俺は炎に赦された
ララの監視魔法で映し出された侵入者は一人だった。
その白い鎧は、冒険者だった時に嫌というほど見ている。
イグナシア教会に認められた聖騎士団の鎧。
冒険者として高い実績を残すと、教会からスカウトをされるなんて噂話を聞いたことがあった。
「ルナリス……、無理はするな。あいつは今までの敵とは違う」
槍を握りしめる手が、柔らかく包まれる。
そっと、触れた手の温かさが彼女の魂に触れた気がした。
「ネモさんも熱くなりすぎちゃダメですよ」
ルナリスの手が離れた時、胸が締め付けられる。
前を行く彼女の背中が、俺を置いていくように思えた。
ダンジョン内の温度が、いつもより高くなっていく。
その原因は、今まさに金色の炎がダンジョン内の壁や床を燃やしていたからだ。
突然の侵入者は惜しげもなく魔力を放出し、まるで全てを作り変えようとしていた。
白い鎧が、熱で揺らめいて見える。
「酒場の噂は本当だったんですね。人間のボスがいるって聞いた時は耳を疑いましたよ」
俺と大して年齢の変わらなそうな青年だった。
女性に不自由しなそうな端正な顔立ちをしているが、嫉妬の感情は湧いてこない。
それよりも、こいつはイカれていると恐怖が震えとなって身体を支配していた。
「申し遅れました。私の名前はジーク。イグナシア教会の神官を務めながら冒険者をしています」
ジークは俺の叫びに耳を貸すことはしなかった。
聞く気がないのか、言葉が届いていないのかもわからない。
独演会のように、一方的に話し続けていた。
「今日はゆっくり聖書を読むつもりだったのですが、司祭に呼ばれてしまって……。でも、この出会いも神のお導きなのかもしれませんね」
澄み切った瞳は、俺を捉えているがどこか遠くを見ているようだった。
そして、その間もまるで稽古をつけるかのように俺の槍を捌き続ける。
「人は間違うものです。不死鳥イグナシアにも終わりもあります。しかし、金色の炎の中で再生し甦るのです。だから、人は赦されやり直せます」
額から流れた汗が、顎を伝った。
間合いが長い分、槍は剣と戦う際には有利とされている。
しかし、そんな理屈はお構いなしにジークの刃が一方的に斬りつけた。
残酷な現実が、俺の足を止めさせる。
「ネモさん! 一度引きましょう!」
ルナリスの声に意識が向いた。
その瞬間、ようやくジークは口を閉じる。
まるで、悪魔を見るかのように。
瞳を照らす金色は、自分を正義だと疑っていなかった。
「あの有紋族が、あなたを誘うのですか?」
ジークは質問をしただけだった。
しかし、その一言で何を考えているかがわかる。
「違う、彼女は関係ない! 俺は……、俺は自分の意志でここのボスになったんだ!」
ジークの剣が鞘に納められた。
代わりに鎧の襟首から、ペンダントを見せる。
円の中に十字が走るイグナシア教会を表す形をしていた。
「これは太陽を背負う不死鳥を表しています。人間は太陽の下で、祈り、育まれ、生きていくのです。しかし、彼らは違う……。こんなダンジョンで、日の当たらない暗闇で生きている……」
ジークは俺を諭すように話し始めたが、どこか上の空だった。
まるで、自分自身を教え導こうとしているようにも見える。
「夜の民なんて……、いてはいけないんだ……」
ジークが剣を抜いた時、鞘から光輝く金色の光が放たれた。
視界が白に染まる。
全てを塗りつぶすように。
「ルナリス! 逃げろ!」
「罪人は赦される。だが、悪魔は燃やし尽くす」
轟音がダンジョン内に響き、空気を揺らした。
ジークから放たれた金色の炎は、俺の髪一つも燃やすことはなかった。
それは、初めから彼女だけを狙っていたかのように──。
轟音の中からルナリスの声が聞こえた。
「ルナリスッ!!」
彼女の長い銀髪も、靡くヴェールも焼かれてはいない。
だが、言葉にならない悲鳴が搾り出されていた。
まるで、彼女の魂だけを燃やすように。




