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特別な者

 どこかの川でルナリスと釣りをしていた。

 俺はルナリスに何かをプレゼントし、それを喜んでくれている。

 川の向こうに行ったルナリスが何かを言っていた。

 よく聞こえないから俺も向こう岸に──。


「ネモッ! しっかりしろ!」


 ソルドに名前を呼ばれて目が覚める。

 身体の痛みと重さで、何があったのかを思い出した。

 今の光景が夢だと気付き、胸の中がぐちゃぐちゃに掻き乱される。


「大丈夫か!? 突然お前達のダンジョンから魔王城に緊急連絡が入ってな。何があったんだ」


 俺は記憶をたぐる様に、頭の中を整理するように説明をした。

 ジークのこと、ララのこと、そしてルナリスのことを。

 言葉にすると、それが夢じゃないことを頭が理解する。

 目尻から溢れる涙を、ソルドは黙って見ていてくれた。


「あら、気が付いたみたいね。身体の調子はどう?」


 ソルドへの報告が終わった頃、カタリナの声が聞こえてくる。

 怪我の治療をしてくれたのはカタリナだったようで、礼を言うがそれを遮られた。


「話せるようなら教えてほしいんだけど、彼女……ルナリスに何があったの? あんなの見たこと無いわ」


「ル、ルナリスは無事なんですか!?」


 カタリナの声色に悲壮感がなく、ララの最後の言葉を思い出し、希望に縋ってしまう。

 彼女が無事でいてくれたら……俺は……。


「詳しいことは魔王から聞いてちょうだい。彼ももうすぐ目を覚ますから」


 ソルドから要約した説明を受けたカタリナは、ふぅんと感心した声をあげると俺の目を覗き込んできた。

 包帯を巻かれた顔からは、何を考えているかがわからず良い気分ではない。


「な、何かありましたか……?」


「あなたの話を聞くにルナリスの魂を繋ぎ止めたのはダンジョンの魔石だったみたいだけど、灰になった魂を一欠片も失わずに留めるなんて出来ることじゃないわ」


 やはりララがルナリスを守ってくれたみたいだ。

 しかし、カタリナはどこか納得がいっていない。


「ルナリスの目の奥に、不思議な輝きが見えたの。……面接で初めて会ったときには、そんなもの感じなかったのに。

ネモ、あなたの目にも……薄らと、それが見える」


 彼女の質問の意図が読めず、聞かれたことに覚えもない。

 何かが俺やルナリスに起こっているのか?


 身体を休めていると再びソルドが声をかけてくれた。

 魔王様が目を覚まされたから話をしに行け、と。


「魔王に呼ばれるって……、何されるんですか?」


「ルナリスのことで話があるそうだ。心配しなくても、あの方は優しく聡明な方だ。聞かれたことに答えればいい」


 肩を貸してくれるソルドは、どこか自分のことのように誇らしそうに見えた。

 魔王を信奉しているからなのか、宝物を見せようとする子供のようにも感じる。


「それにしても……無事で良かったな。ダンジョンのことは残念だったが、お前が無事で良かったよ」


「……ソルドさんって人間が嫌いなんじゃないですか?」


 突然の言葉に驚いてしまい、不躾な反応をしてしまった。

 しかし、彼は豪快に笑い、その大きな手で俺の背中を叩く。


「嫌いさ。嫌いだけど、顔と名前を知っているやつは特別だ。そんな単純に割り切れるもんじゃない」


 付き添ってくれたソルドは、これまでの堅苦しさを感じさせず、どこか親しみがあった。

 俺も、その気持ちを理解できる。

 冒険者だった頃、魔族は倒すべき相手だと疑わなかった。

 村々を襲い、人を傷つけ、世界を支配しようとする存在だと教えられていたから。

 しかし、ルナリスに出会ってから、世界はそんなに単純なものではないと感じる。

 ソルドの言葉に、俺は一粒の希望が見えた気がした。


「この扉の向こうに魔王様がいらっしゃる。……くれぐれも粗相のないようにな」


 重く、厚い扉が開かれる。

 部屋から流れ出る空気が冷たく、まるで違う世界に足を踏み入れるような。

 広間には玉座が一つ。

 黒く撫でつけられた髪。黒いマントに黒い服。

 窓から差し込む月光が、魔王の白い肌を照らしていた。

 それは、夜そのものがそこに座っているように見える。


「君がネモか。私はノスフェリウス。この城の主だ」


 不敵に笑う魔王の口から牙が溢れた。

 人間の敵、冒険者の最後のボスと出会ってしまった。


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