海戦の予感
遅くなりました、申し訳ないです。
海戦の予感
第一航空艦隊司令長官小沢治三郎中将は、
第一航空艦隊旗艦「信濃」の艦橋で偵察の為、飛び立つ彩雲を眺めていた。
他の空母からも彩雲が次々に飛び立っている。
その陣営は
第一航空戦隊、空母「信濃」「葛城」「赤城」
第五航空戦隊、空母「翔鶴」「瑞鶴」
第一戦隊、戦艦「大和」「武蔵」を中心とする
空母五隻、戦艦二隻、重巡四隻、駆逐艦十二隻である。
第一航空戦隊の「加賀」は昨日マーシャル諸島近海で米潜水艦の雷撃を受け、
駆逐艦四隻と共に日本本土へ帰港した。
急いでいたための陣形の乱れも雷撃を受けた原因の一つだが、
連合艦隊の対潜戦闘不足こそが根本の原因である。
「先行した第三航空艦隊は今どのあたりかね。」
飛び立った彩雲から視線を戻した小沢中将は参謀長の千早少将に語りかける。
「報告によりますとミッドウェー島から南西二百海里とのことです。」
「そうか。」
それだけ言うと小沢は腕組みをして考え込む。
「どうされました。」
「いや、やはり部隊を二つに分けたのは下策ではと思ってな。」
「仕方ありませんよ、一刻を争う事態でしたから。」
「うむ。」
そう言うと小沢は再び視線を外に向けた。
連合艦隊及び軍令部から出港許可が出たときに正規空母群ですぐに出港できたのは、
第六航空戦隊と第二航空戦隊だけだった。
第一航空戦隊及び第五航空戦隊はドックで船体の補強、修理を行っており、
すぐさま出港することはできなかった。
小沢が本土にそのことを打診すると帰ってきたのは、
動ける部隊を先行させろとの命令だった。
そのため、角田中将率いる第三航空艦隊は、
第一航空艦隊より二日ほど早くトラック島から出港しているのだった。
第三航空艦隊の陣営は
第二航空戦隊、空母「蒼龍」「飛龍」
第六航空戦隊、空母「大鳳」「海鳳」
第七航空戦隊、軽空母「隼鷹」「大鷹」
第三戦隊、戦艦「榛名」「比叡」を中心とする
空母六隻、戦艦二隻、重巡二隻、駆逐艦十隻である。
搭載機数はおよそ三百機。
ハワイにいる米軍の空母数は報告によると十三隻。
ハワイ航空部隊との交戦により艦載機数がある程度減ったとしても、
どう考えても第三航空艦隊だけでかなう相手ではないと小沢は考えていた。
「我が部隊が合流すれば米艦隊とも互角にやり合えます。
今は潜水艦に気を付けつつ一刻も早く角田長官と合流すべきです。」
「分かっている。」
小沢はそれだけ言うと口を閉じた。
「現在地は。」
「は、ミッドウェー島から南西およそ二百海里になります。」
「分かった。」
第三航空艦隊司令長官角田覚治中将はそう言うと瞑目しながら言葉を続けた。
「報告によると秋山大将は戦死したそうだな。」
「はい、小松少将と共に米軍陣地へ突っ込み散華されたそうです。
確か長官は秋山大将とは同郷でしたか。」
「ああ。」
「それは……。」
言葉を失う副官を見て角田は苦笑いをする。
「気を使わんでいい。心配せずとも戦に心情を持ちこむようなことはせんよ。
林少将が持ち堪えれるようなら小沢長官が来るまで待つつもりだ。」
そう言うと角田は第三航空艦隊旗艦「大鳳」の艦橋から同型艦である「海鳳」を眺める。
排水量三万三千トンを誇る大日本帝国海軍初の装甲空母である二艦は、
角田にとって共に闘ってきた戦友だった。
後方には信頼できる第二航空戦隊司令官山口多門少将がいる。
「我が艦隊だけで突入するのは無謀でしょうか。」
参謀の一人青山大佐が角田に尋ねる。
「無謀だろうな。たとえミッドウェーの航空隊を合わせたとしてもこちらは五百。
あちらは空母が十三隻だ。控え目に考えてもこちらより機数は上だよ。」
「しかし、質で考えればこちらが上です。」
食い下がる参謀に角田はゆっくりと言葉を続ける。
「確かに現在の搭乗員の錬度は向こうを上回っているだろう。
だが、この戦争はいつ終わるかまだわからんのだ。
むやみに突入して熟練の搭乗員を失わせるわけにはいかんのだよ。」
見敵必戦の角田にしては珍しく消極的な言葉である。
だがその言葉は正しいと言えた。
現在米国では搭乗員の訓練が急速に行われている。
来年の頭には二万五千人の搭乗員が誕生する。
一方、日本は三千人に満たない。
実に八倍以上の差である。
国力の差は至る所に出ているのだ。
参謀が黙り込むのと同時に報告が飛び込んできた。
「山口司令からです。ミッドウェーの偵察部隊からの報告によると、
現在敵艦隊はハワイ島から方位二百八十度距離二百海里、
及び方位百四十度距離百十海里の二手に分かれているとのことです。」
「それぞれの戦力は分かるのか。」
「ええ、方位二百八十度の方は空母多数及び駆逐艦多数。
方位百四十度の艦隊は戦艦四隻、重巡多数を中心とする部隊とのことです。」
「上陸部隊を運んできた輸送船団もいるはずだがそちらの行方は分からんのか。」
「そのようですな…。」
「うむ、分かった。敵も二手に分かれているのか。」
角田は机をトントンと指で叩き始める。
なにか考え事をするときの角田の癖だった。
「小沢さんが来るのが二日か。
敵の部隊もその頃には合流しているだろうな。
総力戦になることは否めないな」
机を叩くのを止め角田は並んでいる参謀達に視線を向ける。
「やはり、小沢長官の艦隊を待つ。
山口君、吉良君にも伝えてくれ。」
次はそこそこ早く出せると思いますので。
頑張って更新していきます^^