

 周囲を見回すが、薬草や魔術書の類と、俺を含めて三人しかいない。


「これは推測だが、精霊がネモとルナリスを観測したのだろう。その言動か、信念に惹かれて推し、力を貸した」


 それが、ルナリスを死なせたくないという想いが、奇跡を起こしたのだ。

 魔王の言葉に、胸が熱くなる。

 遠い世界の何かが、ルナリスを守ってくれた。

 それだけで俺は……、俺は……。


「ネモ、涙はまだ取っておけ。どうせ枯らすなら、彼女の為に流すべきだ」


 じゃあ私達はこの辺で、とカタリナが手を振りながら魔王と部屋を出ていく。

 呆気に取られていると、何か気配を感じた。

 それは、猫のように身体を伸ばし、銀色の髪を揺らす。


「……あれ?私……、確か炎の中にいて……。ネモさん? なんで泣いてるんですか?」


 何に感謝をすればいいのか、わからなかった。

 ただ、全てに。言葉にできない感謝をしたい。

 ルナリスを救ってくれた存在は、遠すぎて俺には触れられないのかもしれない。

 こうしている今も、この涙も叫びも見ているのであれば伝えたい。


 ありがとう。

 ルナリスのことを想ってくれて。

 本当にありがとう。


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