米太平洋艦隊、奇襲す
結構早く書けたと思います。
次も頑張ります。
米太平洋艦隊、奇襲す
「長官、ミッドウェー近海の潜水部隊から報告です。
我、敵艦隊発見す。ミッドウェー島からの方位二百度距離二百海里。
陣容は空母六隻、戦艦三隻、駆逐艦多数とのことです。」
一九四三年二月二五日、
ハワイ近海二百海里のポイントにいた空母群の司令官サミュエル中将は
笑みを浮かべた。
「ただちにハルゼー長官に報告しろ。敵艦隊が出てきたとな。」
「合流されるのですか。」
「……、いや時間が惜しい。我々だけで叩く。それもハルゼー長官に伝えておけ。
それに軽空母は本国に帰還させろ。軽空母の艦載機は正規空母に搭載しておけ。」
「どうしてですか。」
思わず尋ねてしまった参謀の一人、ダレン大佐をサミュエルはギロリと睨む。
「君の頭には何が詰まっているんだ。
ジャップの空母はこれで全部ではない。
トラック島にいた空母は十二隻。
航空機を新たに本国から輸送してこないと、とてもではないが太刀打ちできん。
それに機動部隊同士の戦いでは鈍足のカサブランカ級は足手まといだ。」
「それはそうですが…。」
煮え切らない口調のダレン参謀にサミュエルは激昂する。
「言いたいことははっきり言え。」
「もうしわけありません。ですが、敵の空母は六隻。こちらの空母は五隻です。
今はひとまずハルゼー長官の艦隊と合流した方がよいのでは。」
「時間が惜しい。」
参謀の言葉を一言で片づけたサミュエルは言葉を補足する。
「今だからこそ、この程度の戦力差で済んでいるのだよ、ダレン君。
まだジャップには六隻の空母が残っているんだ。
そしてそれは明日にでもここに来るかもしれない。
ならば先に空母を叩いておくのがベストだろう。」
「しかし、何度も言うようですが敵の方が空母の数は……。」
「寡兵が勝つ方法は奇襲だ。夜間雷撃をおこなう。」
サミュエルの言葉に艦橋は唖然とする。
「司令、それは不可能です。」
「いえ、大丈夫です。」
そう言ったのは太平洋艦隊雷撃部隊隊長ヘンリー少佐である。
太平洋戦争緒戦では時に全滅することもあった雷撃部隊で生き残ってきた彼は、
米海軍でトップクラスのベテラン雷撃機乗りである。
「我々雷撃隊はこの三カ月、ひたすら訓練してきました。
かならず成功させて見せます。」
「そういうことだ。」
サミュエルはにやりと笑うと艦長に伝えた。
「針路をミッドウェーに向けたまえ。
今夜、ジャップの機動部隊を壊滅させる。」
一方、サミュエルの報告を受けた太平洋艦隊司令長官ハルゼー大将も、
ハワイの海に浮かぶ旗艦「アイオワ」の艦橋で笑みを浮かべていた。
「夜間雷撃か、流石はサミュエルだ。
ミッドウェーではレイとどっちに指揮を取らせるか悩んだが、
サミュエルを選んだほうが良かったかもしれんな。」
あの時は冷静沈着なスプルーアンスを選んだが今回は自分と同じく猛将型の
サミュエル・エバートン中将を空母艦隊の指揮官に選んだのだった。
「しかし、夜間雷撃とは…。成功するのでしょうか。」
「ヘンリー少佐を信じるしかないな。」
「そうですね。」
ハルゼーの手にある腕時計は午前八時を示そうとしている。
今からサミュエルがミッドウェーに針路を取ればおそらく夕方には
作戦行動半径にジャップの艦隊が収まるだろう。
「しかし、全艦隊で出撃しないとはジャップも愚かなことをしたものです。」
「ふ、急ぎの出撃だ。出撃に間に合わない艦艇が出るのは仕方のないことだ。」
「長官は、この艦隊を率いているのは誰だと思いますか。
