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異説大東亜戦争  作者: たこ焼き
二章
78/80

第二部    暗雲

第二部です。


          第二部   暗雲






「そうか、分かった。」

一九四四年五月十一日。

大日本帝国海軍軍令部総長山本五十六大将は電話を切ると深いため息をついた。

「どうかされましたか。」

軍令部次長である伊藤整一中将はため息をつく山本に心配そうに尋ねた。

「フィリピン大統領からの要請だ。航空艦隊を派遣してくれだと。」

「はあ、しかし独立国というものは普通、外国軍の駐留を嫌がるものですが…。」

「仕方あるまい、

最近のフィリピンに対する米国の圧力はかなり強まってきているようだからな。」

「とは言っても、そんな事をすれば米国から間違いなく苦情が来るでしょう。」

「それどころか、また戦になりかねん。」

「それは…未だ欧州での戦争は終わっておりません。

流石に今米国がフィリピンに手を出すとは考えにくいと思いますが。」

「だが、報告によると、

ハワイ、サイパン島の軍港に艦隊が寄港する回数も増えているようだ。」

山本の言葉に伊藤は沈黙する。

「もう戦争が終結して一年が経つ。米太平洋艦隊は完全に再建しているのだろうな。」

「ええ、講和後、新たに就役した正規空母は十隻を数えると聞きます。」

「それに対して、こちらは雲龍級が二隻か…。」

戦時急造艦として作られた雲龍型航空母艦は半年前に二隻が就役している。

艦名は一番艦が「雲龍」二番艦が「天城」である。

スペックは

排水量二万八千トン

全長二百三十五メートル

全幅二十三メートル

機関十八万馬力

速度三十五ノット

兵装

十二、七センチ連装高角砲六基

三十ミリ連装機銃四十二基八十四丁

搭載機数七十二機である。

史実より排水量が大きいのはジェット機運用も視野に入れているためであり、

最初のジェット艦上戦闘機である震電は今年の九月には就役する見通しとなっている。

「ええ、しかしあと三か月もすればあれも完成するはずです。」

「まあな。………フィリピンの事だが、確か台湾に第三航空艦隊が寄港していたな。」

「ええ。」

「あれをマニラに親善訪問と艦船の修理という名目で入港させると言うのはどうかな。」

「まあ、それならアメリカもそこまで口を出しては来ないとは思いますが…。」

「ようやく、大東亜共栄圏が安定期に入ろうとしているのだ。

ここで日本が毅然とした態度を取らなければ、各国が動揺しかねん。」

そう言うと山本はゆっくりと瞑目した。





「全く頭に来る。」

米大統領、ハリー・トルーマンは国務長官であるハルに苦々しい顔で呟いた。

「どうされましたか、大統領。」

「一年前の講和は間違いだったかもしれん。」

「そんなことはありませんよ、大統領。

欧州の戦線で一度失敗したオーバーロード作戦が再び行い成功できたのは、

日本と講和し、太平洋の戦力を大西洋に派遣できたからです。」

日本との講和からおよそ二カ月後の一九四三年五月二十四日、

兵員数二百二十万。

艦船六百二十二隻。

航空機四千二百機という大戦力によってフランス上陸作戦が行われた。

この作戦は独逸軍の欧州とアフリカの輸送ルートを潰す目的も取られていたのだが、

多数のU-ボート、そして、独伊連合艦隊による奇襲を受け、

上陸以前にも関わらず十五パーセント以上の被害を出してしまった。

それでも必死の思いで上陸した米英軍の前に待っていたのは、

分厚いトーチカの壁、そこに並ぶ戦車、空を覆い尽くす四千の独逸航空機、

そしてロンメル元帥が率いる百二十万の独逸軍だった。

その圧倒的な力の前に米英軍は陣地もまともに作れず、

被害人員五十万という大損害を受け、撤退した。

しかし、これほどの大損害を受けても米英軍は諦めなかった。

第一次オーバーロード作戦から半年後の一九四三年十二月二日。

前作戦すら上回る、

兵員数三百三十万。

艦船九百隻。

航空機七千機という未曾有の戦力が再びフランスに上陸した。

独逸軍もアフリカ戦線から兵を引き抜き、強化してはいたが、

圧倒的な物量の前に、ついに海岸に展開していた独逸軍は撤退した。

足掛かりを得た米英軍はまずはアフリカにいる独逸軍を駆逐。

現在はフランスの首都パリに陣地を敷いた独逸軍とにらみ合いの形で戦線は膠着していた。

「それはそうだが、国民の不満は相当なものだ。

