終戦
駆け足ながら第一部、終了です。
終戦
「少将閣下、弾薬、食料、医薬品共に底を尽きかけています。
ここまで来たら突撃による名誉ある散華を。」
顔を真っ赤に力説する参謀をじろりと眺めてから、
ハワイ駐屯軍司令、林少将は口を開いた。
「貴様は秋山大将閣下の言葉を忘れたのか。
第一機動部隊が来るまではここは石に噛り付いても死守する。」
「しかし…。」」
「…もう少し待て。」
「待てません。もう部下達も限界です。」
やつれ切った表情で座り込んでいる部下達を見ながら参謀は涙声で訴える。
たった一週間足らずの戦闘ながら
ほぼ十倍差の敵との戦いは、将兵を確実に疲弊させていた。
当初、三千いた兵士は半数以下にまでその数を減らしている。
なれない密林でのゲリラ戦もその要因の一つだろう。
「…待て。」
「少将閣下。」
参謀が林少将に詰め寄った、まさにその時だった。
航空機のエンジン音が密林に轟き渡る。
「くそ、きやがった。」
将兵たちは悪態をつくと密林の木々の影に身を潜めた。
音はどんどん大きくなってくる。将兵たちの間に絶望が拡がりかけた。
しかし見張り員の双眼鏡に映ったのは……燦然と輝く日の丸だった。
「敵機ではありません。味方機です。」
見張り員の怒声のような歓声に将兵たちは顔を見合わせた。
ようやく救援に来てくれたのだ。
一瞬の沈黙の後、かすれながらも割れるような歓声が密林に響き渡る。
すると三機編隊の内の一機がこちらに近づいてくると、
白いものを落として飛び去って行った。
部下が拾い上げ、林少将のもとへと持っていく。どうやら通信筒のようだ。
「言っただろう、待てとな。」
林少将は参謀に向かってそう言うと、通信筒を開いた。
一読すると、にやりと笑みを浮かべ、参謀に手渡す。
「見てみろ。」
「は。」
林少将から受け取った書類を眼にしたとたん、参謀は驚嘆の表情を浮かべる。
「少将閣下、これは……。」
「そう言う事だ、戦の終わりだよ。」
そこに書かれていたのは、
第三機動部隊による、米空母群撃破により、米太平洋艦隊が撤退した事。
それにより、日本本土に米大統領による和睦を求める電報が届けられた事。
そして、日本側がそれを了承したこと。
これにより、ハワイにいる日米両軍は一時停戦との事であった。
「長官、ついにやりましたな。」
呉連合艦隊司令部で、連合艦隊参謀長宇垣纏少将は、
黄金仮面と渾名される者とは思えないほど満面の笑みを見せた。
「ああ、これで一息つけそうだ。あとは外務省に任せるとしよう。」
連合艦隊司令長官山本五十六大将はそう言うと煙草に火を付けた。
これから外務省は地獄のような忙しさになるのだろう。
「和議交渉はどこで行うのかね。」
「くわしくは知らされておりませんが、おそらくハワイでしょう。」
「そうか、まあそうだろうな。」
ゆっくりと紫煙を吐き出しながら、
山本は真珠湾奇襲直後の時の事を思い出していた。
あの時、武蔵で吸った煙草の味は忘れる事が出来ない。
山本はもう一度紫煙を吸い込み、そして吐き出す。
「この煙草の味も一生忘れることは無いだろうな。」
「何がですか。」
「いや、何でもないよ。」
山本はそう呟くと、苦笑した。
第二次ミッドウェー海戦からおよそ三週間後。
一九四三年三月一四日。
重光外相を団長とする全権団、
つまり講和使節団は霞ケ浦から二式大艇に搭乗、
ハワイに到着した。
この三週間の間に和議交渉は内々に進められている。
米国側の代表は体調不良の米大統領に代わり、
コーデル・ハル国務長官が務めた。
ワイキキビーチを見渡すホテルで行われた、
講和内容は以下のようなものである。
日本は一九四三年五月までにハワイから撤兵する。
日本は一九四三年六月までに、
ミッドウェー島、マリアナ諸島、ソロモン諸島、マーシャル諸島、サモア諸島及び、
アリューシャン諸島から撤兵する。
日米両国はフィリピン、ビルマ、ベトナム、インドネシア、インドの独立を認め、
その軍事にも人事にも介入しない。
米国は満州国の独立を認める。
米国は本国で抑留中の日系人を釈放する。
日米両国の大使館、公使館を復活させる。
そして、日米通商航海条約の復活。
日米講和に参加していたオランダ、フランスは植民地の返還を求めたが、
英国に続き、米国までもが、日本と講和する今、
日本に対抗する事はできないとして、仕方なしに独立を承認した。
講和締結後、米国ではルーズベルト大統領が辞職し、
臨時大統領として、副大統領ハリー・トルーマンが昇格した。
日本では一九四三年四月に戦時体制が終了。
それと同時に米内内閣総理大臣が政党政治の復活を宣言、内閣を総辞職した。
腐敗した政党政治を見てきた国民は猛反対するかと思われたが、
戦時体制に疲れていた国民は意外とすんなりとこれを承認。
ただし、政党政治体制に移行するのは一九四四年に行われる総選挙の後と決まり、
とりあえずは、天皇の信頼の厚い、鈴木貫太郎が臨時内閣総理大臣として就任した。
そして、これからおよそ一年間、とある事件が起きるまでは、
日本は平和に浸ることを許されたのである。
まずは読んでくださっている皆様にお礼が言いたいです。
こんな駄文を読んでくださって本当にありがとうございます。
これで第一部は終了ですが、
第二部の一話目はもうできてるので、すぐに出します。
今後ともよろしくお願いします。
頑張るぞー。