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異説大東亜戦争  作者: たこ焼き
一章
73/80

夜間雷撃

            夜間雷撃





「隊長、起きてください。」

第六航空戦隊「大鳳」第一分隊隊長、工藤大尉は、

部下の山下少尉の声で目を覚ました。

「どうした、まだ寝て一時間も経ってないぞ。」

寝起きが悪い工藤は眼を擦りながら不機嫌そうな声で呟く。

「大体、総員起こしのラッパも鳴って無いぞ。」

「緊急なんです、敵機ですよ、数はおよそ二百です。」

山下の緊迫した声に工藤は飛び起きる。

眼は完全に覚めていた。

「早くそれを言え、急ぐぞ。」

あっという間に飛行服を着た工藤は格納庫へ急ぐ。

素早く自分の愛機を見つけると風防を開け、乗り込んだ。

いつもは整備員と共に機体の確認をするが、今はそんな暇は無い。

整備員の腕を信じるしかなかった。





一方、敵機来襲の報告を電信員から受け一時騒然としていた、

第三機動部隊旗艦「大鳳」の艦橋は落ち着きを取り戻していた。

一時撤退すべきという案もあったが、

ここで撤退しては味方の士気にかかわるとして対空戦闘準備にはいることとなった。

「しかし、夜間空襲とは敵もやりますな。」

「米航空部隊の錬度も上がっているということだ。油断はするなよ。」

第三機動部隊司令長官角田中将はそう言うと腕を組んだ。

「しかし妙だ。」

「何がです。」

「奇襲は寡兵がするものだ。

第一機動部隊を警戒していると考えても、少しおかしいと思ってな。」

「まあ、アメさんも負けてばかりですからな、

奇をてらってみたくなったのではないでしょうか。」

「そうかな。」

角田は、いささか納得のいかない表情をすると甲板に並ぶ烈風を見つめた。

電探搭載の烈風改はまだ就役していないため、

彼らは月明かりだけを頼りに戦うことになるだろう。

「彗星も出してはいかがでしょうか。

彗星なら電探を搭載していますし、敵雷爆機となら十分やり合えます。」

艦橋にいた飛行長が角田に提案する。

「よろしい、伝えてくれたまえ。」

角田もそれを承諾する。

彗星の対空戦闘能力は爆撃機ながら優秀だ。

最高時速は五百キロメートルを超える。

敵雷爆機相手なら十分活躍してくれるだろう。





「レーダーに敵機確認、戦闘機隊は前に出ろ。」

夜間雷撃隊隊長ヘンリー少佐はそう言うと高度を下げた。

手にはじんわりと汗が滲んでいる。

恐怖からか高揚感からなのかはヘンリー自身にも分からなかった。

護衛戦闘機隊は逆に高度を上げていく。

護衛戦闘機部隊の指揮官は歴戦のカイム少佐であり、

その部下達も精鋭ぞろいだ。

編隊を保ったまま上昇していく。

ヘンリーはスロットルを押し上げると無線を再び手に取った。

「なんとしても敵空母を沈めるのだ。猛訓練に耐えてきた諸君たちならやれるはずだ。」

無線からは歓声が聞こえてくる。

その声がヘンリーにはとても頼もしかった。





第三機動部隊直掩隊八十六機は敵機を視認すると、

敵雷撃機の編隊に逆落としに突っ込んで行った。

その上空から米戦闘機部隊が覆いかぶさるように突っ込んでくる。

たちまちめまぐるしい航空戦が始まった。

多数の機体が煙を噴き上げ、暗い海に散華していく。

「アメさんの腕も上がってきたな。」

第六航空戦隊「大鳳」第一分隊隊長、工藤大尉はそう呟きながら、

後方に着いたアブから逃れるため、フットバーを小刻みに蹴りつける。

しかし、敵のF6Fは必死に食らいついて離れない。

流石に夜間攻撃を仕掛けてくるだけのことはある。いい腕だ。

「ちっ。」

工藤は舌打ちをすると横転と機首上げを同時に行いながら、

螺旋を描くように飛行し速度を下げる。

空中戦闘機動で言う、バレルロールである。

本来なら敵機の背後を取る為に使われる機動だが、

工藤の目的は機体の速度を減速させることだった。

工藤の機体が減速したのを見て取ったF6Fのパイロットが

烈風の後方に取りつき、機銃ボタンに指を伸ばそうとしたその時だった。

工藤は機体を垂直に上昇させると真横に失速反転し、たちまちF6Fの後方に着いた。

パイロットの驚愕した顔が目に浮かぶようだ。

ストールターン、一か八かの時に行う大技である。

工藤の機銃ボタンに指を伸ばすと一瞬だけそれを押し込んだ。