講和しろと言われて講和したら今度は、講和は間違いだとはな…、

国民と言うものは目先の事しか頭にないようだな。

国内での日本人排斥の動きも盛んに行われていると聞いたよ。」

米国ら連合国が欧州で戦っていると言うのに、

アジア諸国は経済繁栄を謳歌している。

それが米国の国民は気に入らないらしい。

一昔前まではほとんどの国民が日本などという東洋の島国の事は知らなかったのだが。

まあ本音は米国が日本に屈した言う事が心理的に気に入らないのだろう。

「もうすぐ行われる大統領選の事を気にしているのですか。

あなたは世界の救い主です。大丈夫ですよ。」

「どうかな、国民の中には疫病神という者もいるそうじゃないか。

おまけにあの男だ。」

「…マッカーサーですか、

私も彼を大統領選に担ぎ出そうとするものがいるとは聞いていますが、

あの男はフィリピンで尻尾を巻いて逃げた男ですよ。

オーバーロード作戦の立役者である、アイク…アイゼンハワーなら別かもしれませんが。」

「国民は悲運のヒーローが大好きなのだよ。

圧倒的な大軍の前にバターンで追い落とされた悲運の将軍…完璧じゃないか。

彼が大統領選に立つときの標語が私には目に見えるようだよ、分かるかね。」

「………アイ・シャル・リターン。」

「その通りだ、まったく最高のキャッチフレーズだ。もしかすると彼は勝つかもしれん。」

トルーマンはため息をつくと、

第二次オーバーロード作戦成功の時にチャーチルからもらった葉巻に火を付けた。

「大統領。」

ハル国務長官は、トルーマンに呼びかけ、口を開いた。

「いい考えがあるのですが。」

「何かな。」

「マッカーサーにやらしてみてはいかがでしょう。」

「どういう事だ。」

「彼は臆病者かもしれませんが戦争好き、そしてフィリピンに帰りたがっています。

艦隊を付けて………やらしてみるのです。」

「君は日本とまた戦争しようと言うのか、まだ欧州の戦争も終わっていないのに。」

「上陸作戦が成功した今、欧州の戦線に大型艦は不要です。

もう日本との講和の目的は達成しました。

それにフィリピンは、もともとは米国の保護国です。

これはあくまでもフィリピンと米国の問題と言う事で。」

「馬鹿な、日本が放っておくものか。」

「それはそれです、マッカーサーが日本に喧嘩を仕掛けて戦った。

これで国民の不満も解消されます。」

「それではマッカーサーにますます人気が集まるではないか。」

「彼は戦争好きですよ。戦争を始めたら大統領選には見向きもしないでしょう。」

「しかし、ただでさえ大勢の国民が死んでいるのだ。」

「仕方ありません、それを望んでいるのは国民です。」

「………。」

トルーマンは沈黙すると再び新しい葉巻に火を付ける。

「政治家とは辛いものだ。」

「ええ。」

しばらく沈黙が続いた後、トルーマンは首席秘書官を呼んだ。

「マッカーサーはどこにいるのかな。」

「マイアミです。」

「すぐ、呼んでくれたまえ、いい話があるとな。」





フロリダ半島の南端セーブル岬。

ここにはマッカーサーの別荘がある。

彼はそこで釣りに興じていた。

いかにものんびりしているように見えるが、

彼はアーカンソーの選挙事前運動の結果を待っていた。

生まれ故郷であるアーカンソーでのマッカーサーの人気は高いが、

次期大統領を目指すにはまずは足固めから始めようという考えである。

そんな彼の前にエンジン音の爆音が聞こえてきた。

それは次第に近づいて来る。

彼の前方に着水した水上機はプロペラを回しながらゆっくりと接近した来る。

「魚が逃げる。」

マッカーサーは缶ビールをぐいっと呷るとぼそりと毒づいた。

操縦席の扉が開き、フロートに将校が降りた。

見事な敬礼を行うと、将校は口を開いた。

「マッカーサー閣下ですね。」

「そうだ。」

「国務省のフラン・オロール大佐です。」

「大統領がお待ちかねです。このままおいでくださいますか。」

「勝手な事を言うな。」

マッカーサーに付き従っていた軍曹がいきり立つ。

「よせ、いいんだ。家内にワシントンに行くと伝えてくれ。」

マッカーサーはひょいとフロートに飛び乗った。

水上機は水面を滑り始めると、ふわりと浮き上がって雲の彼方へと消えていった。




説明不足なところもあるかもしれませんが、後々説明していけたらと思います。

ご意見ご感想ありましたら、遠慮なくどうぞ^^

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