やはりアドミラル・オザワでしょうか。」
「あの巨大空母がいればオザワだろう。
もしいなければ、ヤマグチかカクタだな。」
その頃小沢中将の艦隊の到着を待つと決めた第三航空艦隊は、
ミッドウェー島近海に留まっていた。
「長官も歳ですかね。」
そう言ったのは第六航空戦隊「大鳳」第一分隊二番機である山下少尉である。
その頭を黙って叩いたのは隊長の工藤大尉だ。
「痛いですよ、隊長。」
「まあ痛いように叩いたからな。角田長官にも考えがあるんだ。
俺達下っ端が文句を言うもんじゃない。」
「敵の方が空母の数が多いんだ。倍以上も違うのにむやみに突撃するのは無謀だよ。」
ぽつりと呟いた三番機の黒江少尉に山下は呆れ顔を向ける。
「しかし、黒江はほんとに物知りだな。倍以上とかそんなことどこで聞いたんだ。」
「……、神埼少佐が言ってた。」
「いつ。」
「今さっき。山下もいたよ。」
ゴツン。
再び山下少尉の頭に拳が振りおろされる。
「お前は喋ってばかりで、本当に人の話を聞かん奴だな。」
呆れ顔で神埼少佐が後ろから姿を現す。
「神埼少佐。偵察機が先ほど発艦したようですが。」
「ああ、敵艦隊を追尾していた偵察機から報告が途絶えてな。
どうやら落とされたらしい。」
「彩雲が報告もなしにですか。」
「敵にも優れた腕前の搭乗員がいるんだろうよ。
それより工藤、ちゃんと山下を躾けとけよ。隊長の役目だぞ。」
「言って、聞く奴なら苦労しません。殴っても聞きませんし。」
「それはそうだな。」
「いいんですよ、俺は、腕はありますし、空では心配かけませんから。」
「……。」
工藤と神崎は呆れた顔をすると待機室を出ていく。
黒江少尉も山下の肩をポンと叩くと待機室から出て行った。
「ちぇっ。」
一人残された山下は不満を晴らそうと顔馴染みの整備員の所へ歩を進めた。
その日の夜。
鬱陶しく追尾を続けていた偵察機を撃墜したサミュエル中将率いる空母部隊は
ミッドウェー島沖南東二百三十海里のポイントに到着した。
敵航空艦隊の居場所は潜水部隊が報告を続けていてくれていたが、
午後六時ごろ敵に察知されたらしく、三時間ごとの通信は途絶したままだ。
だから夜間雷撃をする前に何としても敵艦隊を発見しなければならなかった。
艦橋から祈るように空を眺めていたサミュエルのもとに報告が届いたのは
午後九時の事だった。
報告員が息を切らしながら艦橋にやってくると敬礼し言葉を発した。
「偵察機からの報告です。我、敵艦隊を発見す。
味方からの方位二百二十度、距離二百八十海里。
空母六隻、戦艦二隻、他艦艇多数とのことです。」
「よくやった。偵察員が帰ってきたら溺れるまで酒を奢ってやると伝えてくれ。」
サミュエルはそう言うとただちに雷撃部隊と護衛戦闘機部隊を飛行甲板に呼び出した。
「諸君、敵艦隊はここから方位二百二十度、距離二百八十海里にいると思われる。
なんとしても空母を沈めるのだ。諸君らの健闘を祈る。」
サミュエルの言葉にパイロット達は敬礼で答える。
エンジンの轟音と共に、五隻のエセックス級空母、
「エセックス」「ヨークタウンⅡ」「イントレピッド」
「レキシントンⅡ」「フランクリン」から、
アベンジャー百十機、
F6F七十機が悠然と飛び立っていく。
雷撃機部隊の隊長はヘンリー少佐。
戦闘機部隊の隊長はカイム少佐である。
他にドーントレス二十五機が偵察機として同行している。
どの搭乗員も夜間飛行訓練を何度も行った米軍精鋭搭乗員達である。
夜間ながら完璧な編隊を維持している航空隊を、
サミュエルは見えなくなるまで見つめていた。