軽い衝撃と共に烈風から十二,七ミリ弾が撃ち込まれ、F6Fは煙を上げる。

それを見た工藤は撃墜を確認することも無く、再び航空戦に戻った。

第三機動部隊直掩隊の目的は敵雷撃機の撃滅で、

敵戦闘機部隊を壊滅させることではない。

第六航空戦隊随一の搭乗員はそれを十分理解していた。






「射点を確保した。これより攻撃に移る。」

夜間雷撃隊隊長ヘンリー少佐はやっと敵直掩隊の壁から抜け出すと

無線を取り、部下達に連絡した。

月明かりに浮かぶジャップの艦隊は空母を中心として、

戦艦、重巡、駆逐艦がそれを取り囲むように護衛している。

暗い海のなかに浮かぶ水しぶきが白く光っている。

距離はおよそ千二百。

普段の米雷撃隊なら投下してもおかしくない距離だ。

だが、ヘンリー少佐はもっと艦隊に近づく腹積もりだった。

この距離から魚雷を投下しても空母にまでは届かないと踏んだからだ。

しかし、敵艦隊もヘンリー以下十二機のアベンジャーに気付いているらしく、

戦艦を中心に濃密な対空砲火を撃ち出している。

六百メートルという近距離まで近づいた頃には、

対空砲火を浴び、三機のアベンジャーが撃ち落とされていた。

ヘンリーは唇を噛み締めながら前方の空母を睨みつける。

やや小型なのが不満と言えば不満だが空母であることには変わりない。

「魚雷、投下。」

ヘンリーの怒声と共に海に滑り込んだ九本の雷跡が空母に向かって突き進む。

狙われた空母は第二航空戦隊の「蒼龍」だった。

「取り舵。」

蒼龍艦長の柳本大佐も怒声を上げる。

航海長が必死に舵輪を回し、蒼龍は回頭を始める

艦橋にいる全員の眼が魚雷の航跡にくぎつけになっていた。

蒼龍は魚雷の針路に平行に運動しつつある。

どうにか成功したかと思われたその時だった。

凄まじい衝撃音と共に水柱が立った。

続けてもう一発魚雷が命中し、缶室が浸水を始める。

その光景を見ていたヘンリーは、

母艦「エセックス」に無線を入れた。

「こちら、夜間雷撃隊隊長、ヘンリー。

敵空母一隻大破。聞こえたか、敵空母一隻大破だ。」





空母群司令官サミュエル中将は入ってきた報告に歓喜の声を上げた。

ヘンリーの報告の後、しばらくして別の部隊からも、

敵空母に魚雷を命中させたとの報告があった。

敵に与えた被害としてはたいしたことは無いのかもしれないが、

艦橋は久々の勝利の喝采に包まれている。

攻撃隊の被害はF6F二十五機、アベンジャー五十二機と相当なものだが、

優秀な敵直掩機と対空砲火を浴びたのだから仕方がないと言えた。

「これで、敵空母二隻は使用不能にしたわけだ。

残りは四隻、翌朝に叩き潰すとしよう。」

「しかし、司令、敵艦隊が夜間空襲を仕掛けてくる可能性があります。

もう一度攻撃隊を出すべきでは。」

「いや、被害が予想以上に多い。

これ以上優秀なパイロットに被害を出すわけにはいかん。

まだジャップには空母が控えているんだからな。」

しぶしぶと黙り込んだ副官を尻目にサミュエルは笑みを浮かべる。

「長官にも連絡しておけ。

最初の海戦は我々の勝利だとな。」





一方、空母「蒼龍」「隼鷹」の二隻が被害を受けた第三機動部隊では

残りの空母「大鳳」「海鳳」「飛龍」「大鷹」から偵察機十二機を発艦させていた。

蒼龍は缶室をやられ最高速度が二十ノットに落ちた。

隼鷹は当たり所が良かったらしく目立った被害は無い。

幸いなのは両艦とも飛行甲板が無事なため、

航空機の損失が最低限に抑えられたことだろう。

日本海軍側の損失は烈風十九機、彗星十機である。

「どうされるのです、長官。」

発艦していく彩雲を眺めていた角田中将に青山参謀が話しかける。

「まずは策敵だ。少し気になることがある。」

「奇襲ですか。」

「ああ、もしかしたら敵の艦載機数は我々と大差ないのかもしれん。

あくまで私の予想に過ぎないがな。」

「もしそうだとすれば…。」

「ああ、小沢さんを待たずに攻撃をかける。林師団も限界が来ているだろうしな。」

そう言うと角田は四方に散らばっていった彩雲を再び眺めた。

彼らの活躍が今後の作戦を左右するのだ。

なんとしても敵艦隊を発見してもらう必要があった。




次も頑張ります

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