ハワイ航空戦の最期
遅くなって済みませんでした。
もっと頑張ります。
ハワイ航空戦の最期
「くそっ、神谷少佐がやられたぞ。」
霧島大尉の声に安藤少尉は思わず周囲に視線を向ける。
すると左下に神谷少佐の零戦が見えた。
煙が上がっていてかなり見えにくいが脱出はしていないようだ。
「神谷少佐、脱出してください。」
無線機を持ち大声で叫ぶが神谷少佐の声は聞こえない。
それでも安藤は声を荒げ叫ぶ。
その隙をついて安藤を攻撃しようとした一機のアブを霧島大尉が叩き落とした。
「落ち着け、安藤。神谷少佐はもう駄目だ。
神谷少佐だけじゃない。残りの味方機はもう二十機も無いんだぞ。
気をしっかり持て。」
霧島大尉の説得にも応じず、安藤は声を上げることを止めなかった。
「神谷少佐。」
「何だ。」
かなり雑音が混じっていたがその声は確かに神谷少佐だった。
「よかった。早く落下傘で脱出してください。」
「無駄だ。」
いつもの神谷の声とは違う荒々しい声が雑音の中から聞こえてくる。
「どうしてですか。」
「脱出した所で助からん。安藤、貴様は生き……。」
そこまで言った所で神谷少佐の零戦は再び敵機の機銃を浴び、四散した。
思わず煮えくりかえりそうになる腹を安藤は必死で抑えようとした。
空戦は熱くなったものから死んでいく。
あまり喋らない神谷が珍しく良く言っていた言葉である。
安藤はしばし瞑目する。そして眼を開いた。
「無理みたいです、少佐。」
安藤はそう言うと機体を一気に急降下させた。
進入角度は九十度近い。
いくら頑丈な烈風でも無茶な急降下だった。
「やりましたね、少佐。」
ジークを落としたディクソン中尉の声にカイムが返事をしようとしたその時だった。
上空から凄まじい進入角度で突っ込んでくるアーサーをカイムの眼は捕らえた。
「避けろ、ディクソン。」
カイムの怒声に反射的に旋回したディクソンだったが敵機はそれを読んでいたらしく、
二十ミリ機関砲をディクソンのF6Fに直撃させた。
スイカが潰れるような音が無線機から聞こえカイムは唇を噛み締めた。
どうやらジークを潰して油断していたようだ。
「ディーン、こいつは俺だけでやる、手を出すな。」
もう一機の列機であるディーンにカイムは告げる。
「了解しました、少佐。」
それだけ言うとディーンは高度を上げる。
カイムの腕を信頼しての行動だった。
カイムは機体を上昇させつつ旋回させる。
そして、ディクソンを殺したアーサーと同高度にまで機体を上昇させると
ジークの時と同じように安藤の烈風に躍りかかった。
ディクソンを落とした安藤は上昇し、躍りかかってきたアブを上手く避けると、
烈風特有の力強い旋回で敵機の後方に付いた。
零戦よりは格闘戦性能に劣っているとはいえ、烈風も大日本帝国軍の航空機である。
それなりの格闘戦性能は持っている。
安藤の烈風とカイムのF6F、互いが旋回し、チャンスを狙う。
その間に次々と周囲の烈風が落とされていく。
霧島大尉の無線も聞こえなくなった。
ふと気付いてみれば上空に残っている日本機は安藤機ただ一機のみであった。
空にはいたるところに落下傘の花が咲いている。
霧島大尉はちゃんと脱出できたのだろうか。
怒りに燃える安藤の脳裏に一瞬そんな事が浮かんだ。
それと同時に鈍い音が機体に響いた。
機体内に火災が広がる。
機体を急降下させ、消火しようとするが、火の手は収まらない。
「くそっ、くそっ。」
後ろに置いてある落下傘に火が燃え移るのも時間の問題だろう。
機体を捨て脱出するなら今しかなかった。
神谷少佐の最期の声は確かに安藤に生きろと言っていた。
安藤は唇を血が滲むほど噛み締めると落下傘を手に取り、装着した。
一瞬の隙をついて機銃を浴びせたカイムは口から安堵の息を漏らした。
急降下を始めた敵機から落下傘が飛び出てくる。
戦争の観念から考えると機銃を浴びせた方がいいのだろうが、
カイムにはそれがミッドウェーの時の自分とダブって見え、
攻撃することができなかった。
「日本軍機、全機撃墜、これより帰艦する。」
ハワイ基地への爆撃の成功、及び航空戦力の撃滅の報を聞いた、
新太平洋艦隊司令長官ハルゼー大将は発艦からしていた腕組みを解いた。
「良くやった。我が軍の損害は。」
「はい、F6Fが百十機、ドーントレス二十八機、アベンジャーが三十機です。」
副官の報告にハルゼーは眉間に皺を寄せる。
「予想より被害が多いな。動かせる機数は五百そこそこか…。
まあいい、整備を完璧にしておけと伝えておいてくれ。」
「了解しました。」
「明朝になり次第、戦艦部隊の艦砲射撃と航空機攻撃を同時に行う。
それが終わり次第、上陸開始だ。陸軍の連中にもそう伝えておいてくれ。」
「了解しました。」